輝く花には裏切りを イチ
「タイガ! そっちに行った!!」
「任せろヒカリ!!」
ヒカリが帝都に帰還して早一週間が過ぎようとしていた。
現在、ヒカリは、帝都近くに発生した魔獣をタイガ・フェリアと共に討伐に出ていた。本来なら、ヒカリ一人で済む程度なのだが、タイガの希望もあり、『周囲の調査も行う』という条件付きで、ヒカリと共に魔獣討伐に出ていた。
相手は、魔族の遺体を依り代に発生した屍。鬼の頭部をもった鬼頭族を依り代にしているため、身体能力が通常の屍よりも強い。
しかし、転移直後から絶えず鍛え続けてきたタイガには何の問題もなかった。
タイガは、敵の拳を、華麗に受け流し敵の懐に潜り込む。そして―――
「フッ―――!!」
寸勁。分厚い脂肪の内側に衝撃を打ち込む特殊な打撃。それが能力によって強化された腕力によって打ち出された。
衝撃は、屍の内部を通り抜け、背中に突き抜ける。
鬼頭族の身体はソレに耐えられなかったのか、背骨辺りから破裂したように穴が開き、立つことができなくなった屍は地面にひれ伏す。
「ㇵッ!!」
間髪入れず、フェリアは錫杖で屍の頭部を破壊。死体はそのまま動かなくなった。
「よっしゃぁ、ナイスフェリア!!」
大きくガッツポーズをするタイガ。ヒカリとフェリアはそんな彼の元に歩み寄る。
「お二人とも、この一週間で本当に強くなりましたね」
「まぁな。俺も毎日欠かさず訓練してるが………ヒカリは俺以上に訓練してるよな」
グリグリと首を回すタイガは、やや心配の色も滲ませながら、ヒカリへと言葉を振る。
すると、軍服の肘で剣を挟み、血をぬぐうヒカリが少し視線を下げながら口を開く。
「ああ………………もう誰も泣かしたくないからな。今以上に強く………今以上になんでもできるようにならないと」
ヒカリのその言葉に、タイガもフェリアも目を伏せた。
「千間………俺、アイツのこと、気に入ってたんだけどな………まさかこんなことになるなんてな………」
「………………我々が自分勝手に貴方たちを呼び出さなければ、彼も今頃は―――」
「やめろよ。それはいうな。俺は騎士団の連中にも仲間が出来ちまった。―――そんなことを言われると、そのことも無駄って言われてるみたいで気に食わん」
フェリアが自分たちの行いを悔いるより先に、フェリアの口を閉ざす。
「………………帰ろう。俺、まだやることあるから」
「ヒカリ、夜暇か? 空いてたら訓練付き合え」
「夜ね。予定を空けとくよ」
三人はそれぞれ歩き出す。
「そういえば、新しい能力が発現してたんだって?」
「ああ、ただ、今回のは詳しいことがわからないらしい」
「ええ、今回ヒカリさんに発現した能力は、『領域』『能力連結』と同じく、使い方・効果のわからない能力です。―――ただ、推測できることが多数、あります」
タイガ・ヒカリと歩を同じくするフェリアは、二人に人差し指を立てた。
「普通、この短期間で能力を授かることはありません。ヒカリさんは色々と規格外なので、ありえないこともないのですが――――――今回の場合、考えられることは一つ。『能力は授かっていたが、形が定まっていなかった』という事例です」
『時折あるんです』とフェリアは続ける。
「鑑定では何の能力を授かっていなかった人間が、ある時を境に力に目覚める現象が」
フェリアが言うには、そういった事例は、特殊な能力や、希少な能力であることが大半だという。
「…………………」
そんなフェリアの言葉を聞いて、ヒカリは自分の手のひらを見つめた。
あの戦争の前と後で違うことといえば、ヨミヤとの関係である。確証はなくとも、ヒカリはそう直感していた。
何より、アベリアスにあの黒霧に閉じ込められたとき、自分の感情が制御できなくなった。―――今ならわかる。あの時に、『この能力』は少年の中で形成された。
能力名『深き光』。
それは、少年の根底に確かに根を張った昏い力であった。
閲覧いただきありがとうございます。
今日までお盆休みだったため、明日以降は一日一本の投稿になるかと思われます(休みの日はストックがあれば二本ほど投稿すると思います)