出会いと出会いの騒動 サン
領主の暴力は二時間ほど続いた。
本来なら死んでもおかしくないのだが、領主の男に身体能力を上げる能力はないようで、痛みに慣れてしまったヨミヤには毛ほども堪えていなかった。
「また随分殴られましたね………」
「………シュケリさん」
領主が閉め忘れていった扉の陰から、白い寝巻姿のシュケリが姿を現した。
「救急箱を持ってきました。………手当てしましょう」
「………………いいの? あの男に怒られない?」
カギを開けて、ためらいなく入ってくるシュケリは、ヨミヤの傍で道具の入った箱を開けながら言葉を続ける。
「………以外と、屋敷に働く者には寛容なのですよ。それに、『引き渡し予定の人間に暴行を加えた』なんて、ボウジェン様―――領主様にも割と不都合なハズです」
「ふーん………」
そのあと、黙々と手当をしてくれるシュケリを、ヨミヤはジッと見つめた。
「シュケリさん」
「はい?」
「シュケリさんは、その………………奴隷の子のこととか………知ってたの?」
「ええ………そうですね。たまに身体を拭いたりしてますね」
ほんの少しだけ、声を震わせたシュケリは、けれども、すぐにいつもの義務的な口調で言葉を紡ぐ。
「………領主様の声は、地下牢の外にも響いていました」
『こうなった経緯は大体把握しています』と前提を少年に伝えたうえで、シュケリは下を向きながらヨミヤのケガを手当しつつ、続ける。
「私には何の力もございません。………奴隷の少女に憐みを抱いても、助けることなど―――できません」
シュケリは、ヨミヤの表情から、悲痛な心の内を何となく受け取ったのだろう。彼女は淡々と作業をこなしながら、己の無力を口にする。
「………ごめん、そんなことを言わせたかったわけじゃないんだ」
対するヨミヤも、誰もが、誰かを助ける力を持っているわけじゃないことは重々承知している。―――そのうえで、彼女にそんな弁明をさせてしまったことを素直に謝罪した。
「いいんですよ。―――きっと、ヨミヤ様のその想いは正しいのですから」
微かに笑うシュケリは、やがてヨミヤの治療を終えて、一歩その場から下がる。
「ありがとうシュケリさん」
「お気になさらず。私は、奥の奴隷………少女の手当に行ってまいります―――」
シュケリが会釈をして牢を出ようとした瞬間だった。
ドン―――ッ!!
牢の入り口、木製の扉から、騎士が吹っ飛んできた。
「………」
「っ………!?」
シュケリは驚くこともなく、『騎士が飛ばされてきた』という事実にだけ身の危険を感じたのか、牢の入り口からゆっくりと後退し、扉付近から遠ざかる。
一方で、ヨミヤは普通に驚き、何事かと飛ばされてきた騎士をジッと見つめる。
「おい、居たぞ。『メインプラン』だ」
「地下牢に居やがったか………手間取らせやがって」
すると、破壊された地下牢の扉から、二人の人物が現れた。
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