勇ましき者とは ロク
「死んだよ。千間は」
時が止まる。
アサヒから、動揺と驚愕の表情が見て取れた。
「ぇ………?」
やがて、言葉の意味を理解し始めたのか、口元を押さえ、フルフルと力なく首を振っている。
「嘘、うそ………………うそだよ………そんな………なん、で………」
「あいつは、俺と一緒に遠くに飛ばされて、上空に放り出された。」
最悪の虚言。最低な嘘をヒカリは並べ始めた。
「俺は何とか着地できたけど、千間………アイツは近くの渓谷にそのまま放り出されて………」
「うそっ………………うそだよ………でも、それならまだ………生きてっ―――――」
「いや、多分アレは助からない。地面が見えないほど深い谷だった………アレで生きていられるとは………」
ヒカリの言葉で、アサヒは今度こそ膝から崩れ落ちる。
「うそ………うそだ………………こんな………こんなのって………」
「………」
地面に座り込み、涙を隠しもしないアサヒを見て、少年の中に昏い感情が蠢いていた。
※ ※ ※
「アサヒさんをここまで運んでくれて、ありがとうございます、ヒカリさん」
ヒカリにお礼を告げるのは、目元に隈を浮かべるフェリアだ。
「いえ………自分が余計な事を言ったせいで………彼女に負担をかけました」
ヒカリは顔を背ける。そんな少年にフェリアは少し微笑んで首を横に振った。
「いいんですよ。内容は確かにこの子にとって残酷だったかもしれませんが………事実は事実です。早いか遅いかだけの違いです」
フェリアはそう告げると、ヒカリへ一歩近づき、彼の手をそっと握った。
「………せめて、貴方だけでも無事に帰ってきてよかったです」
「………」
ズクン
胸の奥がそんな悲鳴を上げた気がした。
「………長旅で疲れてるところ、申し訳ないのですが、陛下がお呼びです。―――ついてきていただけますか?」
「………ぁ、はい、わかりました」
フェリアに案内され、医務室より出た二人は、帝宮の中を歩いた。
「………あの、フェリアさん。タイガとか、他のみんなは?」
医務室を出て、比較的短い廊下を出ると、ヒカリたちが最初に転移してきた広間にでた。そのまま、真正面に見える階段を上り、階をまたぐ。
「はい、タイガさんはその実力を認められ、現在はここから北に行った町で、先の戦いで逃亡した魔族を騎士団と共に追跡しています」
階段を上り、そのまま真正面の扉をくぐると、今度は長い廊下が現れる。
「カトウさんは、戦場だった帝都前平原で、遺体・遺品の回収などをしてくれています。サバネさんは、現在、エイグリッヒ様の残してくれた勇者召喚の術式の解読をしてくれています」
「それって――――」
フェリアの言い回しが気になったヒカリ。その言い方ではまるでエイグリッヒが――――そう感じたところで、玉座の間まで到着し、口を閉ざす。
重低音と共に、扉が開かれる。
ヒカリは、フェリアに続いて入室。ある程度進んだところで、彼女が片膝をつき頭を下げたため、ヒカリもそれに倣う。
「―――まずは、よくぞ戻った勇者よ」
最初の印象は、初老の男性。
白髪の髪をすべて後ろに流しており、年齢の割に筋肉がついていてしっかりした身体つきの男性だった。
なにより目についたのが、騎士でもなく、ましてや戦場でもないのに黒の甲冑を身にまとっていることだった。
「初対面だったな。我こそがこの帝国を統べる皇帝―――グラディウス・レレクス・ガリバンドである」
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