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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
奈落の復讐者編
35/268

輝く花には裏切りを ロク

「クソッ………! 真道、セイカを頼む!!」


「………………」


「………真道?」


 加藤がゆっくりと茶羽を下し、アサヒに治療を願い出るが、彼女は茫然とヨミヤを見つめるばかりでピクリともしない。


「マジかよ………」


 後方のヨミヤの行動を気にしながらも、アサヒをどうしていいかわからず、しばらく両者を交互に見ていた加藤。


「しゃあない………」


 やがて、何かを決めたように腕の防具を外すと、ゆっくりと手を振り上げ―――――――


「スマン………!!」


 パンッ!とアサヒの頬を叩いた。


「………………ぇ?」


「千間があんなことしでかして、色々思うことはあるんだろうけどよ」


 引っぱたいた手が以外と痛いことに内心驚きながらも、加藤はしっかりとアサヒの目を見て口を開く。


「しっかりしろ。ヤなことあって蹲るだけなんてやめろよ。――――――このままじゃ、エイグリッヒさんのときみたいに………………剣崎と―――千間まで失くすぞ」


「!!!!」


 アサヒは何かを思い出したように、ゆっくりと顔を上げる。


「………ごめん。茶羽さんとヒカリは私が治療しておく。――――――お願い、ヨミを止めて。もうヨミが誰かを傷つけるところをみたくない」


「………頑張るよ」



 ※ ※ ※



 タイガの拳を避け、フェリアの錫杖をかわし、ザバルの魔法を迎撃する。


 それは、帝国の実力者でも、難しいことだった。―――だというのに、ヨミヤは表情を曇らせることなくすべてを凌いでいた。


「クソッ………なんで当たらない!?」


 ザバルの表情に陰りが出始めていた。


 それもそうだろう。彼は生粋の魔法使い。近接戦闘は出来ず、戦闘では魔力を消費しながら戦うしかない。


 だというのに、先ほどから魔法を(ことごと)く迎撃され、魔力を無駄に使わされている。


「ザバルさん! 一度下がってください!! もう魔力が――――――」


 ほんの少しザバルを気遣う言葉。


 しかし、これが命取りだった。


「………………」


 ヨミヤはフェリアのほんの少し隙を見逃さなかった。


 少年は、フェリアの背後に、今まで使っていなかった魔法―――風弾(ハンマー)を再現。


「かッ―――!?」


 風の弾丸は見事にフェリアの首を直撃。彼女の意識を無慈悲に刈り取った。


「ッ!? フェリ―――!?」


 そして、矢継ぎ早、フェリアの昏倒で集中が乱れたザバルの側頭部―――こめかみを同じく風の弾丸を用いて攻撃。


 こうして、魔法使い見習いの少年は、熟練の魔法使いを地に叩き伏せた。


「チッ………………!!」


 タイガより、ヒカリより、よっぽど戦闘になれた二人が狩られる中、タイガは舌打ちをしながらも、めげることなくヨミヤへ攻撃を続ける。


「……………」


 不意に、ヨミヤはピタリと動きを止める。


「!?」


 そんな彼の頬を容赦なく、タイガの拳がつき刺さる。が………


「………すげーなお前」


 よろめくことなく、タイガの拳を受け、尚も直立不動を貫いているのだ。


「なぁ、赤岸くん。剣崎ヒカリはオレに何をしたと思う?」


 唐突にタイガへ問いかけるヨミヤ。その表情は歪に歪んでいる。


「………それは、お前を止めてからゆっくり聞かせてもらう」


「………………何も知らないクセにオレを止めるんだ」


 怪訝な顔をするタイガに、それでもなお、ヨミヤは勇者の蛮行を語りだす。


 醜い嫉妬に駆られ襲いかかったこと、躊躇なく右腕を落とされたこと、奈落に落とされ殺されかけたこと―――そのすべてを。


 そうすれば、彼は親友のやったことに激怒し、あの勇者と仲違いをしてくれるかもしれない。―――――その光景がきっと愉快なものになる。


 そんな昏い、暗い感情に支配されていたヨミヤだったが………


「……………………………すまなかった千間。オレが、オレがアイツを止められなかったばかりに―――――」


 返ってきたのは、憐憫の瞳。『激怒』など、激しい感情の欠片も、そこには存在しなかった。


「いい千間。オレがアイツを全力で、何回も、腐った根性治るまでぶん殴ってやる。―――だからお前は帰ってこい! お前が………ヨミヤ、お前が手を汚す必要はないんだ!!」


