輝く花には裏切りを ヨン
その男の子は優しかった。誰に優しくされなくても、誰かに優しさを分けてあげられるほどに。
今思えば、彼のそんな所に惹かれたのだと思う。
そんな大好きな男の子が、今、誰かを傷つけ、あたかも、誰かの人生を終わらせようとしている。
※ ※ ※
「さて、これで終わりにしよう剣崎」
腹部に圧力をかけられ、動くこともできないヒカリは激痛に耐えながら、うっすらと瞳を開いた。
「………………悪かった。千間」
『ゴポッ』と口から血を流し、それでもヒカリはヨミヤから目を離さない。そんな勇者の謝罪に、ヨミヤはあらんかぎりに歯を食いしばる。
「は? 謝るなよ。別に謝罪なんかいらない。オレが欲しいのはお前の死体だけだ」
足を振り上げ、再びヒカリの腹部を踏みにじる。
「ぐ………ッ…………………―――だろうな」
「もう、もうやめて………ヨミ………………もうやめようよ………………ヨミが人を傷つけるトコ………見たくない………」
地面にへたり込み、ヨミヤへ懇願するようにそう呟くアサヒ。そんなアサヒへ、ヨミヤは向き直る。
「オレは許せないよアサヒ。――――――コイツは、アサヒが死ぬかもしれないって時に、オレの邪魔をして、あろうことか殺そうとした。許せないよ」
ヨミヤはまっすぐアサヒを見つめ、言い切る。
その瞳に議論を余地がないことをアサヒは理解し、ヨミヤを止めるすべがないことを知り力なくうなだれる。
アサヒの様子を見ていたヨミヤは、再びヒカリへ身体を向けて、今度こそ剣を振り上げる。
「ちょっと待ってくれ」
振り下ろした腕を、肘を絡めることで止める者がいた。
「コイツが何かしたんだろうが…………………それだけは勘弁してくれ千間」
「………タイガくん」
ヨミヤの剣を止めたのは赤岸タイガだった。
「千間くん!!」
「千間くん!」
タイガの後方には、茶羽セイカ、加藤フミヤ、ザバル、フェリアが控えていた。
「何があったか聞かせろ千間。――――――そして、戻ってこい!!」
「………………」
クラスメイト達がヨミヤの前に立ち塞がる。今の彼にはそれが『ヒカリを庇っている』ようにしか認識できない。
「タイガ―――いや、赤岸くん。オレは戻ってもいいよ」
その言葉に、クラスメイト達に希望の光が灯る。しかし、その希望は、続く言葉で粉々に破壊される。
「剣崎ヒカリを差し出せば、そっちに戻るよ」
「「「………………」」」
クラスメイトがクラスメイトを殺そうとするその現場に、全員の表情が絶望に染まる。
「――――――もういいだろ赤岸くん。オレは何を言われようが、そこのクズを殺す。そして、君たちはなにがあっても勇者を守りたい。………………目的が対立してるんだ」
ポツリと、雨粒が天から降り始める。
「勇者の取り巻き共、オレは勇者を殺す―――――――オレを殺す気で止めに来い」
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今、異世界失格を鑑賞中です。面白いですね!