輝く花には裏切りを ゴ
「そんな………」
「千間くん、考え直すんだ!」
茶羽と加藤が叫ぶ。
しかし、ヨミヤは剣を構えたまま動かない。
「―――――――………………わかった。手加減はしないぞ」
茶羽と加藤の前に出たタイガは、全身の力抜き――――――そして、一気に駆け出した。
「!?」
強化された身体能力。それでギリギリタイガの動きが見えたヨミヤは首を横に振るだけで、タイガの拳を回避するが………
「完璧に避けたと思ったのに」
かすった拳がヨミヤの頬を浅く切り、血が流れ出る。
「どんどん行くぞ」
続くジャブ二連撃。ヨミヤはそれを上半身を後方にのけぞらせて回避する。
「タイガさん!! 合わせます!!」
「遅れるなよ!!」
そこへフェリアも参戦。目にも止まらない連撃と、ハイレベルな連携がヨミヤを襲うが、ヨミヤは寸でのところですべてを避けている。
「事情は帝宮で聞きます!! 今ならまだ引き返せます!!」
「………随分余裕ですねフェリアさん」
叫ぶように呼び掛けるフェリア。そんな彼女を一瞥すると、ヨミヤは魔法を発動する。
「………………ぇ?」
刹那、フェリアの背中から魔法が発動。爆発が彼女を包む。
「魔法の無詠唱発動………!?」
「いや、無詠唱どころか魔法名の発動すらしていない………!!」
茶羽から驚愕の声が漏れる。それに補足を加えるのはザバルだ。
「しかも、今………背後から発生してましたよ………」
「おいおい………連れ戻すなんて生ぬるいこと言ってられないぞ―――――――俺達が殺される………!」
すぐにザバルが参戦。それに続き、茶羽と加藤も加わる。
「フェリアッ!!」
二人から距離をとるヨミヤ。そんなことに構うこともしないタイガは、咄嗟にフェリアを支えに入る。
「だ、いじょうぶ………です!!」
タイガに支えられたフェリアはすぐに錫杖をかざし、表面に掘られた文字を指でなぞる。
「『癒雫』!!」
錫杖に刻まれた文字が発光したかと思えば、即座に回復魔法が発動。フェリアの傷を瞬時に癒して見せた。
「『創造する岩槍』!!」
その隙をカバーするように、岩の槍がヨミヤに飛んでいく。
「………」
しかし、真横から発生した火球が岩の槍に直撃。その軌道を大いにそらす。
「どんだけ強くなってんだ………アイツ………」
「赤岸君、千間君の能力って………………」
タイガの隣まで来た茶羽は、タイガに質問する。それにタイガは自身の記憶を掘り起こしながら答える。
「確か…………………――――――『領域』だったか………?」
「領………域…………………!!」
それにピンきた茶羽は、バッと顔を上げる。
「彼の能力はおそらく、自身の一定の範囲内に自身の使ったことのある魔法を再現する能力なのでは………」
「なんでそう思う………?」
「彼との魔法の練習中、一度だけ、彼――――――魔法を詠唱せず発動したことがあるんです。その時のことと、今のフェリアさんに魔法を当てたところを見ると………そうゆう能力って考えられる気がするんです!」
「正解だよ茶羽さん」
そこへ、ヨミヤが歩み寄る。
「『領域』はオレの一定の範囲………大体、今はオレを中心とした五メートル以内かな。ちなみに、魔力の消費を軽減する効果もある。―――――――これでいい? オレ、早くそこのクズ殺したいんだよね」
薄く笑って見せて、少しだけ下向くと―――――次の瞬間には殺意を漲らせた目でタイガたちを睨みつけた。
「………………早く来なよ」
※ ※ ※
「タイガ、突っ込むな。『領域』中に入れば、どこから魔法が飛んでくるわからん。―――――――遠隔の物量で………潰す」
ザバルに引き留められたタイガ。一方、魔法を使える三人はそれぞれ詠唱を開始する。
「………待たないよ?」
ヨミヤはわざわざ自分の前で詠唱を始める人間たちに、すぐに火球を三発分発射する。しかし、
「「うらぁ!!」」
ザバルとフェリアに向かった火球をタイガが、茶羽に向かった火球を加藤が弾き飛ばした。
「強くなったみたいだが千間………………あんま俺らを舐めんなよ」
「そうだぞ千間!! 俺らだって強くなったんだ!!」
「そっか―――――――じゃあ、耐えてみなよ」
刹那、火球が次々と打ち出される。それこそ連射銃のように。
「「ッ!!」」
息を飲むタイガと加藤。しかし、それでも避けることはせず、歯を食いしばって次々と火球を打ち落とす。
「よくやったタイガ、カトウ!! どくんだ!!」
次の瞬間、数百にも及ぶ岩の弾丸や氷の弾丸、炎の弾丸が形成され、茶羽・サバネ・フェリアの頭上に顕現した。
「めんどくさ………」
次の瞬間、特大の火力がヨミヤに集中し―――――――
「まぁ、どうにでもなるけどね―――――――」
その言葉と同時に、突如として迫る魔法と同等の数の火球が形成された。
「あの量の魔法を一瞬で!?」
「出鱈目が過ぎる………!!」
フェリアとザバルの驚愕から漏れる中、魔法同士がぶつかり、爆炎をまき散らしながら相殺される。
「っ………………視界が………」
広がる熱気に顔をしかめながら、それぞれが腕で顔を覆う。
「まずは君だ」
そんな煙の中、ヨミヤはその爆煙を破りながらタイガたちの上空へ躍り出た。
「『無限鎖』」
そして、義手を前に翳し、魔法名を唱える。
すると、義手の手のひらが発射され、茶羽にまっすぐに飛んでいく。
「きゃっ………………!!」
義手は茶羽に巻き付き、次の瞬間、勢いよく巻き取られ、茶羽はヨミヤのところまで一直線とに連れ去られる。
「セイカぁ!!」
加藤の声が響く中、茶羽を近くまで巻き取ったヨミヤは、拳を振りかぶる。
「寝ててくれ」
囁くように懇願するヨミヤは、次の瞬間、拳を茶羽の腹部に打ち込む。
「かっ………は………………」
常人には過ぎた衝撃。茶羽はあっさりと意識の手綱を手放す。
「千間ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
すぐに加藤が接近してくるが、ヨミヤは繰り出された蹴りを足で受け止め、その衝撃を利用してさらに上空へ飛ぶ。
「加藤くん。しっかり受け取って」
「っうお………!」
ヨミヤは、そんな加藤へ茶羽を投げ返す。
加藤はそれを受け取ると同時に落下。ヨミヤは風を使い、少し離れた位置に着地。
「ハァ!!」
その瞬間、タイガが肉薄。高速の連撃を繰り出す。
「………………」
ヨミヤはそれらを、回避したり、剣で弾いたり、拳で受け止める。
「………っチクショ」
タイガにやや戸惑いの表情が見れたが、フェリアの接近やザバルの魔法により、ヨミヤにはそれを気にする余裕はなかった。
「さぁ、あと四人」
待望の瞬間が迫っていることを予感し、そう呟く少年の口元は歪に歪んでいた。