表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
奈落の復讐者編
40/268

輝く花には裏切りを ジュウ/イチ

「はぁ………はぁ………はぁ………」


 戦場に出たあの日からずっと来ていた軍服は、右半身が爆風で焼き飛んだ。―――うっとおしくなったオレは、上着の部分を破り捨て、下のワイシャツモドキの一枚になる。


「今、殺してやる………」


 爆発は()からやってきた。オレは、ヒカリ(あのクズ)の下にいたおかげで、ダメージが少なく済んだ。


 しかし、それでも、身体のいたるところが大やけどを負っていて、動くと火傷した箇所が生皮をひっかかれているいるように痛む。


 それでも、オレはゆっくり、ゆっくりと剣崎へ近づいた。


「………」


 そんなオレの前に、立ちはだかる人間が、一人だけいた。


「ダメ。殺させない」


 アサヒだった。


 彼女は、大粒の涙を浮かべながらオレの前に立ち塞がっていた。


「キミは………キミだけは………もう誰も傷つけちゃいけない」


「………」


 アサヒは………真道アサヒはそう言って、両手を広げて勇者を庇った。


「………、………………、………」


 雨が、強くなる。


 オレは、自分の中の感情をどう説明していいか分からず、口を開いては………再び閉じて、雨の降る虚空を仰いだ。


「君は―――アサヒには、『味方』でいてほしかったなぁ………」


「ヨミ………?」


 あぁ、そうか―――


 なんとなく出た言葉に納得した。


 みんな敵だった。


 みんなオレを止めに来た。


 みんな、オレの行いが『間違っている』と言ってた気がする。


 世界に否定されていた。


 勝手に呟いて、勝手に納得して………―――それでいて、絶望した。


「………」


「………ヨミ、帰ろう………? 帰って、みんなで話し合おう?」


 かつて、オレは孤独だった。手元には流行りの曲ばかりのウォークマン。オレは誰とも関係を作れない一人ぼっちの人間だった。


 しかし、孤独で何もない人間を、一人の少女は救ってくれた。


 今は一人。


 過去に、オレを救い上げてくれた少女は、決してオレの傍にはいてくれなかった。


「ヨミ………私、ヨミの味方だから………だから………帰って話を―――」


「帰らないよ」


 アサヒの言葉を遮って、オレは虚空を見つめながら告げる。


「………………………………ぇ?」


 彼女の喉から、かすれた声が漏れた。


「帝国は勇者の味方だ。―――ここまで勇者を痛めつけて、殺そうとした人間は処刑される。どのみち、オレには『帰る』選択肢なんてないんだ」


「で、でも、私が証言する!! 『もともとの原因は勇者だった』って!! ヨミは何も悪くないって!」


 必死に首を振り、オレへ訴えかけるアサヒ。


 それでも、オレは、確信をもって言葉を紡ぐ。


「―――それでも、オレは殺される」


「そんなことさせない!! だから―――」


「それにね、アサヒ―――」


 涙を、滴る雨を振り払うように叫ぶ彼女の言葉を、再び遮る。



「君はまたオレを『裏切る』だろう?」



 その言葉に、彼女は惚けた表情を見せる。


「わた………しが………うら、ぎ………る? ヨミを………?」


 そして、すぐに怒りの表情を作り、抗議の言葉を紡ぐ。


「裏切ってなんかいないッ!! いつ私がそんなことをしたのッ!!」


 前からそうだった。


 彼女は怒りが頂点を突き抜けると、涙を流しながら怒る。―――今もそうだ。彼女は自分がオレに何をしたのか、理解できず涙ながらに怒っている。


「裏切っているだろ………君は、勇者を庇っている」


「私はこの人を庇ってるんじゃ―――」


「庇っているさ。理由がどうあれ………君は剣崎ヒカリを『庇っている』」


「なんで………なんで………そうなっちゃうの………」


 己の言葉が理解されない。そんな絶望に呑まれた彼女は、力なくその場にへたり込む。


「アサヒ、オレ達―――



 別れよう」



 決定的な一言だった。


 言葉にしたオレの心に、罅が………亀裂が走るほど。


「いや………いや………いやだよ………」


「オレの言葉を理解してくれなかった。―――君の言葉を理解できなかった」


 オレは彼女に背を向ける。


「互いの言葉を理解できなかったんだ。―――もう終わってるんだ、オレ達は」


 手放したものは大きい。


 オレは彼女への最後の餞別代わりに、勇者を放置して、歩き始める。


「やだ………やだやだやだ!! まってヨミッ!!」


 後ろから追いかけてくる足音。


 オレはそっと振り向き、


「ありがとう」


 それだけ告げた。


 そして、風を利用して、彼女を突き放し、自分だけ遥か上空へ逃避した。


「ヨミぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

閲覧いただきありがとうございます。

流しそうめん、やりました。

暑かった…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
切ない……! ヨミヤの気持ちもアサヒの気持ちも理解できる分、ふたりの間にできてしまった壁の分厚さに胸が痛みました。 2人の関係が修復されるのか、今後の展開が気になります。 そして全体を通して、戦闘描…
とりあえず一段落ですね。より確実に、かつ容易くヒカリを殺すためにヨミヤがどう出るのか。とても楽しみになる展開でした。さすがに、もろともに撃ち抜くわけにもいかなかったというところでしょうか。今回もとても…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