旅立ち・再会 イチ
「襲撃者のこと………何か教えてくれる?」
消えた焚火。
腕を枕代わりに寝転がるヨミヤ。炭となった焚火の反対側には屋敷の倉庫から搔っ攫ってきた毛布にくるまったシュケリとヴェールが見える。
ヴェールは、今やすっかり寝ている。………寝てもなお、シュケリを放さないため、シュケリは仕方なく一緒に寝ているのだが。
そんなシュケリへ、ヨミヤは牢での襲撃者について尋ねる。
「………」
―――彼女は、閉じていた目を少しだけ開き、その眼を伏せている。
「………何を、どう………伝えてよいか………まだ整理が出来ていません………」
「………そうですか」
「申し訳、ありません………」
静かに、今にも消え入りそうな声で謝罪を口にするシュケリ。―――そんな彼女に、ヨミヤは少しだけ息を吐いた。
「………いいよ。シュケリさんに声をかけた時点で、覚悟は決めてます」
暗殺者は、二名とも同じような服を着ていた。
そうゆう二人組なだけの可能性もあるが、一方で、そういった組織があり、そこの暗殺者が皆、同じような服装をしている可能性もある。
警戒すべきは、これからも、ああいった連中に襲われることだろう。―――襲撃が終わったと勘違いして襲われるより断然いい。
それだけ頭の中で決定を下し、落ち込むシュケリの前で、ヨミヤは堂々と眠りについた。
※ ※ ※
『バーガン』。そこは、『フレークヴェルグ』から半日歩いた所にある町だ。
町の真ん中に『グレセール川』が通っており、町民の生活用水になっているのが特徴的な町だ。
「ねぇ、シュケリさん。なんでココに来たの?」
「それはですね、ヨミヤ様がヴェール様のお母様と別れた場所の手がかりを掴むためですよ」
「へぇー………何かわかるといいなぁ」
「そうでございますね」
現在、三人は入り口から入ってすぐの大通りを歩いている。
指名手配中のヨミヤは、これまた屋敷の倉庫で掻っ攫ってきたフード付きの外套を身にまとっている。
一方、目立つ外見のヴェールは、長い髪を服の中に隠し、シュケリの着ていたエプロンをイイ感じに着せて囚人服を隠している。
さらに、シュケリが前から抱っこして歩くことで、顔がシュケリに向き、その瞳も極力路上を向かないようにしている(五歳にしては小さい身長のおかげで、シュケリでも抱えることが出来ていた)
「………………」
ヨミヤは大通りの中で、しきりに視界を回し、同時に思考していた。
というのも、聞き込みをするにはヨミヤは有名になりすぎていた。
聞き込みなんて、適当な商店で買い物しつつ、店主に情報を聞けばいいだけなのだが………現在、指名手配中のヨミヤは常に通報のリスクを負っている。
一人でいるのなら、通報ぐらいどうってことはないのだが………今は、シュケリとヴェールがいる。
下手に騎士を呼ばれでもしたら、シュケリとヴェールの無駄な負担をかけることになる。
「………」
「………ヨミヤはずっと難しい顔してるね」
「私たちを守るために色々考えてくれてるのです………足を引っ張らぬよう、静かにしていましょう」
「………うん」
人の多い大通り。
ゆっくりと歩くので精一杯な人の波。―――幸い、その人混みがいいように作用し、今は誰もヨミヤ達のことに気が付いていない。
そんな時だった。
「センマ・ヨミヤだな」
不意に、ヨミヤの真横から、まるで少年の心臓を鷲掴みにするような言葉が飛ぶ。
「ッ………」
ヨミヤの警戒心がマックスまで跳ね上がり、咄嗟に、腰の剣に手が伸びて―――
「騒ぐな。他の民衆にバレる」
声の主は、ヨミヤの腕を上から押さえつけて、少年の抜剣を阻止する。
たったそれだけで、単純な身体能力はヨミヤより上―――能力持ちだと理解できる。
「そのまま歩け。―――安心しろ。危害は加えない」
抑えた手をすぐにどけて、声の主はゆっくりと歩き出す。
「………行こう」
「いいのですか?」
「あぁ。色々可能性はあるけど………今オレ達をどうこうしなかったんだ。………とりあえず従ってみよう」
警戒心は緩めないまま、ヨミヤは声の主―――いやに身なりのいい青年について行く。
シュケリは、不安そうな表情を見せるヴェールを優しく撫でながら、自身もヨミヤに続く。
ヨミヤ達を導く青年は、無言で、露店の並ぶ大通りを抜けて、大通りと交差するように伸びる川に架かる大橋を渡る。
そして、橋を渡り、飲食店が多くなってきた大通りをあるところで曲がり、大通りと並行して伸びている通りにある建物の中に入っていった。
「ここは―――」
その建物に飾ってある看板を見て、ヨミヤは驚愕した。
その建物の名は………否、その商会の名は―――『ネラガッタ商会』。
自称・大商人ウラルーギの経営する商店だった。
閲覧いただきありがとうございます。
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