輝く花には裏切りを ナナ
「正直言って、あなたのこと………嫌いになった。軽蔑した。―――死ぬほど殴ってやりたい」
茶羽の治療を終えたものの、意識を取り戻さない彼女を横目に、アサヒは、全身打撲だらけの惨めな勇者―――剣崎ヒカリを治療していた。
「でも、もう………もう、あなた以外に頼れる人がいないっ………だから、だから目を覚ましなさいよ!!」
アサヒの後方では、加藤が必死にヨミヤへ言葉を投げかけていた。―――しかし、あの少年が止まるとはアサヒには思えなかった。
ゆえに、今の強くなりすぎたヨミヤを止められるのは、もう、この勇者しかいないと思った。
「目を開けて、自分のしたことの責任を取りなさい!! ―――ヨミを………止めてッッ!!」
その瞬間、勇者の指がピクリと動く。
「ぁ………さ………ひ………?」
「そう、私よ!! 恋人を、散々、あなたに、傷つけられた、真道アサヒです!!」
目に涙をためて、怒りの表情を浮かべて―――――――それでいて、その声色には困ったような色が隠れていた。
「俺は………千間を………」
「いい!! あなたが最低だってことも、あなたが最悪だってことも、全部知ってる!! ―――だから、絶望してる暇なんかない!!」
絶望の色を浮かべるヒカリの胸倉を両手で懸命に持ち上げ、彼を無理やり起こす。
「動け!! 証明して!! 『僕は絶望してる』ってところを!!」
「アサヒ………」
無理やり身体を起こされたヒカリは、立ち尽くす。
その時だった。
「剣崎ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
ヨミヤがヒカリに向かって全力で突っ込んできたのは。
「ッ!! どけアサヒッ!!」
ヨミヤの剣とヒカリの剣が互いにぶつかる。
人外と人外の膂力。発生した剣圧は凄まじいもので、周囲の地面がひび割れ、民家の壁には亀裂が走る。
「キャっ………」
近くにいたアサヒは、その風圧で飛ばされてしまう。
「アサヒ………!?」
その様子に気が付いたヒカリは、彼女の名前を叫ぶが、鍔競り合いは激しさを増す一方で、アサヒを助け出すことも叶わない。
「お、まえ………アサヒが………!!」
「うるさい………だまれ………お前だけは………お前だけは………」
「ㇵッ………………その顔、その表情………どっかの誰かを見てるみたいだよ」
「うるさい………お前みたいなクズ………絶対に殺してやる」
「確かに俺はクズだが………今のお前は間違いなく『カス』だぞ………千間」
「黙れぇ!!」
叫ぶヨミヤ。しかし、力ではヒカリに勝つことが出来ず、結局後退を余儀なくされる。
「チッ………邪魔さえなければ………今頃………」
「………現実にできてないんだから諦めろタコ」
ポツリ、ポツリと雫が降り始め、やがて空から大雨が降りしきる。
「あー………………イラつく………」
ヒカリは髪をかき上げ、静かに感情を露わにした。
「別によぉ………お前が俺を殺そうとしてんのはいい。―――アサヒはお前に止まってほしいらしいから、俺が死ぬことはできないけどな」
「………………」
酷く客観的な意見。自分の立場をここまで感情を抜きにして捉えることができるのは、ひとえにヒカリの中の激情がなせる業か。
「俺がムカつくのはそこじゃない。――――――俺がイラついてんのは、お前が『アサヒを無下にして、あろうことか危険な目に合わせたことさ』」
遠くで頭を振りながら立ち上がる彼女を傍目に、ヒカリはヨミヤに剣を向ける。
「来いよ。―――橋の上の続きだ」
表情険しいヒカリから、紫色の禍々しいオーラが立ち上る。
そんなことを気にもせず、ヨミヤも剣をヒカリへ向ける。
「上等だ。―――奈落なんて言わない。あの世につれてってやるよ」
「言ってろ。―――何度やっても結果は同じだ」
帝都には雨が降り続いていた。
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