旅路:馬車とエルフと少年少女 ヨン
「えっと………呪文法………術式法………この形の解釈は―――」
「ちなみに~、この形、ここをこうゆう感じで切り取れば、『豊かな実り』だとか『財産・家畜』っていうルーン文字が現れるから」
「ちょ、ちょちょちょ………待って、まだ理解しきれてないから………」
「ほれほれ、頑張れぇー。その先には古代文字の解釈もあるし、『混合様式』の解釈も待ってるよぉ~」
乗合商業馬車に乗ってから二日目の夜。
乗合商業馬車は草原の真ん中で停止。傭兵達が防衛しやすくするため、馬車が円形の形を取って止まっていた。
ヨミヤとハーディは中央に作られた焚火の前に座り、昼間から続く魔法講座を続けていた。
「まぁいいやぁ。一度先に進めるのやめて、さっき教えた魔法、使ってみ」
オヤジのように腕を枕にして寝転がっていたハーディは、自身の鉄の本をヨミヤに手渡す。
「わ、わかった………」
ページをペラペラとめくるヨミヤは、目的の術式を見つけ、そっと指でなぞり………自身の解釈を構築する。
「『探知』」
唱える魔法は、周囲に自身以外の生命体を見つける魔法。
魔法名を発動した少年は………次の瞬間、自身の脳みそに直接『赤い点』が浮かんでいるような錯覚に陥る。
「うわっ………なんだこれ………」
「ああ、それねー、へんな感じだよねー」
ヨミヤは直感的に、この場に、どれだけの人間がいるのかがわかる気がした。
「まぁ………でも、これがきっと………」
―――おそらくこの感覚が『探知』というものだろうとヨミヤは結論づける。
「『やってみて』なんて言ったわいいものの………魔法自体が地味すぎて参考にならんねぇ………」
ハーディはおそらく、『領域』で発動した魔法と、普通に発動した魔法を比べたかったのだろう。しかし、発動した魔法は効果自体が目に見えないもので、違いがわかりずらいと思ったようだ。
「ダメだ。ヨミヤ君。さっき教えた『追跡』はあとで使ってぇー」
「えぇ………教えてくれた魔法使うのかと思ったんですけど………」
「ごめんねぇ、『領域』の魔法と普通の魔法の違いを見たかったんだけど………地味すぎて!」
カラカラと笑うハーディ。
ヨミヤは、大きいことでも、些細なことでもこうして振り回してくるエルフに辟易しながら素直に指示に従う。
結局、広場を離れ、火球で、魔法の検証をすることになった。
ちなみに、ヨミヤが『広場を離れる』となったとき、傭兵に『兄ちゃんなら平気だな』なんて、信頼されていた。
「『スォル・ウズル・エワズ』―――火球」
まずは、呪文を唱える火球。
それを、少し離れた平原に打ち込む。―――普通に魔力を込めた火球は、それなりの爆発を起こし周囲の草を燃やし始める。
「………」
その様子のつぶさに観察していたハーディは、しばらくして水流の魔法を使い一帯の消火を行った。
「それじゃあ、次は『領域』で発動します」
威力の検証もあるため、今度は別の方角に火球を再現。先ほどと同じぐらいの火球を打ち出す。
すると、先ほどとは一目で違うとわかる程度には威力が増していた。
「………………なるほど」
考え込むハーディは先ほどと同じように火を消火。
「………」
そして、ジッとヨミヤを見つめ始める。
「な、なんですか………?」
「ごめん、もう一度『領域』のこと教えて」
「? 別にいいですけど………」
いったい何に疑問を抱いているのかよくわからないヨミヤだったが、魔法を教えてもらっている身なので、素直に従う。
「自分を中心として半径五メートル………いや、今は六メートルの範囲に、使ったことある魔法を『再現』します。………魔力を込めることも可能なので、『最初に行使した場面の再現』というよりは、完全に『魔法自体の再現』ですね。消費魔力も抑えられているみたいで、同じ魔力を込めて撃った火球が強くなったのは、それが原因かと」
「なるほどねぇ………まさに領域の中なら『なんでもアリ』ね。長年魔法を研究してきた身としては―――狂ってるわ」
『ハハっ………』と力なく笑うハーディ。そんな彼女は『はぁ………』とため息をつきながら言葉を続ける。
「『魔法の発射地点を自由に設定できる』なら、『地面の中』はどうかしら?」
「えっとですね………」
『地面から撃つ』という発想がなかったヨミヤは、ジッと目を閉じ、自身の領域を感じ取る。が―――
「ダメそうですね………地面の中に『領域』が伸びてる気がしません………」
「だよねぇ。実はアタシもそう思ってたぁ」
「…………………」
ハーディのそんな言葉に、『なんで聞いたんだ』なんて思いながら、何か知ってそうなハーディの言葉を待つヨミヤ。
「地面の中には、『地脈』ってのが流れてて、魔力の塊があるのよぉ。多分その魔力の塊がヨミヤ君の『領域』が伸びるを阻害してるんだよ」
「なるほど………?」
理解できそうで、ギリギリ理解していない感じのヨミヤの表情に、若干苦笑するハーディ。
「まぁ、でも、ヨミヤ君の『領域』のイメージは大体わかったわ」
「そうですか? それならよかったですが………」
「ええ。………だから、これからはもっと気合を入れてヨミヤ君に魔法を教えるわ!!」
「………お手やわらかにお願いします」
学校の成績が赤点ギリギリだった少年は、思わぬところで頭を使ってこなかったツケを払わされることになった。
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明日休みなのに、とある業務をするのを忘れてきました。対ありです。