輝く花には裏切りを キュウ
「何事だ」
勇者を焼き尽くさんと立ち上る光の柱は、当然、帝国の君主・グラディウス・レレクス・ガリバンドその人にも目撃していた。
「………今、調査の者を向かわせました。すぐに何事か判明するかと―――」
「馬鹿者。まずは民衆を避難させろ。あんな規格外の力………民に振われたら国が滅びる」
「しょ、承知いたしました。すぐに民衆の避難を行います!」
騎士団の手がなぜか足りないと報告しに来る騎士に、帝王近衛騎士全員の出動を告げて下がらせるグラディウス。
「………………」
彼は、この光を作り出した者が果たして、敵になるか、味方になるのか………それを思案しながら、その鋭い眼光をさらに細めた。
※ ※ ※
自分よりも身体能力が勝る者への一か八かの賭け。あれが失敗していれば死んでいたであろう事実に、自然と呼吸が浅くなるのを感じながら、ヨミヤは地面へと降り立った。
「ㇵァ………ㇵァ………ㇵァ………ㇵァ………」
もとより、ヨミヤには距離を取って、そのままヒカリのいる地面に大技を放つ選択肢もあった。
しかし、加藤との誓いがそれを許しはしなかった。―――ゆえに彼はこんな自分の命を賭けるような真似をしたのだ。
しかし―――
「おらァ!!」
極大のレーザーに焼かれ、煙を上げていた………―――その中から、ヒカリが高速の接近を見せた。
「ッ!!」
咄嗟のバックステップ。ヨミヤは神がかり的な反応を見せた。
再び左肩口から右脇腹にかけて切り裂かれるが、何とか致命傷を避けることができた。―――のだが。
「ぶっとべッ!!」
次の瞬間、着地したヒカリは、目にも止まらない速さで反転。意趣返しとばかりに、ヨミヤの顔面へ後ろ回し蹴りがさく裂した。
「がッ―――!!??」
頬に生じる凄まじい衝撃。ヨミヤは抵抗することもできず、衝撃のまま地面に叩きつけられ、何度もバウンドして近くの建物へ激突する。
「ぐっ~~~~ッッッ!!」
顔面の右半分を削り取られたのではと錯覚するほどの痛み。ヨミヤは思わず頬を押さえて蹲る。
「こんなもんかよ千間ァ!!!!」
そんな少年を、勇者は容赦なく追撃する。
少年によって左の頬から耳にかけて大やけどを負う勇者。それでも彼は構わず戦い続けた。
「―――ッ!」
ただ声にだけ反応したヨミヤは、ゴロゴロと地面を転がり、ヒカリが振り下ろす刃を避けて見せる。
「お前こそ………」
下半身を大きく頭の方へ持っていくことで刃を避けたヨミヤは、勢いをつけ、バネのように起き上がり―――
「当たってねぇんだよッ!!」
義手で………鉄の塊で思い切りヒカリの胸を打ち据えた。
「ぐァ………!!」
確かに怯むヒカリ。
―――しかし、その身体は、並外れた力でぶん殴ったはずの身体は、これまたそれ以上の力で踏ん張られてしまい、吹き飛ぶことはなかった。
「ぬりぃよ。このモヤシ野郎がァ!!」
「がァァァ!!!!」
それどころか、カウンターの左拳が再びヨミヤの右頬につき刺さり、彼は再び、地面に顔面を強打した。
「これで終わりだ」
そして、ヒカリは冷たくそう言い放つと、ヨミヤへマウントポジションを取った。
「殺す気はねぇから。―――サンドバッグになってろ」
「クッソ………ッ!!」
次々と振り下ろされる拳。
それらは一発だけでも、少年を沈めるに足る威力を誇っていた。
一撃振り下ろすだけで、地面がひび割れる。
一撃振り下ろすだけで、身体から鳴ってはいけない音が響き渡る。
一撃振り下ろすだけで、意識が飛びそうになる。
少年の脳裏に、『敗北』の二文字が色濃く浮かび上がる瞬間だった。
※ ※ ※
―――負ける。
もうどこが痛いのかわからない。
―――いやだなぁ。
意識は途切れかけてる。
―――負けるならいっそ。
だけど、『殺したい』という願いだけ残ってる。憎しみも、恨みも、ない気がする。
―――お前ごとッ………
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夏休みも残りわずかとなりました。学生は憂鬱でしょうが、社会人のみなさまはどうでしょうか?