小話ヨン:ヨミヤとウラルーギ
『ギャウ!!!』
「ふッ………!!」
飛び掛かってくるウサギ型の魔獣を、ヨミヤは右腕の義手で迎撃する。
相手はヨミヤのひざ下程度の大きさしかない。―――もちろん、そんな小型の魔獣が、身体能力の底上げをされている鉄の義手に殴られれば、
『ギャッ―――』
打ち返された野球ボールのように、遥か彼方へ飛んでいくことは想像に難くない。
「ふぅ………」
「―――いかがですか、義手の使い心地は?」
魔獣退治が一段落して、息をつくヨミヤへ、身なりのいい商人―――ウラルーギが、義手の様子を確認しながら近寄ってくる。
「ウラルーギさん………はい、言ってた通りかなり頑丈で―――それでいて、まるで自分の手みたいに使えて………いいですねこの義手!」
「それは結構です。―――今一度、動作等の確認をしますので、馬車の中までおいでください」
人当たりの言い笑顔―――商人スマイルを浮かべるウラルーギに従い、ヨミヤは馬車の中まで戻ると、右腕の袖をまくった。
「では失礼――――――」
腕を持ち上げては、各部品を細かくチェックし、何か呪文を唱えたと思ったら、しきりに頷き―――やがてウラルーギは『大丈夫です』と義手から手を放す。
「問題ないですね。どの部品にも損傷はなし………術式にも異常は見られませんでした」
ペラペラと、義手の状態を話す商人………どこかこの義手に詳しそうな商人にヨミヤは首をかしげる。
「ウラルーギさん………………商人ですよね?」
「?? えぇ、そうですね。全国四十二店舗を構える大・商会『ネラガッタ商会』の元締めである大商人ですが………」
「………」
言葉尻にたくさん装飾がついていたが、ヨミヤは半眼を向けるだけで、突っ込むのを何とか抑えた。
「………商人なのに、『魔工具』? でしたっけ。詳しいんですね」
「そうですねぇー………一応、商品を紹介しなきゃ売れる物も売れませんからねぇ。魔工義手の商談が決まったときに――――――お勉強したんですよ」
照れくさそうに鼻を触るウラルーギ。
そんな彼に、ヨミヤは、『スゴイですね』なんて能天気に返す。
「あぁ、そうだヨミヤ様。―――これ、先ほどの魔獣退治の報酬です」
ウラルーギはそういうと、お金のはいった小袋をヨミヤに握らせる。
「あ………えっと………ありがとうございます………」
「………まだ魔獣退治で報酬をもらうのに慣れてないみたいですね」
「えぇ、まぁ………はい………」
そう、ウラルーギの馬車に乗ってから早三日。こうして何度か魔獣退治をしては、そのたびに、使いの報酬として、ヨミヤはお金を握らされていた。
「だって、魔獣退治なんて、オレも不利益被るわけで、それが嫌だから協力してるだけなのに………お金をもらうとなると気が引けますよ」
「前にも言ったでしょう? その理論でいくと、私も魔獣退治に参加しなければいけないのに、それをヨミヤ様に任せているのです。―――対価を払うのは当然です」
このやり取りは都度、四度目。ウラルーギの強引さに押し負けるヨミヤは、結局お金をもらってしまう。
「さて、ではそろそろご飯にしましょう! ヨミヤさん! いつも通り動物のさばき方をお教えしますので! 獲物を調達しましょう!」
「あぁ、はい………苦手なんだよなぁ」
「そんなこと言わず! 自分で食べるものを調達できれば、食費が浮きますよぉ!」
「………はい」
こうして、利害関係なんだか、そうではないのか、よくわからない少年と商人の旅は少しの間続いた。
後に、この旅で学んだ野営の知識は、少年を大いに助けることになる。
閲覧いただきありがとうございます。
今回で小話ラストと言ったな…
あれは嘘だ。
すいません、後一話あるのマジで忘れてました。すいません…