輝く花には裏切りを ジュウ
『あの二人の戦闘に巻き込まれてはダメです!! ―――近衛騎士の方々であろうと、ただでは済みません!! 住民の避難に集中してください!!』
現場にいた勇者の仲間―――戦場跡で、動かせない怪我人を癒すその姿から、『聖女』と呼ばれ始めている少女は、到着した近衛騎士達に、そう進言した。
『何を知った口を』と憤る騎士もいたが、勇者が繰り広げている戦闘を見て、それ以上口を出す近衛騎士はいなくなった。
もともと、住民は、光の柱を見てから、危機感を覚えた者はすでに避難を開始していた。それを遠くの区画へ誘導する騎士と、動きづらい住民をサポートする騎士に別れ、避難は異例の速さで進んでいた。
「ここまで勇者と戦うことのできる者とは………相手は『魔王』とでもいうのか………」
とある騎士の独り言を、住民たちは不安そうに聞いていた。
※ ※ ※
鈍い音が、人の気配のない広場に響いていた。
「………………」
「………………」
少年に跨る勇者は、口元に歪な笑みを浮かべて。
勇者に拳を振り下ろされる少年は、うつろな目をしていて。
「あぁ………お前をこうして殴っていると………俺は心の底から満ち溢れている気がするよ」
少女に懇願され、少女のために少年を止めていた勇者は、けれど、『敵』である少年の血に―――彼から流れ出る血に酔っていた。
勇者は………ヒカリは、自らの能力に感情を支配されていた。
『深き光』。
それは、魔力を霧散させ、自らの身体能力を底上げする光を操る能力。
その代償は―――『負の感情の増幅』。とりわけ、長期間、深層意識の奥底で抑圧されていたヨミヤへの負の感情には敏感に反応し、コレを増幅する。
「そうだなぁ………このまま殺すか? それもいいなぁ………」
この『代償』は、ヒカリが異世界にやってきた時点で既に効果を表していた。―――それこそ、効果がハッキリと形作られる前より………
「はははははははははははっはははっはははっははははっははははっははははは!!!!」
壊れた笑いが、ひしゃげた声が、人とは思えぬ音が響き渡る。
そんな時だった。
「………ず」
微かに、
ほんのわずかに、少年―――ヨミヤの口より言葉が漏れた。
「………………あ?」
勇者の首が奇妙な動きでヨミヤの方へ傾いた。
「クズ野郎。サンドバッグは終わりか?」
血まみれの顔面。しかし、それでも少年はハッキリと勇者へ告げた。
「キモいんだよ。―――とっととくたばれ」
「お、ま………………え―――」
刹那。
二人の頭上に待機してあった特大の火球が、一直線に、なんの抵抗もなく落ちてきた。
「『自分ごと』死ぬ気かあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
勇者の悲痛の叫びは、やがて、帝都全体を揺らす、大爆音に、大轟音に、大爆裂音にかき消された。
地面には巨大な穴が形づくらた。
爆発は、爆裂に生じた炎の渦は周囲の民家を焼き尽くす―――かと思われたが、突如地面から上空に向けて発生した突風が、爆発を真上へ巻き上げ、民家への被害は最小限に抑えられた。
上空へと巻き上げられた爆風は、炎を伴い、再び光の柱を形成した。
やがて―――――――
「ッッッッッッァァァ!!!!」
立ち込める黒煙の中より、勇者が現れた。
「イカれてるッ!!! オーラで軽減されてこれか!!??」
勇者の服は焼け焦げていた。爆風で上半身の服は吹き飛び、その下の鍛え上げられた肉体は、今は炭化していない個所を探すのが難しいほどだった。
常人ならとっくに死に絶えているケガも、能力のおかげで何とか命を繋いでいた。
「―――だが、ヨミヤは………」
歩くのが精一杯の身体。今や、首を動かすのだけでも全身が激痛を訴える。―――それでも勇者は目を細め、周囲の様子を探る。
「………………俺でもギリギリだったんだ。万が一でも生きているはずが―――」
その瞬間だった。―――黒煙より、影が飛び出したのは。
「なッ―――!!」
「けぇぇぇんざきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
獣のような眼光で、剣も何も放り出した少年が、全力で勇者へ迫った。
「なんっ………でぇ!!!!」
動ける謎に思考が支配される勇者は、けれど、咄嗟に平静を保った。
―――アイツの身体能力はたかが知れている。たとえ今食らっても耐えられる………!!
そう脳内で結論づけた彼は、なけなしの力を振り絞り、その場に踏ん張る。
この一撃を耐えきれば、勇者が少年の胸倉をつかんで、確実に殺す。―――運命の分かれ道であった。
そこで少年の取った行動は―――
「爆発ッ!!!!」
義手に仕込まれた魔法が―――爆発の推進力で威力を高めた拳がヒカリに振われた。
「がッ―――」
顔面にめり込んだ義手は、やがてヒカリを地面に叩きつけた。
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朝早い出勤が多くて、ウトウトしながらモンハンやってます。