「………………」


 憐みの表情。―――それは、自分のこの感情が、心臓を溶けた金属で熱せられているかのようなこの激情が、怒りが、憎しみが、すべて『間違い』であると言われているかのような気分だった。


「…………………けるな」


 ゆえに、許せるはずもなかった。


「ふざけるなッ!! この怒りも、憎しみも、全部!! 全部全部全部全部!!」


 だから少年は声を張り上げた。


「『間違い』なんかじゃないッッッ!!」


 少年は、顔面につき刺さった拳を払いのけ、失くしたはずの右腕、鉄塊の義手を力を込めて振り上げた。


「赤岸ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 そして、鉄の拳は、タイガの顔面に直撃する。


 まるで、バットで打ち出されたボールのように、なんどもリバウンドして、ついに、民家の外壁に激突。


「せ………ん…………………ま………だめ――――――」


 壁を破壊しながら、瓦礫に埋もれたタイガは、そのまま意識を失った。


 級友が果てる光景と、自身の偽物の腕を交互に見たヨミヤは―――


「………………」


 沈黙の先で、自分の内の()()()()に気が付いてしまった。



「このバカ野郎!!」



 次の瞬間、加藤の飛び蹴りが顔面に直撃し、ヨミヤは地面へ崩れ落ちる。


 加藤は、そんなヨミヤへ馬乗りになり、拳を振り上げる。


「お前が剣崎くんを死ぬほど恨んでるのはわかった………でも………でも―――」


 そして、加藤の拳がヨミヤへ振り下ろされた。


()()関係なかったろ!! 誰も彼も、お前を止めようとしたろ!! なんでそんな人間を()()()()んだ!!」


 おそらく、彼の言っていることは破綻しているのだろう。


 『勇者を殺す』というヨミヤの目的に、彼らは無理やり介入してきた。その時点で関係ないことはない。恨みを持って『殺す』という人間を止めるのだ。自分が傷つく覚悟は持ってしかるべきなのだろう。


 でも、それでも、ヨミヤの心にその言葉は深く、とても深くつき刺さった。


 今の加藤は、『ヨミヤを止める』という目的と、茶羽を傷つけられた『怒り』で揺れている。―――ゆえに、彼の拳は何度も、何度もヨミヤへ振り下ろされた。


―――あぁ、この拳が………一番()()なぁ………


 憎むべきヒカリでも、恋人でもあるアサヒでも、ヒカリの親友のタイガでも、この世界でであったフェリアやザバルでもない。


 なんの関係もない、クラスメイトの言葉が、深く、深く………とても深くヨミヤを揺らしていた。


「でもね………」


 しかし、それでも少年は暗く、怒りをもって()を向いた。


「この怒りは消えない」


 刹那。


「ッ!!?」


 加藤の拳を受け止めたヨミヤは、風を生成。


 加藤の身体を無理やり浮かすことでマウントポジションから脱出。はるか上空まで飛ばした加藤へ、肉薄した。


「誓うよ。関係のない人は、なるべく傷つけないって」


「なにを―――」


 そして、加藤の腹部に一撃。


「がっ………ぁ………」


 ヨミヤはクラスメイトを眠りへと誘った。

閲覧いただきありがとうございます。

昨日のスプラはクマフェスでしたね。999まで頑張ってしまいました笑

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― 新着の感想 ―
止めて欲しいわけではない人を止めるわけにはいきませんよね。致し方ないことかとおもいます。最後はそしてやはり、実力行使の世界ですから、思いや実力の薄い人から倒れていく自然な展開が素敵でした。今回もとても…
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