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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編

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旅路:馬車とエルフと少年少女 ニ

「も、申し訳ありませんカージナル様………め、『メインプラン』を取り逃しました………」


 とある町の民家。


 ただの庶民の家であるその場所は、今は床一面が()()()と化していた。


 原因は、部屋の中央に積み重ねられた死体の山。男性・女性、老人・子ども………あらゆる人間の死体が部屋の中央に積み上げられていた。


 そして、その山に腰かける影が一つ。


「あぁ? やっと見つけた『メインプラン』だろう? 何してんだ使えねぇ」


 薄暗い部屋のせいで、服装までハッキリと見えないが―――特徴的な部分………他の暗殺者とは異なる、口元のみが露出している仮面をつけていた。


 その部屋の入り口にいる仮面の暗殺者―――ヨミヤとシュケリを牢で襲った男たちは、死体の山の上の影に戦慄していた。


「も、もも、申し訳ありません………『メインプラン』と共にいたガキがかなりの実力者でして………」


「魔法らしき攻撃をあらゆる場所から撃ってくる能力(ギフト)の持ち主でした………」


「ふーん………」


 死体に座る男は、仮面に覆われていない口元をつまらなさそうに曲げる。


「てめぇらがしっかりしねぇと、オレが『あの方』の期待に応えられねぇだろうが」


 不満そうな言葉。


 しかし、男の口元は先ほどとは打って変わり―――言葉とは裏腹に、酷く歪んだ笑みを作っていた。


「使えねぇ部下は、『殺処分』にでもしちまおうかぁ………?」


「ㇶ、ㇶィ………!!」


「お、お待ちください………!!」


 部下の二名は、恐怖によって、血の海に腰を落としてしまう。


 口元を露出する暗殺者―――半仮面の男は、肉塊と化した人間の山からゆったりと下りてくると、恐怖で動けない部下の元に歩み寄る。


 しかし………


「いやダメだ………『あの方』に頂いた大事な人材だ………殺しちゃいけねぇ………あぁ………でも、でもでもでもでも………………ッ!!」


 突然、片手で頭を押さえたかと思うと、ブツブツと何かを呟き始める。


「殺したいぃ………殺しちゃだめだァ………あぁ………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」


 そして、血だまりに膝をつき、両手で頭を押さえ始めた。


「どぅうううぅぅうぅぅうぅぅぅうぅぅう!!!!」


 やがて、男は口を大きく開けて―――()()()()()()()()()()


