旅立ち・再会 ゴ
「シュケリさん可愛い!」
「ヴェール様も、似合っておりますよ」
『ネラガッタ商会』にきて三日後。
ヨミヤは、商会の入り口にある広間にて集まっていた。
ちなみに、今までの服では目立つだろうとのことで、三人それぞれウラルーギが新しい服を用意してくれていた。
ヴェールは、白いシャツに黒の短パンとブーツ。そして、髪をまとめてハンチング帽の中に隠し、瞳の色を変える魔法のかかった伊達メガネをかけていた。
対して、シュケリは黒いワンピースだ。長袖で、足首まであるスカート丈が特徴的な服である。
二人とも、元々の顔がいいのも相まって、とても似合っているのだが………そんな感性は今、寝不足で死にかけているヨミヤには皆無であった。
「………」
「………ヨミヤ様、大丈夫でございますか?」
「………す、すごい顔だね………もう少しでアンデッドになりそう」
シュケリはヨミヤを気遣い、ヴェールは口元を引きつらせながらヨミヤをジッと観察している。
ちなみに、見張りを始めた翌日、部屋から出てきた二人には、『見張りは要らない』と言われていたのだが、ヨミヤが勝手に見張りをし続けていた。
「おい、ヨミヤ」
そこへ、呆れた顔のハグラが現れた。
「あ、ハグラさん」
「受け取れ」
彼は、持っていた濡れタオルをヨミヤへ投げて渡す。ヨミヤはそのタオルを危なげなくキャッチすると、不思議そうな顔でハグラへ視線を送った。
「どうしたんですか?」
「それで顔でも拭いてろってことだよ。………せっかくここまで面倒を見たんだ。乗合商業馬車に乗り遅れたらブッ飛ばすからな」
「あ、あぁ………ありがとうございます!」
なんだか、見張りを始めた夜から、ハグラにずっと呆れた目で見られているようなヨミヤだったが、顔を拭くタオルには素直に感謝する。
「一応、お前の装備は俺が見繕ってみたが………動きにくさとかあるか?」
その質問に、ヨミヤは顔を拭くのを一旦やめて、ハグラへ顔を向ける。
「いえ、まったくないです。鎧なんか、つけたこともないんですけど………全然違和感ないです!」
ヨミヤの装備―――服装は下が黒のズボン。上が白のシャツに、これまたフード付きの黒いジャケットと、黒多めの服装だった。
その上から、左肩から胸までを守る肩当てや、金属製の脚鎧を装着している。
「そうか。ならいい」
それだけ言うと、ハグラはヨミヤの奥の部屋に行こうとして―――
「『フォーラム』に気をつけろ」
ボソッとそんなことを呟いた。
「!? それは一体―――」
「さぁな。―――だが、想像以上にヤバい奴らだ。これ以上は味方してやれねぇ。………ウラルーギに迷惑がかかる」
青年はそれだけ言い残し、奥の部屋に消えていった。
「『フォーラム』って………」
「ヨミヤ様。いいところにいらっしゃいました」
ハグラの言葉について考える暇もなく、今度はウラルーギが現れた。
「頼まれていた宝石類の換金終わりました」
「ああ、ありがとうございます」
ウラルーギの手には、大量の金貨が入った袋が握られていた。
「そ、そんな高価なモノだったんですか………!?」
「ええ、それはもう。どの宝石も高く………指輪の部分もかなり古い装飾な上に、保存状態も良かったもので、こちらで高値で買い取らせていただきました」
ちなみに、ヨミヤの売った宝石類というのは、奈落から脱出する際に通った坑道………その出口付近で戦った『血の一本角』が持っていた宝石類だ。
なんでも、どの宝石にも高度な保存の魔法がかけられていたらしく、帝都での激戦を経てもなお、傷つくことはなかったそうだ。
「今回はしっかり受け取ってくださいますね?」
「え、えぇ………そうですね………ちゃんとした対価だし………先立つものは大事だし………」
「ご安心ください。装備の代金はこちらからすでに受け取ってありますゆえ」
ヨミヤは若干ドキドキしながら、袋を受け取り、赤いショルダーバッグの中にしまい込む。
「それと、こちらも持って行ってください」
顔の引きつっているヨミヤに対し、ウラルーギはさらに、バックを渡す。
「こちらはサービスです」
いつもの有無を言わさぬ顔をしているウラルーギ。―――経験上、断っても押し付けてくることは目に見えていたので、大人しくバックを受け取り、中を確認した。
「変装用に、髪の色を変える術式の刻印されたスプレーと、片眼鏡。―――それと、売却のために持ってこられた魔導書でございます」
ヨミヤは、スプレーと片眼鏡は、ウラルーギの好意として受け取る意味を理解できた。
しかし、中に入っていた魔導書は、ヨミヤがお金にしようとウラルーギに渡したものだった。
「コレ………オレ、中身を読めなかったので、売りに出したんですけど………」
不思議そうな顔のヨミヤ。
そんな少年に、ウラルーギは顔を近づけ―――シュケリに聞こえない程の声量でヨミヤに告げた。
「最初の晩………暗殺者の襲撃があったそうです」
「!!?」
この三日間、ずっと見張りをしていた少年に、衝撃が走る。
しかし、ウラルーギは言葉を続けた。
「ご安心を。ハグラが迅速に処理いたしました――――――どうやら、何か厄介な問題にかかわっているらしいので、魔導書はお持ちになった方がよいかと」
「で、でも、コレ………中に書いてある文字が読めなくて………」
「私も、ルーン文字は読めますが………細部まで解読は出来ませんでした。………しかし、それは古い魔法の証。身に付けることが出来れば必ずヨミヤ様の力になります」
確信めいた声色でそう告げるウラルーギは、その魔導書をヨミヤの手からそっと取り上げると、渡したバッグの中に再びしまう。
「………すいません。何から何まで………そして、迷惑をかけてすいませんでした」
「迷惑だなんてとんでもない。―――共に旅をした仲ではありませんか」
朗らかに笑うウラルーギ。
彼は外の様子を窓から伺うと、『さぁ』とヨミヤ達を出入口へと招く。
「名残り惜しくはありますが………そろそろ出発の時間でございます」
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追記:
夏野露草さん(https://x.com/Tsuyukusa00)にヴェールを描いて頂きました!
ちゃんと今回の話で着替えた格好をしてるんですよ!