輝く花には裏切りを ロク
「クソッ………! 真道、セイカを頼む!!」
「………………」
「………真道?」
加藤がゆっくりと茶羽を下し、アサヒに治療を願い出るが、彼女は茫然とヨミヤを見つめるばかりでピクリともしない。
「マジかよ………」
後方のヨミヤの行動を気にしながらも、アサヒをどうしていいかわからず、しばらく両者を交互に見ていた加藤。
「しゃあない………」
やがて、何かを決めたように腕の防具を外すと、ゆっくりと手を振り上げ―――――――
「スマン………!!」
パンッ!とアサヒの頬を叩いた。
「………………ぇ?」
「千間があんなことしでかして、色々思うことはあるんだろうけどよ」
引っぱたいた手が以外と痛いことに内心驚きながらも、加藤はしっかりとアサヒの目を見て口を開く。
「しっかりしろ。ヤなことあって蹲るだけなんてやめろよ。――――――このままじゃ、エイグリッヒさんのときみたいに………………剣崎と―――千間まで失くすぞ」
「!!!!」
アサヒは何かを思い出したように、ゆっくりと顔を上げる。
「………ごめん。茶羽さんとヒカリは私が治療しておく。――――――お願い、ヨミを止めて。もうヨミが誰かを傷つけるところをみたくない」
「………頑張るよ」
※ ※ ※
タイガの拳を避け、フェリアの錫杖をかわし、ザバルの魔法を迎撃する。
それは、帝国の実力者でも、難しいことだった。―――だというのに、ヨミヤは表情を曇らせることなくすべてを凌いでいた。
「クソッ………なんで当たらない!?」
ザバルの表情に陰りが出始めていた。
それもそうだろう。彼は生粋の魔法使い。近接戦闘は出来ず、戦闘では魔力を消費しながら戦うしかない。
だというのに、先ほどから魔法を悉く迎撃され、魔力を無駄に使わされている。
「ザバルさん! 一度下がってください!! もう魔力が――――――」
ほんの少しザバルを気遣う言葉。
しかし、これが命取りだった。
「………………」
ヨミヤはフェリアのほんの少し隙を見逃さなかった。
少年は、フェリアの背後に、今まで使っていなかった魔法―――風弾を再現。
「かッ―――!?」
風の弾丸は見事にフェリアの首を直撃。彼女の意識を無慈悲に刈り取った。
「ッ!? フェリ―――!?」
そして、矢継ぎ早、フェリアの昏倒で集中が乱れたザバルの側頭部―――こめかみを同じく風の弾丸を用いて攻撃。
こうして、魔法使い見習いの少年は、熟練の魔法使いを地に叩き伏せた。
「チッ………………!!」
タイガより、ヒカリより、よっぽど戦闘になれた二人が狩られる中、タイガは舌打ちをしながらも、めげることなくヨミヤへ攻撃を続ける。
「……………」
不意に、ヨミヤはピタリと動きを止める。
「!?」
そんな彼の頬を容赦なく、タイガの拳がつき刺さる。が………
「………すげーなお前」
よろめくことなく、タイガの拳を受け、尚も直立不動を貫いているのだ。
「なぁ、赤岸くん。剣崎ヒカリはオレに何をしたと思う?」
唐突にタイガへ問いかけるヨミヤ。その表情は歪に歪んでいる。
「………それは、お前を止めてからゆっくり聞かせてもらう」
「………………何も知らないクセにオレを止めるんだ」
怪訝な顔をするタイガに、それでもなお、ヨミヤは勇者の蛮行を語りだす。
醜い嫉妬に駆られ襲いかかったこと、躊躇なく右腕を落とされたこと、奈落に落とされ殺されかけたこと―――そのすべてを。
そうすれば、彼は親友のやったことに激怒し、あの勇者と仲違いをしてくれるかもしれない。―――――その光景がきっと愉快なものになる。
そんな昏い、暗い感情に支配されていたヨミヤだったが………
「……………………………すまなかった千間。オレが、オレがアイツを止められなかったばかりに―――――」
返ってきたのは、憐憫の瞳。『激怒』など、激しい感情の欠片も、そこには存在しなかった。
「いい千間。オレがアイツを全力で、何回も、腐った根性治るまでぶん殴ってやる。―――だからお前は帰ってこい! お前が………ヨミヤ、お前が手を汚す必要はないんだ!!」
「………………」
憐みの表情。―――それは、自分のこの感情が、心臓を溶けた金属で熱せられているかのようなこの激情が、怒りが、憎しみが、すべて『間違い』であると言われているかのような気分だった。
「…………………けるな」
ゆえに、許せるはずもなかった。
「ふざけるなッ!! この怒りも、憎しみも、全部!! 全部全部全部全部!!」
だから少年は声を張り上げた。
「『間違い』なんかじゃないッッッ!!」
少年は、顔面につき刺さった拳を払いのけ、失くしたはずの右腕、鉄塊の義手を力を込めて振り上げた。
「赤岸ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
そして、鉄の拳は、タイガの顔面に直撃する。
まるで、バットで打ち出されたボールのように、なんどもリバウンドして、ついに、民家の外壁に激突。
「せ………ん…………………ま………だめ――――――」
壁を破壊しながら、瓦礫に埋もれたタイガは、そのまま意識を失った。
級友が果てる光景と、自身の偽物の腕を交互に見たヨミヤは―――
「………………」
沈黙の先で、自分の内の醜い事実に気が付いてしまった。
「このバカ野郎!!」
次の瞬間、加藤の飛び蹴りが顔面に直撃し、ヨミヤは地面へ崩れ落ちる。
加藤は、そんなヨミヤへ馬乗りになり、拳を振り上げる。
「お前が剣崎くんを死ぬほど恨んでるのはわかった………でも………でも―――」
そして、加藤の拳がヨミヤへ振り下ろされた。
「誰も関係なかったろ!! 誰も彼も、お前を止めようとしたろ!! なんでそんな人間を傷つけるんだ!!」
おそらく、彼の言っていることは破綻しているのだろう。
『勇者を殺す』というヨミヤの目的に、彼らは無理やり介入してきた。その時点で関係ないことはない。恨みを持って『殺す』という人間を止めるのだ。自分が傷つく覚悟は持ってしかるべきなのだろう。
でも、それでも、ヨミヤの心にその言葉は深く、とても深くつき刺さった。
今の加藤は、『ヨミヤを止める』という目的と、茶羽を傷つけられた『怒り』で揺れている。―――ゆえに、彼の拳は何度も、何度もヨミヤへ振り下ろされた。
―――あぁ、この拳が………一番痛いなぁ………
憎むべきヒカリでも、恋人でもあるアサヒでも、ヒカリの親友のタイガでも、この世界でであったフェリアやザバルでもない。
なんの関係もない、クラスメイトの言葉が、深く、深く………とても深くヨミヤを揺らしていた。
「でもね………」
しかし、それでも少年は暗く、怒りをもって前を向いた。
「この怒りは消えない」
刹那。
「ッ!!?」
加藤の拳を受け止めたヨミヤは、風を生成。
加藤の身体を無理やり浮かすことでマウントポジションから脱出。はるか上空まで飛ばした加藤へ、肉薄した。
「誓うよ。関係のない人は、なるべく傷つけないって」
「なにを―――」
そして、加藤の腹部に一撃。
「がっ………ぁ………」
ヨミヤはクラスメイトを眠りへと誘った。
閲覧いただきありがとうございます。
昨日のスプラはクマフェスでしたね。999まで頑張ってしまいました笑