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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
奈落の復讐者編
27/268

勇ましき者とは ゴ

「見えたよ、帝都」


 白衣の男にそう告げられ、ヒカリはそっと、視線を窓の外へと視線を送った。


 そこには、巨大な砦のようなものが見えた。聞けば、帝都は何度も魔族の侵攻に晒され、帝国が防衛をするための砦だという話だった。


 なんでも、都市の南は海に面しており、西には人間領と魔族領を隔てる『西の山脈』がある。そのため、北から東に街と外界を分ける、この砦があるおかげで、帝都は何度もあった魔族の侵攻を防いでいるとのことだった。


「…………」


 ヒカリは、その砦のさらに奥、帝王の居城・帝宮へと視線を送った。


「んー、まだ『帝都前決戦』の被害が酷いね」


「…………………」


 男の言葉にヒカリが視線を戻すと、美しかったであろう平原のあちこちに、焼き焦げた跡があったり、巨大な魔法でも撃ち込まれたのか、クレーターが出来ていた。


 酷いところでは、血痕がこびりついていたり、血の付いた武具などが放置されており、戦場の生々しさを如実に伝えていた。



「はい、わかりました。ここの治療が終わったら帝都に戻ります!!」



 その時だった。


 ヒカリの乗っている馬車が一人の少女とすれ違う。


 肩までの黒い髪、いつも元気な色をしていた瞳は少し陰りを見せていた。―――だが、ヒカリが間違えるはずもなかった。白い軍服の少女。


「アサヒ――――――」


 気づけば、ヒカリは走っている馬車から飛び降りていた。


「おい!! まだ帝都にはついて――――――」


「いいよ運転手。どうやら大事なものを見つけたらしい」


 呼び止める御者を、白衣の男は制する。そうして、少年の走り去る先を男は見つめた。



 ※ ※ ※



「アサヒッ!!!!」


 馬車から飛び降りたヒカリは、つまずきそうになりながらも、彼女に駆け寄る。


 一方のアサヒも、自身を呼ぶ声に反応し―――


「ヒカリ!!??」


 あらんかぎり眼を見開いた。


「す、すいません! すぐ戻ります!!」


 アサヒは、近くにいた救護班と思わしき、同じ白軍服の女性たちに頭を下げると、同じくヒカリに駆け寄ってきた。


 互いに走り寄っていた両者だが、ヒカリがここで転がっていた鎧につまずく。


 アサヒは、間一髪でそんなヒカリを支え、ゆっくりと膝を下した。


「っとにもう………心配させないでよ………」


「ありがとう。アサヒも、無事でよかった………」


 アサヒは、ヒカリの肩を支えながらゆっくりと立ち上がらせる。


「………まぁね。でも、私たちより、ヒカリとヨミの方が大変なんだからね? なんせ行方不明なんだから」


「俺、アベリアスって魔族に罠に嵌められて………どっか遠くに転移されたみたいなんだ………」


「アベリ、アス………そ、そっか………でも、無事でよかった」


 『アベリアス』という単語に少し表情を固めるアサヒだったが、すぐに取り繕うと、ヒカリへとある質問をした。


「ね、ねぇ………ヨミは知らない? さっきも少し言ったけど、ヒカリと一緒で、ヨミも行方不明なの………ヒカリと一緒だったり………」


 当然の質問だった。


 アサヒはヒカリの心配をしてくれていた。しかし、それはヒカリが彼女に望む感情ではない。


 必死になって帝都まで帰ってきたヒカリに対し、アサヒは彼に気を使っていたが、結局ヨミヤへの心配を隠すことができなかった。


「………………」


 現実は冷徹に、ヒカリへ自身の立場を囁いてくる。


 『お前は、彼女の何者でもない』、と―――


「ぁ、―――――」


 少年の中に()()な思考が浮かび上がり、それが言葉に出ようとして、懸命に抑える。結果、一人で唇をパクパクと動かしてしまう。


―――ダメだダメだダメだダメだダメだダメだ………


 浮かび上がる感情を抑える。理性で、思考で、身体で。


「何か、知ってるの………………?」


―――やめてくれ


「ねぇ、お願い………何か知ってるなら教えて………?」


―――頼む、頼むから………


「ヨミが………ヨミが心配なの………」


 刹那、自分の中の『気持ち悪いもの』が、溢れ出た気がした。



「死んだよ。千間は」



閲覧いただきありがとうございます。

午後の紅茶はレモンティーが好きです

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― 新着の感想 ―
[良い点] 罪悪感無く、すばっと言い切れる人間なら、逆にヒカリ君には好感を持てたかもしれません。視点人物となって、内面が見えるからこそ、迷わずやれよ、と読んでいて思わされました。というぐらい楽しく入り…
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