旅立ち・再会 ヨン
「次の乗合商業馬車は………三日後、ですか………」
食事を終えたヨミヤは、ウラルーギに誘われるまま、商会の風呂場にいた。
質素な石造りの部屋は、まるで現代の大浴場のようだった。―――ウラルーギ曰く、最新の魔工具を取り入れているため、とても快適らしい。
現代のもやしっ子であるヨミヤにはありがたい話であった。
そんなこんなで、ヨミヤ、ウラルーギ、ハグラの三人で湯舟につかりながら、ヨミヤは『サール』までの具体的な移動手段を聞いていたのだが………
「ええ。三日後にやってくる『ランスリーニ』行きの乗合商業馬車に乗り、『ランスリーニ』から『サール』行きの乗合商業馬車に乗ればいけますよ」
湯船につかり、『ふぅ………』と息を吐くウラルーギ。………ちなみにその隣で、ハグラが息を漏らさぬように湯舟の快感に耐えていた。
一方で、久々の湯舟だというのに、ヨミヤは『三日』という単語に頭を抱えていた。
「………大丈夫だろうか」
思わず心配の声が漏れる少年であった。
※ ※ ※
「………寝れない」
一人部屋にしては広すぎる寝室。
ヨミヤは、シュケリを襲う暗殺者達のことで頭が一杯だった。―――少年は今、『ウラルーギやハグラに迷惑をかけてはいけない』という重圧で、瞼が一向に落ちなかったのだ。
「いや………こうなれば………!」
何かを思いついたヨミヤは、おもむろに毛布を持ち上げ―――部屋をでた。
時間は深夜。住み込みのメイド達も、あくびをしながら部屋に帰る時間帯。………メイド達に『どうかされました?』と声をかけられること八回。
そのすべてを、『あっ、お気になさらずぅー』とやり過ごしたヨミヤがたどり着いたのは―――シュケリとヴェールの寝る部屋だった。
「ここに居れば………嫌でも侵入者に気づくはず」
そして、ヨミヤは扉の前に座り込み、毛布にくるまる。
そう、少年が考えたのは、『シュケリの部屋の近くに居れば異変も気づくはず』という単純なものだった。
ただ、単純さとは裏腹に、『廊下で少年が寝ている』というシュールな状況が出来上がっているが。
「何やってんだお前………」
そこへ、たまたまハグラが通りかかった。
廊下で毛布をかぶり、座っている少年に金髪の青年は呆れたように半眼を向ける。
「いや、えっと………一応、護衛のつもりです………シュケリさん、なんだかヤバい奴らに狙われてるから………」
「………なんで狙われてるんだよ」
「うーん………わかりません」
「なんだそれ………事情を知ってんじゃねぇのか?」
「それが、話してくれないんですよ。―――まぁ、困ってるみたいなんでこうして守ってるんですけど」
「………」
少年の言い草に、ハグラはぽかんと呆ける。―――『何を言っているかわからない』といった表情である。
「………どうしたんですかハグラさん?」
「あ、あぁ………お人好しなのか、バカなのかわかんねぇなと思ってな」
「えぇ………なんでオレ、ディスられてるんですか………」
誤解で悪名がつくわ、魔族の幼女を保護してるわ、なぜだか狙われるメイドを連れてるわで、ハグラは今度こそ呆れたため息をついた。
「ごめんなさい。ウラルーギさんには迷惑かけないようにします」
「お前………」
しかし、目の前の少年は自身の状況などまるで気にしてないように、ハグラのとの約束を引き合いに出し、周囲の状況に再び気を配り始める。
「はぁ………」
青年は目の前の少年に、再びため息をつく。
「クソ真面目で、クソが付くほどのお人好し」
「えっ?」
「なんでもねぇよ。―――それじゃ、ウチに迷惑かけねぇようせいぜい頑張れよ」
踵を返したハグラは、歩きながら、後方にいるヨミヤへプラプラと手を振った。
※ ※ ※
「ここの三階か?」
「ええ、間違いないです」
ヨミヤの―――少年のシュケリ護衛の策には、一つだけ穴があった。
「よぉ、クソ面白そうなこと企んでんなぁ」
それは、シュケリの部屋に窓があること。
三階にあるシュケリの部屋には、当然ながら窓がある。―――現実世界であるなら、その高さであれば絶対ではないにしろ、何者かに狙われる確率は下がる。
しかし、ここは異世界。『能力』と呼ばれる力があるこの世界では、三階程度の高さ………狙いを放っておく理由にはならなかった。
「………何者だ」
『ネラガッタ商会』の裏。建物と建物の間の路地裏に、二名の仮面をかぶった者たちがいた。―――シュケリをつけ狙う『仮面の暗殺者達』だ。
そんな者達へ、金髪の青年―――ハグラは片刃の剣を抜剣しながらゆっくりと歩み寄った。
「なぁに、ただの『大商人の護衛』さ。―――血塗れだけどな!」
仮面の男たちは、ハグラのことを知らぬのか、青年に身体を向けると―――
「フン………無駄な殺しはしないのだがな………」
二人の暗殺者は、同時にハグラへ襲い掛かった。
まさに、目にも止まらぬスピード。―――明らかに能力持ちだった。
「………」
ハグラは、そんな暗殺者達を無言で見据え―――
「死ね」
暗殺者達以上の速さで突貫。
「「なッ―――」」
すれ違いざまに、ニ閃。―――高速で振った剣は、寸分たがわず二人の暗殺者の首を断ち切った。
「フン………」
剣についた血を、剣を振うことで払い―――そして、青年は静かに片刃の剣を鞘に収める。
刹那―――首のない遺体から、噴水のように血が噴き出した。
「………」
ハグラは、遺体から泣き別れにされた首を一つ持ち上げると、その顔にかけられた仮面をしみじみと覗く。
「………………念のため調べるか」
閲覧いただきありがとうございます。
最近、食べる量と、食べる物を気にしてるのですが、今日久々にカップ麺食いました。
うんめェー!