旅路:旅の隙間 イチ
「何してるのヴェール?」
魔法の検証後、広場に戻ってきたヨミヤは、露店を開いている商人の前で固まっているヴェールを見つけ、声をかけていた。
ちなみに、ハーディは、食料を食い尽くさんとするシュケリを観察している。………―――シュケリの食欲は、結構な大騒ぎを作っている。
一般の乗客がシュケリの食欲に若干引いていて、傭兵たちが、彼女のいい食いっぷりに『まだいけんのかスゲェな嬢ちゃん!』とはやし立て、乗合商業馬車の関係者が『これ以上食べるのなら追加料金を取りますよ!!』なんて騒いでいた。
………まぁ、本人はその中心で無表情で食料を食い続けているのだが。
「うん………ちょっとね………」
ヨミヤは、よくヴェールを観察する。すると、その視線が一点に集中していることに気が付く。
「このネックレス………欲しいの?」
ヨミヤが手に取るのは、桜色の塗装がされたダブルリングのネックレス。
それを、ヴェールへ見えやすいように、彼女の前へ持ってくる。
「えっ………!」
ヴェールは、どうやらヨミヤの言葉が図星だったらしく、驚いた表情で少年を見つめていた。―――そして、少しうつむいて顔を横に振る。
「………違うの。―――そのリング、シュケリさんの髪の色にそっくりだから、似合いそうだなぁって思って」
「ほうほう………」
ヴェールの話が、想像していた話の展開とは違っていたヨミヤは、とりあえず彼女の言葉に耳を傾ける。
「でも………私じゃ高くて買えないから………見てた」
「いじらしいなぁ………」
要は、ヴェールはこのネックレスをシュケリにプレゼントしたいらしい。
思ったよりもヴェールがいい子であることに、ヨミヤは胸の奥がキュン………となる感覚を初めて味わった。
「………オレが買ってあげることもできるけど………どうする?」
そんな心情を澄ました顔で隠すヨミヤは、そんな提案をヴェールにしてみるが、
「ううん。―――自分で貯めたお金で買ってあげたい」
「そっか………」
「ちょっ………撫でないでよ………」
少年は微笑んで、ヴェールの頭をそっと撫でる。
「おじさん」
そして、ヨミヤは露店の店主に声をかける。
「………えっ、なんだい?」
シュケリの起こす騒ぎを見ていた店主は、ヨミヤの声に少しだけ驚いた顔をしながらも対応する。
「このネックレス、取り置き………できないかな?」
「ずっと売れ残ってるモノだからいいけど………手持ちがないのかい? 値下げしてもいいけど?」
「いや、いいんですよ。―――彼女が自分で稼いだお金で買いたいらしいので」
「ちょっ………な、なんでそんなこと言っちゃうの!?」
あわあわと慌てだす少女に、店主は何かを察したのか、ニッコリと笑顔になる。
「そうかい………わかった。『ランスリーニ』の『バンリニ商会』本店で保管しておくから、いつでもおいで」
「あ、ありがとう………ございます………」
若干、人間と話すのが怖いのか、ヨミヤの影に隠れながらも、少しだけ顔を出してヴェールは店主へお礼を述べた。
※ ※ ※
夜。
馬車の中を、就寝用にした後、シュケリ、ヴェールは眠りについていた。
ちなみに、ハーディにはハーディの馬車があるため、そちらで寝ている。そして、ヨミヤは今も外で魔法の勉強をしていた。
「シュケリさん………起きてる?」
「どうされましたか………ヴェールさま………」
二人はそれぞれの毛布にくるまって寝ていたが、不意にヴェールが寝ているシュケリへ声をかける。
シュケリも、寝ぼけ半分ながらもしっかりとヴェールへ対応する。
「一緒に寝よ………?」
「ふふっ………いいですよ」
シュケリは少し自分の毛布を持ち上げ、ヴェールを招きいれる。ヴェールもゆっくりと彼女の毛布の中に入り込み、そして、ぎゅっとシュケリへ抱き着いた。
「好きですねヴェール様も………」
「うん………あったかいんだもん………」
「………それはよかったです」
お互い、目を閉じながら、抱き合う。
鼓動が一つに重なっているような錯覚に陥り。ヴェールはゆっくりと眠りの底へ落ちようとしていて―――
「ヴェール様」
不意に、シュケリの声が耳に響く。
「なぁにシュケリさん」
「なぜヴェール様は………何故そこまで私を好いてくださるのですか………?」
いつも義務的なシュケリにしては、少し感情のこもった声にヴェールは聞こえた。―――しかし、そんなことを気にもせず、ヴェールはゆっくりと口を開く。
「………冷たくて、寒くて、死んじゃいそうな牢屋の中で、背中を拭いてくれたシュケリさんの手が温かかったから」
ヴェールは、シュケリの体温を感じるかのように、さらに強く彼女を抱きしめる。
「………痛くて、辛い傷を、シュケリさんが丁寧に手当してくれたから」
ヴェールはシュケリの胸に顔をうずめる。
「………シュケリさんだけが、私と向き合ってくれたから」
「でも、私は………ヴェール様の現状を………あなたが奴隷であったあの状況で何もできなかった」
「そんなことない」
シュケリの言葉を、ヴェールはすぐに否定する。
「確かに、私を開放してくれたのはヨミヤかもしれない―――ヨミヤには返しきれない恩がある」
ヴェールはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「でもね、ヨミヤが来るまでの間、私に温もりをくれたのは―――シュケリさんなんだよ?」
「ヴェール様………」
いつも無機質な瞳のシュケリ。―――そんな彼女の目に、確かに煌めきが宿った。
「だからね、シュケリさんが大好き!」
「………私もでございますヴェール様」
確かに、シュケリがヴェールを抱き寄せた瞬間であった。
「ねぇ、シュケリさん」
「なんですかヴェール様」
お互いの温もりを感じあう二人は、そのまま会話をし始める。
「わがまま言っていい?」
「いいですよ」
「やった」
シュケリの胸の中で、『えへへ』とヴェールが笑う。
「『お姉ちゃん』って呼んでいい?」
「ふふ………私は姉ではありませんよ?」
「知ってるもん! 私がそう呼びたいだけだもん!」
「ふふふ、そうでございますか………いいですよ。ヴェール様のお好きなようにお呼びください」
「じゃあ、お姉ちゃんも私のこと『ヴェール』って呼んでね!」
「えッ………………そ、それは………」
「はい決定!」
「え、えぇ!?」
「じゃあ、『ヴェール』って呼んでみて!」
「ヴェー………ルさ………ヴェー………ル―――ヴェー、ル」
「えへへ………なぁにお姉ちゃん!」
満月の夜に、確かに絆を深める少女達であった。
閲覧いただきありがとうございます。
普通のカップリングも好きですが、おね×ロリも割と好きだったりします。