奈落
「………死ぬかな」
ボソリと呟く。当然ながら、たった一人のオレに返答する声はない。
すでに落ち始めて三十秒以上が経過している。気にもしなかったが、この谷はかなり深いらしい。
「…………………」
初めて他人のむき出しの感情をぶつけられた。その事実に、頭は動揺をきたしている。だが、同時に、今まで感じたことのない怒りが全身を支配していることも確かだった。
あの男は、アサヒが危ないかもしれないというのに、オレを攻撃し、オレがアサヒのところへ帰るのを邪魔した。
今は、その怒りに身を任せる。
「………絶対に殺す」
奈落の底が見えてきたところで、オレは特大の火球を作り、地面に放つ。
「ぐっ………」
―――すると、特大の爆発が発生。全身を焼く熱風が下から舞い上がり、落下の速度を緩める。
そう、剣崎がやったことだ。腹が立つことこの上ないが、オレが助かるのはこれしかないと踏んだのだ。
しかし、今度は肉壁となる者がいない。自身が起こした爆発で、オレは全身を焼かれる。そして、落下のスピードを殺しきれなかったオレは、見事に足元から落下。
左足から異音を響かせながら着地。
「ぐっ――――――ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
火傷の痛みと、おそらく骨折したであろう左足の痛みが混ざり合い、地面にのたうち回る。だが―――
生き残った。
地面にみっともなく転がりまわりながら、それでもオレはこの痛みが、生きている証左だと確信していた。
「クソがッ………生きたぞっ!! ざまみろクソが!!」
しかし、そんなオレをあざ笑うかのように、ソレは現れた。
『グルルルゥゥゥゥゥゥゥ………』
ひとことで言うならば、岩のトカゲ。
全長六メートルはある。岩石と見まがう皮膚、真っ赤な瞳に細い獣の瞳孔。そんな異形がオレを覗きこんでいた。
「………余韻ぐらい浸らせてくれ」
次の瞬間、オレは火球をトカゲの頭に向かって放つ。魔族ですら一撃で葬った魔法は、けれど、トカゲを貫通することはなかった。
「………見掛け倒しじゃない」
『グルゥゥゥアアアアア!!』
当然の如く、怒り出すトカゲ。思いっきり食いつこうとするのが見えたため、全力で地面を転がる。
ガチンッ!! という恐怖の音を背中に聞き、冷や汗を流しながら、オレはもう一度魔法を行使する。今度は熱線ではなく、火球だ。
「これでも食ってろよ」
強烈な爆発が、トカゲの顎下にヒット。
『ギャァァァァァァァァァァ!!』
岩の皮膚が砕け、生々しい肉が露出する。オレはそこを狙い―――
「これなら通るだろう!!」
今度こそ、熱線がトカゲの脳内を、文字通り打ち抜き、絶命させた。
「はっ…………………ざ、まぁ………あ………」
と、同時に、オレの意識も限界を迎えて、オレは視界の光を手放した。
閲覧いただきありがとうございます。
あとがきは毎回何を書こうか迷ってしまいます。
ただ、個人的に全く関係ない話をしてもいいのかなぁ、なんて適当なことを考えているので、本編と全く関係ないこと書いてても見逃してください。