出会いと出会いの騒動 イチ
「そうそう………いいよ。そのまま………フーフーして………」
「ふーふー」
日が暮れ、誰もが食事を始める時間。
薄暗い地下牢。そのうち、一つの牢屋の中で、ヨミヤはあたかも幼稚園生に指示するように、丁寧に、それでいて褒めることを忘れない対応をシュケリにしていた。
理由は簡単。
何度注意しても、シュケリがヨミヤの分の食事を食べてしまうからだ。
「よし、いいよぉ………そのままゆっくりこっちにスプーンを持ってきて………」
牢屋に入れられて初めての食事を含めて、通算三回。そのすべてをヨミヤはシュケリに食事を食べられている。
申し訳ないと感じたのか、水だけはシュケリが持ってきてくれるのだが、そろそろ少年のお腹は切なさで悲鳴を上げていた。
「あーんしてください」
「あーん………」
そして―――――
「あーッ!!」
スープは見事にシュケリの口に運ばれていった。
「うっ………ううぅ………」
これにはさすがにヨミヤも涙を流した。
結局、いつも通り出るパンもスープも、いつも通りシュケリに食べられてしまった。
「オレはいつになればまともにご飯を食べれるんですかね? ねぇ、シュケリさん?」
「………本日のスープも素晴らしかったです」
「おい………」
『お腹が空いたから』なんて、まるで小学生のような理由で、本気で脱獄しようなんて考えながら、ヨミヤはバランスを崩しそうになりながら壁に寄り掛かった。
ちなみに、ここに入れられたときに義手も当然没収されたので、片手を壁にかかる鎖につながれた今、本当に自力で食事をすることが出来ない。
「申し訳ありません。なんだか食事を見るとボーッとしてしまって、気づいたら………」
「食い意地張ってるねぇ………」
「け、決してそんなわけでは………」
「はぁ………いいよ。なんだかんだ『悪い』って思ってるのは伝わってるし………」
お腹は切ないが、シュケリの本当に反省している態度を見ると、なんだか責める気にもなれないヨミヤだった。
そんな彼の近くまで近寄り、すぐそばでかがむと、シュケリはポケットから『あるもの』を取り出した。
「………本当は私の夜食なのですが………このままではヨミヤ様が死んでしまいます。―――これをどうぞ」
それは、指先程度の『キャンディ』だった。
「オレは子どもかッ………」
「す、すいません………」
しかし、腹の切ない虫が鳴いているのは事実。
ヨミヤは『ありがとう』と素直にお礼を述べながらありがたくそのキャンディをいただいた。
※ ※ ※
深夜。
誰もが寝静まる夜中。
「……………………」
ヨミヤも、余計な体力を使うまいと、ジッとしてるのだが………
「飴一個と、水だけで腹は満たないなぁ………」
『寝るのにも体力を使うなんてどこかで聞いたことがある』と、意味もなく思考を空腹から飛ばしていると、
ギィィィィ………
と、木材の軋む音と共に、地下牢の扉が開かれた。
「………」
現れたのは、無駄に材質のいい、派手な服を着た中年―――領主の男だった。
松明の明かりに照らされた男の顔はどこか歪んでいるように見えた。
ヨミヤはまたこの男に絡まれるのが面倒になり、息を殺して、寝たふりをする。
「ひ、ひひッ………」
気味の悪い薄ら笑いをする領主の男は、ヨミヤのことなど、まるで見向きもせず、まっすぐ奥の牢屋へ向かう。
松明の明かりが通り過ぎたことで再び暗闇に支配される地下牢。
そんな中、どこかの牢屋が開かれる音が響き………
「よぉし………今夜もたっぷり可愛がってやるからな」
男の粘り気のある声がひっそりと、ヨミヤの耳に届いた。
そして――――――
「オラァ!」
何かを殴る音が冷たい牢屋へ響く。
「ッ………!!」
「おいゴラァ!! さっさと悲鳴を上げろォ!!」
殴って入る相手はまさかの人間のようだった。―――それも、痛みに耐える声は高い。おそらく女性………それも、かなり幼いように聞こえた。
「ウソだろ―――ッ!?」
思わず絶句するヨミヤ。
少年の中の常識ではありえないこと。………いやにでも、脳内が近くで行われている行為を『止めろ』と騒いでいた。
「オラオラオラァッ!! いい声で鳴けたらやめてやるかもなぁ!!」
「ッ………! ッ………!? ぐ、ゥ………!!?」
『大人が子供を殴る』。
こんな気持ちの悪い光景を、ヨミヤは現実の世界で一度だけ聞いたことがある。
それは『ある少女』の、ヨミヤを見つけてくれた女の子の過去。
「クソ………!」
ヨミヤはあらんかぎり力で、拳を握りしめた。
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