出会いと出会いの騒動 ロク
「うー………つめたぁ」
火球を浮かべ、撃たずに待機状態にしておくことで、身体にまとわりついた氷を溶かすヨミヤ。
仮面の暗殺者達は、一応、死ぬことなく地面に転がっていた。
「危なかった………かな」
最後の一幕。ダーノの方を見失ったヨミヤ。周囲を見回しても見つからなかったことから、『透明化』にでもなれる能力だったのだろう。
あの瞬間、透明化したダーノは、ヨミヤの背後に回り込んでいた。―――ヨミヤはその足音を聞き取っていた。―――そのため、ギリギリで対応が間に合い、暗殺者達を退けることができた。
「ヨミヤ様………あなたは一体………」
「シュケリさん」
背後から、シュケリがヨミヤに声をかける。
ヨミヤは、彼女がとりあえずケガをしていなさそうで、ホッと一息つく。
「知らないですか? 帝都での勇者襲撃事件」
「あ、いえ………それは知っているのですが………何分、相手は暗殺に長けた人間………―――それをこうも簡単に倒してしまうなんて………」
「それ言ったら、暗殺者に狙われてるシュケリさんこそ、何者だって話だけどね」
「そ、それは………」
明らかに表の人間ではなかった暗殺者達。そんな人間に狙われているシュケリに目を細めるヨミヤ。―――しかし、彼女が気まずそうな表情で顔を背けるのをみて、小さくため息をついた。
「………いいよ。シュケリさんには良くしてもらった。オレにとってはそれで充分」
「ヨミヤ様………」
目を丸くするシュケリ。そんな彼女の様子に気が付かないヨミヤ。
「………?」
―――そんなとき、ヨミヤの耳がある音を察知する。
「………戦っている?」
それは金属をぶつけ合う音、人の怒号、人の悲鳴………
明らかに戦闘の音と思わしき音が、地下牢の外………領主の館で起こっていた。
「………」
「あ、あの、ヨミヤ様………?」
自分はどうするべきか。
それを考えるヨミヤ。一方、戦闘音の聞こえていないシュケリは、少年が突然黙り込んだのを見て、少しだけ動揺していた。
「よし」
やがて、何かを決めた少年は、改めてシュケリに向き直る。
「シュケリさん。オレ―――今から牢出るよ」
「え、えぇ!? 突然どうしたんですか!?」
「多分、今この屋敷―――襲われてる。なんでか知らないけど………」
「お、そ………われて………」
ヨミヤの言葉に、何となく心当たりがあるのか、シュケリは再び動揺の気配が滲んでいた。
「ぶっちゃけ、逃げるつもり………あんまりなかったんだけど、奴隷の子がいるって聞いて………少し気になって」
「そう………ですか」
「そこでなんだけど………」
少年は、自身の左腕を少しだけ見つめたあと………―――ゆっくりとその手をシュケリに差し出した。
「一緒に逃げる?」
「え………………?」
ヨミヤは暗殺者に狙われるシュケリを怪しんでいた。―――それは明らかに態度に出ていた。そんなシュケリを逃走に誘うヨミヤの思惑が、彼女にはよくわからなかった。
それゆえに出た疑問の声に、ヨミヤはバッ! と勢いよく手を引っ込めた。
「ご、ごめん! 会って間もない奴と一緒に行くのなんて嫌だよね!」
「あ、いや………そうゆうわけでは………」
先ほどとは反対に、今度はシュケリが考える番だった。
ヨミヤの実力は言うまでもなく保証できるものだった。これほど強い人間をシュケリは見たことがなかった。
だが、一方で『少年に迷惑をかけたくない』というのもシュケリの本音だった。―――シュケリは、間違ってご飯を食べてしまったりする自分に―――ミスを連発をする者に寛容な人間を見たことがなかった。
この屋敷の人間は、基本的にシュケリに怒りをあらわにする者がほとんどだった。―――この屋敷に来て、怒りの表情を向けられない日はなかった。
ゆえに、シュケリは何となくヨミヤと一緒にいることに忌避感はなかった。………裏を返せば、そんな人物に迷惑をかけたくはなかった。
「私は―――」
そんな彼女の脳裏にとある記憶が蘇る。
『『君』は、『君』でいい。―――逃げて、逃げて、『君自身』のやりたいことをやるんだ………』
「私の、『やりたいこと』………」
自身の心の内で繰り返す言葉。
『やりたいこと』。シュケリの今、やりたいことは―――
「………………私も、私も、共に行きます………っ!」
閲覧いただきありがとうございます。
家族で焼肉いきました。うまかったです。
白い服にシミが出来ました。うあぁぁぁぁぁぁぁ!