勇ましき者とは ゴ
「見えたよ、帝都」
白衣の男にそう告げられ、ヒカリはそっと、視線を窓の外へと視線を送った。
そこには、巨大な砦のようなものが見えた。聞けば、帝都は何度も魔族の侵攻に晒され、帝国が防衛をするための砦だという話だった。
なんでも、都市の南は海に面しており、西には人間領と魔族領を隔てる『西の山脈』がある。そのため、北から東に街と外界を分ける、この砦があるおかげで、帝都は何度もあった魔族の侵攻を防いでいるとのことだった。
「…………」
ヒカリは、その砦のさらに奥、帝王の居城・帝宮へと視線を送った。
「んー、まだ『帝都前決戦』の被害が酷いね」
「…………………」
男の言葉にヒカリが視線を戻すと、美しかったであろう平原のあちこちに、焼き焦げた跡があったり、巨大な魔法でも撃ち込まれたのか、クレーターが出来ていた。
酷いところでは、血痕がこびりついていたり、血の付いた武具などが放置されており、戦場の生々しさを如実に伝えていた。
「はい、わかりました。ここの治療が終わったら帝都に戻ります!!」
その時だった。
ヒカリの乗っている馬車が一人の少女とすれ違う。
肩までの黒い髪、いつも元気な色をしていた瞳は少し陰りを見せていた。―――だが、ヒカリが間違えるはずもなかった。白い軍服の少女。
「アサヒ――――――」
気づけば、ヒカリは走っている馬車から飛び降りていた。
「おい!! まだ帝都にはついて――――――」
「いいよ運転手。どうやら大事なものを見つけたらしい」
呼び止める御者を、白衣の男は制する。そうして、少年の走り去る先を男は見つめた。
※ ※ ※
「アサヒッ!!!!」
馬車から飛び降りたヒカリは、つまずきそうになりながらも、彼女に駆け寄る。
一方のアサヒも、自身を呼ぶ声に反応し―――
「ヒカリ!!??」
あらんかぎり眼を見開いた。
「す、すいません! すぐ戻ります!!」
アサヒは、近くにいた救護班と思わしき、同じ白軍服の女性たちに頭を下げると、同じくヒカリに駆け寄ってきた。
互いに走り寄っていた両者だが、ヒカリがここで転がっていた鎧につまずく。
アサヒは、間一髪でそんなヒカリを支え、ゆっくりと膝を下した。
「っとにもう………心配させないでよ………」
「ありがとう。アサヒも、無事でよかった………」
アサヒは、ヒカリの肩を支えながらゆっくりと立ち上がらせる。
「………まぁね。でも、私たちより、ヒカリとヨミの方が大変なんだからね? なんせ行方不明なんだから」
「俺、アベリアスって魔族に罠に嵌められて………どっか遠くに転移されたみたいなんだ………」
「アベリ、アス………そ、そっか………でも、無事でよかった」
『アベリアス』という単語に少し表情を固めるアサヒだったが、すぐに取り繕うと、ヒカリへとある質問をした。
「ね、ねぇ………ヨミは知らない? さっきも少し言ったけど、ヒカリと一緒で、ヨミも行方不明なの………ヒカリと一緒だったり………」
当然の質問だった。
アサヒはヒカリの心配をしてくれていた。しかし、それはヒカリが彼女に望む感情ではない。
必死になって帝都まで帰ってきたヒカリに対し、アサヒは彼に気を使っていたが、結局ヨミヤへの心配を隠すことができなかった。
「………………」
現実は冷徹に、ヒカリへ自身の立場を囁いてくる。
『お前は、彼女の何者でもない』、と―――
「ぁ、―――――」
少年の中に最低な思考が浮かび上がり、それが言葉に出ようとして、懸命に抑える。結果、一人で唇をパクパクと動かしてしまう。
―――ダメだダメだダメだダメだダメだダメだ………
浮かび上がる感情を抑える。理性で、思考で、身体で。
「何か、知ってるの………………?」
―――やめてくれ
「ねぇ、お願い………何か知ってるなら教えて………?」
―――頼む、頼むから………
「ヨミが………ヨミが心配なの………」
刹那、自分の中の『気持ち悪いもの』が、溢れ出た気がした。
「死んだよ。千間は」
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午後の紅茶はレモンティーが好きです