旅立ち・再会 ニ
「さて、適当にかけてくれ」
『ネラガッタ商会・バーガン支部』。その執務室へ通されたヨミヤ達。
正方形のいたってシンプルな部屋。質素ながらも、並べてある机もイスも、ソファも、本でさえも、どれも上品さをうかがわせる………部屋の主の感性が伺える部屋だった。
青年はヨミヤ達に入り口近くのソファを示し、自身は、部屋の主のものと思わしき机―――その傍にあるイスにドカッと腰かけた、
「ヴェール様」
「う、うん………」
シュケリは言われた通りソファへ座り、ヴェールもソファに座らせる。―――一方ヨミヤはシュケリの座るソファの背中に寄り掛かり、自身は座らずにいた。
「………」
そして、ヨミヤは青年を改めて観察する。
格好は………現代に近いもので言えば『スーツ』に近い服装をしている。ただし、ジャケットは着ていない。グレーに、薄いイエローのチェックが入ったスーツだ。
その顔は非常に整っている。
派手な金髪にそんな顔立ちなものだから、まさに『イケメン』という言葉を体現した青年だった。
「まずはコレを見ろ」
青年は、座ったまま、近くの机に手を伸ばし、新聞を手に取ると、ヨミヤに投げつける。
ヨミヤはそれを受け取ると、中を確認する。
「げ………………」
見出しには、
『逃亡中の指名手配犯、脱獄のため、魔族を手引きか』
と大きく書かれていた。
記事によると、魔族が『フレークヴェルグ』の領主宅を襲撃。騎士団のみで何とか制圧したそうだが、捕縛した魔族が全員自死してしまったらしい。
また、拘束していた勇者暗殺未遂犯も脱獄していたことから、騎士団では、指名手配犯が脱獄のため魔族を手引きしたものとして捜査をしているらしい。
「その事件について、今、この場で説明しろ」
青年は、静かに、けれどハッキリとヨミヤに説明を要求した。
その瞳には、確かな怒りが見て取れた。―――それはヨミヤにも理解できた。
「何を誤解してるかわからないけど………オレは何もしてない」
青年が何に対してそんなに怒っているのか。それはヨミヤにはわからなかったが、とりあえず牢で会ったことを正直に話し、『魔族との関与』をしっかり否定した。
「――――――っていうことで、魔族のことはよく知らない。オレはただ、その子が知り合いの子どもだって知って保護しただけだ。………………まぁ、なんかワケアリのメイドさんもついてきたけど………」
「………すいません、ワケアリメイドです………」
なんだかいろんな意味で申し訳なさそうなシュケリの謝罪に、ヨミヤは苦笑を漏らす。
「………事情はわかった。お前がなんだか不憫なこともな。―――一応、ウチのボスからお前のことは聞いてる。さっきも言ったが、危害は加えない」
ネラガッタ商会のボス―――ウラルーギの命令で騎士への通報をしないでくれるという。
ヨミヤは一筋の光が差したようなきがして、少しだけ表情を緩める。
「………本当ですか? それは―――」
しかし、青年はその瞬間を待っているようだった。
「―――――――!!」
机の下に隠していた片刃の長剣。
それを目にも止まらぬ速さで抜剣。高速の一太刀が一直線にヨミヤの首に吸い込まれる。
「―――ッッッッ!!!!」
それは最早、条件反射であった。
戦いに不慣れな身体が、『奈落』に落とされ、いつ命を狙われるかもわからぬ過酷な環境にぶち込まれたせいで、『殺気』に非常に敏感になってしまった。
そんな少年の身体が、『意志』という主を無視して勝手に動き―――青年の片刃の長剣と、自身の首の間に自分の剣を割り込ませることに成功した。
「………寸止めするつもりだったのにな。それを止めるか」
青年は冷静に―――けれど、その瞳に驚愕の色を見せながら剣をしまう。
「………どうゆうつもりだ」
青年の言葉とは相反する行動に、ヨミヤは殺気を膨らませ―――背後に魔法を待機し始める。
「なに、俺自身の警告さ」
青年は、少年の殺気など知らないといった風に、剣を持った手で、ヨミヤを指さした。
「ウチの商会や………ウラルーギに、お前のせいで被害が出た時………俺はお前を殺す。覚えておけ」
「ごめん。………肝に銘じておくよ」
つまり、青年の攻撃は、商会や、ウラルーギを思う故だったというわけだ。
そんな青年に、ヨミヤは殺気を向けたことを素直に謝罪し、青年の言葉を胸に刻んだ。
「ハグラだ。ハグラ・レーベル。ウラルーギの専属護衛だ」
剣を机の下に仕舞い、青年は自身の名前を告げる。
「ヨミヤです。千間ヨミヤ。―――皆さんに迷惑かけないよう気を付けます」
閲覧いただきありがとうございます。
トッポは手が汚れないので、昔はよく創作のオトモにしてました。
今日久々に食べたけど、うまいっすね