旅路:旅の隙間 ニ
「お姉ちゃん、食べすぎだよ! また追加料金取られかけてたじゃん!」
「すいません………スープがおいしくて………―――あっ、おいしそうな屋台がありますよヴェール」
「まだ食べるの!?」
現在地、『カロンド』という街。
大きめの街で、乗合商業馬車は現在、物資の補給と、客の乗り換えを行っている。―――昼過ぎには出発するというので、それまで時間の余った三人は、街を観光しに来ていた。
「………なんか随分仲良くなったね?」
お互いの呼び方が変わっているシュケリとヴェールに、少し置いてけぼりになったような感覚に陥りながら、前を歩く二人に声をかけるヨミヤ。
「ふふん。いいでしょ! お姉ちゃんはヨミヤには渡さないんだから!」
「渡さないって………シュケリさんはモノじゃないんだからやめなさい」
「ふふーん、ヨミヤはお姉ちゃんが要らないんだ!」
「なんでそうなるの?」
「ヨミヤ様は私が要らない………!?」
「なんでそうなるの!?」
割と本気でショックを受けている顔をしているシュケリに、ヨミヤは少しため息をつきながら言葉を紡いだ。
「『要らない』だとか、『嫌い』だと思ってたら一緒に旅なんてしないよ………ヴェールの冗談なんだから真に受けないでよシュケリさん」
「そ、そうでございますか………」
「そうだよ………」
顔の言いシュケリに、上目遣いで見つめられたヨミヤは、少しだけ顔が熱くなるのを自覚しながら顔を背けた。
「お姉ちゃんを取らないでよぉ! ねね、今度はあのお店行こう!!」
ヨミヤとシュケリの間に何を感じたのか、ヴェールは二人の間に入るとシュケリの腕を引っ張って歩き出す。
「ヴェール。そんなに引っ張らなくてもちゃんと一緒に居ますよ」
「うん! ―――ヨミヤもちゃんとついてきてね!」
「はいはい。お嬢様方の仰せのままに」
微笑みを浮かべ、ヨミヤは二人の後ろをついて行く。
そして、たどり着いたのが、大通りに並ぶ、一軒のお店だった。
「服屋………でございますか」
「見るだけでも楽しいでしょ?」
「………服買うなら、お金出そうか?」
お金に割と余裕のあるヨミヤは、そんな提案を二人にするが、ヴェールもシュケリも首を横に振る。
「ダメですよヨミヤ様。今現在、衣服には特に困ってはおりません。………無駄に荷物を増やすわけにはいきません」
「それに、自分たちの服をヨミヤのお金で買うのも申し訳ないしね………」
「そ、そう………?」
意外としっかりしている二人に、少しだけ圧倒されるヨミヤだった。
「うわぁ………いっぱいある………」
木造の店内に入ると、中は意外に広く、奥にカウンター、右の壁際にある試着室を覗けば、三十メートルほどある店内すべてが売り場だった。
「オレ、店内適当に見てるから、二人で楽しんでおいで」
「わかった!」
男性用と、女性用で売り場が分かれているのをみたヨミヤは、左側の男性用の洋服売り場を物色し始めた。
※ ※ ※
「この服、可愛いけど………買わないのに、着ちゃだめだよね?」
「そうですねぇ………あまり良くないかもしれませんね」
服を見始めてから二十分が経過した頃。
二人は、ヴェールに似合いそうな服を見つけて、盛り上がっていた。
「サイズはぴったりですね」
「似合うかな?」
「ええ、きっと似合います。―――私的には、こちらも似合うかと」
「わぁ、その服も可愛いね!」
そんな二人へ、一人の女性が近づいてくる。
「何かお探しですかぁ?」
若い女だった。髪をお団子にまとめた人当たりのよさそうな女性だ。
「ああ、いえ。購入を検討しているわけではないので、申し訳ないのですがお気になさらないでください」
「そうなんですね~、もしかして旅の方とかですか~?」
女性は会話を続けるつもりらしく、そんな女性に、ヴェールは警戒しているのかシュケリの後ろに隠れる。
「そうですね、乗合商業馬車の補給のために少し立ち寄ったので、今は観光して歩いております」
「なるほどぉ~、じゃあこの街に来た思い出に、そちらの服………試着してみてはいかがですかぁ~?」
「よいのですか? 荷物になるので、購入することはないのですが………無駄に服を汚すことになりません?」
「いいですよぉ~、是非ご試着くださぁい」
店員らしき女の言葉に、シュケリはヴェールに視線を送る。
「ヴェール………着てもいいそうですが、どうしますか?」
「………着てみたい」
「わかりました」
それだけやり取りすると、シュケリは店員に向き直った。
「では………お言葉に甘えて試着させていただきます」
「よかったです~、試着室はご自由にお使いくださぁい」
店員の女に軽く会釈をしながら、シュケリは試着室の扉を開ける。
中は、完全な個室になっており、人二人が入るのがやっとの広さだった。
「お姉ちゃん、ちょっと、この服、着方が難しそうかも………」
「そうですか? ………では、私がお手伝いしましょう」
大人びているとはいえ、まだまだ幼いヴェールにシュケリは微笑みながら、中へヴェールを誘導し、自身も中に入り、カギをかける。
「では、ヴェール。着替えてみましょうか」
「うん!」
いざ、服を脱ごうとしたその時だった。
ガチャと、扉とは反対の壁が開いた。
「「!?」」
刹那、開いた壁の向こうから二人の男が飛び出し、二人の口元を押さえ、壁の中へ消えていった。
そして、部屋の中には誰もいなくなった。
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眠いです