輝く花には裏切りを サン
「大変だったよ剣崎」
勇者の頭を踏みつけ、容赦なく体重をかける。
「あの谷、谷底にも魔獣が一杯いてさ、なんだかヤバいやつも一匹いたし」
それに飽きると、今度は勇者の腹に蹴りを入れる。気を失っていた勇者は、その痛みで目を覚ましたのか、しきりにえづいていた。
「地上に上るときも、変な坑道通らされるし。………あぁ、そこにもヤバいスケルトンがいてさ」
今度は勇者を仰向けにして、その腹部を何度も何度も踏みつけにした。
「でも、ここまで送ってくれた人がさ、みんな無事だって教えてくれて………本当に安心したよ」
言葉とは裏腹に、ヨミヤは執拗にヒカリへ暴力を加える。
「ヨミ!? 待って!! 暴力はダメ!!」
そこで、状況が飲み込めず惚けていたアサヒがやっと止めに入る。
「いいんだアサヒ。オレはこいつにだけは暴力を振っていいんだよ」
「なんで!! 何があったの!! お願い!! 君が暴力振っちゃダメ!! 人を傷つけないで!!」
一生懸命ヨミヤを止めようとするアサヒだが、人ならざる膂力を手に入れたヨミヤを止めることはできない。
「『何があったの』ねぇ………………」
懸命にヨミヤを引っ張るアサヒに、彼は少しため息をついて、足で勇者を縫い留めたまま、外套を脱ぎ去った。
「っ………………!?」
アサヒはその外套下のヨミヤの身体を見て――――――正確にいうなら、彼の右腕をみて絶句した。
「オレは、コイツに右腕を切り落とされた。これは義手でね。――――――この通り、この下は何もない」
機械仕掛けの義手。最後に見たヨミヤとはかけ離れた姿になっていた。
「このクズは、アサヒが危ないって時に、一緒に転移したオレを攻撃して――――――オレを谷から落としたんだ」
「ぇ………………ヨミは………転移したときに、運悪くそのまま谷に落ちたって………………」
「そんなの、コイツのウソだよ。自分のやったことを隠すための、幼稚で、仕方のない―――――最低な嘘」
ショックだった。
恋人が誰かを傷つけたことも、恋人が友達に腕を落とされていたことも、友達が人として最低な嘘を自分についていたことも、何もかも………
「ぁ………………」
何かを言おうとしたが、もはや言葉にすることもままならない。
「いたぞ!!」
そこへ、騎士団が乱入してくる。
「通報があった!! 勇者へ暴行を加えているチンピラがいるとなぁ!!」
迅速な対応で、騎士団はアサヒをヨミヤから放し、ヨミヤを包囲する。――――――しかし、ヨミヤは騎士団に目を向けることもなく、アサヒとの会話が終わったときりかえ、無言で勇者を踏みにじり始めた。
「おい貴様!! ふざけるのも大概にしろ!! 我らを無視して犯罪行為とはッ―――――」
リーダーと思わしき男は、すぐさま抜剣し容赦なくヨミヤに斬りかかるが、
「………」
少年は鋭い眼光を騎士に向けると、瞬間―――――
騎士よりも素早く動いたヨミヤは、兜の上から騎士の頭に蹴りを入れる。
「がぁ………」
そのままその騎士を遥か彼方へ蹴り飛ばした。
「は、速い………」
「みえたか?」
「いや………見えなかった」
にわかにざわつく騎士団。
そんな彼らへ、ヨミヤは冷たく一瞥した。
「オレはこのクズを殺す。邪魔をするなら―――――覚悟を持ってかかってこい」
その言葉に、騎士団は一瞬たじろぐ。
「ちょ、調子になるな!! 我らはこの街の秩序を守る者だ。――――――それに、勇者殺害など、見過ごせるわけないだろう」
動揺広がる騎士団を、サブリーダーらしき男が立て直し、空高く剣を掲げる。
「怯むな!! 我らもとより、身命を帝国に捧げし身。行くぞ!!」
「「オ――――――オォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」」
「チッ………………」
士気を取り戻す騎士団に若干のめんどくささを感じながらも、誰も彼もが足元の勇者を大切にしているようで虫唾が走るヨミヤ。
「どいつもこいつも………」
次々と襲い掛かる騎士たち。
ヨミヤは魔法を使うこともなく、一人、また一人と昏倒させていく。
一人は顔面を殴り倒され、
一人は義手に剣を弾かれ、前蹴りで遥か後方まで飛ばされ、
一人は持ち上げられ、民家の屋根まで投げ飛ばされ、
一人は足をつかまれ、周囲の騎士をなぎ倒す武器にされ、
「はぁぁぁぁッ!!!!」
そして、最後の一人になったサブリーダーの剣を、抜剣することで受け止める。
「最後だ。盛大にぶっ飛ばしてやるよ」
刹那、騎士の足元から強烈な風が発生する。
「う………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「新しい魔法『風圧』だ。飛んでけ」
騎士はそのままはるか上空に打ち上げられ、気づけば近くの民家に落下していた。
「ヨミ………」
その場に残ったのは、数多の騎士が転がるその中央で、勇者に剣を向けるヨミヤだけだった。
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ブルーロック30巻よかったです。