「フーッ、フーッ、フーッ、フーッ」


 息の荒い男は、次第に落ち着きを取り戻し―――


「………いい。行け………次の失敗は許さねぇからな」


 出血で汚れる腕から口を放し、口角を下げながら部下に冷徹に指示を出した」


「「は、はぃ………」」


 目の前の出来事が理解できていない男たちは、けれど、恐怖に身を支配されながら、その場を後にした。



 ※ ※ ※



「馬車の中であれば、襲撃されることもありません。―――たとえ、襲撃があったとしてもすぐに起こしますので………どうか休んでください」


「そうだよ。ヨミヤ、目がすごいことになってるよ………?」


 馬車の中でも、相変わらず気を張っていたヨミヤに、シュケリとヴェールがそんな言葉をかけて、少年は渋々身体を休めることにした。


 ウラルーギとの旅でも、馬車の揺れになれなかったヨミヤだったが………この時だけは、一瞬にして寝落ちてしまった。


 三日分の睡眠不足を取り戻すかのように深い眠りについた少年が意識を覚醒させたのは―――夕暮れ。


「………………なんでオレ、シュケリさんに膝枕されてんの?」


「それは、ヨミヤ様が私の肩に寄り掛かってきたからですね―――寝づらそうだったので、この態勢にして差し上げました」


「そっか………………なんかごめんね?」


 後頭部の柔らかさを実感しながらも、少しだけ顔を赤くしながら起き上がる少年。


 シュケリはそんなヨミヤを見つめながら、今の現在地を少年に伝える。


「現在は、初日の野営地点に到着していて、ほとんどの方々が、馬車を降りて自由行動をしております」


「魔獣が出ることがあるから、あんまり遠くには行かないで欲しいんだって」


 シュケリに外に出るのを止められていたのだろう。ヴェールはジッと外を見つめながら、御者が言っていたであろう注意事項を伝えてきた。


 そんなヴェールの様子をみたヨミヤは、意識をしっかりと覚醒させるために軽く頭を振りながら、口を開く。


「わかった。………………オレ達も外に出てみようか」


「うん!」


 ちなみに、ヨミヤ達の乗っている馬車は、天幕で外と中を区切られていて、中は、天幕の出入口から御者の居る出入口までの大きさのイスが置かれているだけの簡素なつくりだ。


 そんな馬車を三人で出る。


 場所は―――荒野と草原の境目といったところだった。


 青々とした雑草が生えていると思えば、枯れはてた草木があったり、乾燥した地面がむき出しになっているところもあった。


 人間三人分ほどの高さの岩があり、馬車はその対面に止められている。そのため、この一角だけ、外界から視界を遮られるようになっていた。


 そんな円形の広場に、馬車に乗っていたであろう人たちが思い思いに過ごしていた。


 馬車の中で待機する人、外に出て誰かと話している人、野営の準備をしている人………自分の持ち込んだ商品を売る商人もいた。


 そんな馬車の所々に、鎧を着た人間―――馬車の護衛で同行している傭兵がいる。


「………事前にウラルーギさんに乗合商業馬車(キャラバン)がどんなものか聞いてたけど、実際に見るとすごいね」


「そうですね………やはり、『聞く』のと、『見る』のでは全然違います」


 ヨミヤとシュケリが目の前の光景に圧倒されていると、不意にヴェールがシュケリの服をチョイチョイと控えめに引っ張る。


「ねね、シュケリさん。売り物見に行かない?」


「ええ、いいですよ。―――ヨミヤ様も行きましょう?」


 シュケリの誘いに、ヨミヤも頷き、二人の後ろをついて行く。


 そんな時だった。



『ギュィィィィィィィィィィイィィィィイィ!!』



 上空から、およそ生物とは思えぬ絶叫が響いた。


「「「!?」」」


 その場の全員の視線が上空に集まる。―――その先には、翼をもった魔獣がいた。


 人間の身体に翼を生やしたようなフォルムに、獅子の頭を持つ魔獣だ。


「「「キャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」」」


 人の悲鳴が響き渡った。


 御者と傭兵が『馬車に避難しろ!』と指示を飛ばす。


「シュケリさん、ヴェール!! 走って!!」


 上空に警戒をしながら、二人へ声を飛ばすと、シュケリさんが咄嗟にヴェールを抱えて馬車へ走り出す。


「………っ」


 二人を守りながら、襲ってきた魔獣の位置を確認する。


 魔獣の数は十………正確には十三匹確認できた。


 幸い、魔獣たちはシュケリやヴェールを狙ってはいなかったため、すぐに二人は馬車の中に避難できた。


「………っ」


 馬車の天幕を閉じながら、自分はどうするべきか考える。


 相手は、上空から襲ってくる魔獣のため、傭兵たちは苦戦を強いられている。


 おそらく、今、ヨミヤが手を貸せば簡単に魔獣を制圧できる。―――しかし、今ヨミヤは帝国中に指名手配中で無闇に目立つような真似は愚策だ。


「クソ………」


 自分の中の葛藤とヨミヤが戦っていると、不意に、とある光景が少年の目に飛び込んできた。


「う~ん………お酒ぇ………」


 円形の広場の真ん中で、例の酒臭いエルフが寝転がっていたのだ。


『ギャァ!!』


 そこへ、魔獣が襲い掛かる。


「何やってんだよ………ッ!!」


 咄嗟に熱線を再現するヨミヤ。


 熱線は一直線に魔獣の頭部を貫き―――絶命した魔獣がエルフの上に落下した。


「ぐえっ!」


 思ったよりも重そうな魔獣が落下してきたことで、飛び起きるエルフ。


「あによぉー………って、なんじゃコレ?」


 無造作に、上に乗っている魔獣の死骸を適当に放り投げると、周りの状況を確認するエルフ。


 一方、今のヨミヤの一撃を見ていた傭兵が、ヨミヤに近寄ってくる。


「おい、兄ちゃん、手を貸してくれ!! あとで金を渡すからよぉ!!」


「………わかりました」


 こうなってくると、もうヨミヤに躊躇いはなかった。


「上空の敵は打ち落とします。仕留め損ねたのをお願いします」


「おうよ!!」


 ヨミヤは上空の魔獣に向けて、熱線を発射する。


 そのすべてが魔獣にヒットする。―――一応すべて頭部を狙ったつもりの魔法だったが、中には、翼などに当たり、墜落する魔獣もいた。


 しかし、そこは傭兵団が仕留めてくれた。―――おかげで、戦闘はヨミヤの参戦により、一瞬で片付く。


「なに………アレ………」


 そんな中、成り行きを見守っていたエルフから、驚きの声が漏れた。

閲覧いただきありがとうございます。

Vtubarにはまっています。

アーカイブ見てたら全然かけませんでした笑

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― 新着の感想 ―
敵のボスっぽい人は殺処分をしっかりと我慢できて偉かったですね。自制心がしっかり利く人は偉いと思います。自身を傷つけてでもそう出来る人は偉いなぁと真面目に思いました。人間は欲求や衝動には弱い生き物ですか…
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