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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
運命の分岐編
267/268

覚悟と現実 ニ

『人間に変装して破壊してきましょうか?』


 ネヴィルスとの深夜のやり取りの数時間後、戦闘を行わずに目的を達成できる方法を提案した。


『却下だ』


 だが、ヨミヤの案は早々に棄却されてしまう。


 ネヴィルスに却下の理由を問いただしたヨミヤだったが———結局彼女はその理由を教えてはくれなかった。



 ※ ※ ※



「魔族だァァァァァァ!!」


 魔獣除けの外壁。―――その門へ、魔族たちは隊列を組み接近する。


「近くの町へ応援要請へ行け!! この街の騎士では守り切れない!!」


 生産都市『パロダクション』の騎士達は、すぐさま防衛線を張って、街の入り口付近で戦闘を開始する。


「死ねぇェェ人間ッ!!」


「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 人間と魔族の衝突。―――それは互いに憎しみにあふれている戦場だった。


 口々に罵り合う者達からは、それぞれの境遇がにじみ出ている。


 ―――つまりは、目の前の種族(てき)に何かを奪われたという過去だ。


()()()()()で、我らの同胞を奪った罪———貴様らの命をもって(あがな)ってもらう!!」


 ヨミヤの耳には、その言葉は聞こえていない。


「何のことだ!! お前たちこそ……此処に現れたのなら、絶対に生きては返さんぞ!!」


 騎士達は一人一人が能力(ギフト)『身体能力補正』を持っているのだろう。――だが、魔族は素の身体能力が『身体能力補正』を持った人間ぐらいある。


 その身体構造の違いに加え、魔族の一人一人が『身体能力補正』の能力(ギフト)を持っているため……戦場は人間の犠牲が特に目立った。


 だが——


「グァッ……!?」


 パンッという乾いた音と共に、戦場の空気は一変する。


「歩兵は下がれ!! ()()を中心に陣形を組む!!」


 『銃』を持った騎士が———騎士達が戦場に現れた瞬間に、両者の犠牲者数は逆転を始める。


「―――出るか」


 ネヴィルスは、犠牲者が出始めた辺りで指揮を取りやめ、自らが前線に出ようとする。


 のだが——


「オレ、出ます。―――ネヴィルスさんは他の人を下がらせてください」


「………()()でか?」


「はい———行きます」


 そうして、隊の後方にいたヨミヤは、魔法を使って宙を飛び———一気に最前線まで躍り出る。


「うわぁぁぁッ!?」


 着地と同時に弾丸が迫る悪魔族(デーモン)の眼前に最低限の結界を顕現。―――その命を守る。


「す、すまねぇ………!」


「いいですよ。―――ここはオレがやります。後方へ」


「あ、あぁ………!」


 そうして、ゆっくりと歩き出す。


 ―――まずは生き残っている魔族を守り、後方へ避難させる。そのためにゆったりと歩きながら周囲の魔族の前に結界を生成する。


「な、なんだあの悪魔族(デーモン)は……!?」


 突如として現れたオレに、騎士達は困惑しているが………関係ない。


「………」


 最後の一人が無事に後方へ避難した所で、本体の目の前に大きな結界を展開して、


「く、来るぞ!!」


 そのまま立ち止まったオレは———頭上に無数の()を生成した。


 『奈落』に繋がる『坑道』にて屠ったデビル・スケルトン。―――『血の一本角』が持っていた魔導書に記載されていた魔法。


 だが、一年前———能力(ギフト)を封じられたときに使っていた『ただ武器を結界で作る』魔法ではない。


「………」


 槍は、生成直後に騎士達の本隊の陣営に着弾。


「は、ははっ……なんだよ……ビビらせやがって」


 騎士の一人が、騎士達を掻き分けて地面に着弾する槍をみて悪態をつく。


 ―――ただの槍だと。


 ―――槍の一本では、殺せる人間はたかが知れていると。


「……ソレ、()()()ですよ」


 だから、ヨミヤは警告した。


「――()()するんで」


 ―――刹那、着弾した槍が爆発した。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


「な、なんだあの魔法は………!?」


 運よく爆発から免れた騎士は、見たこともない魔法に目を見開く。


 だが、ヨミヤは止まらない。


「まだ、爆発範囲が足りないか———」


 術式の甘さが出てしまった爆発範囲の課題を意識しつつ、少年は頭上に()()()()()()()を作り出す。


「―――もう、こっちの犠牲を出したくないので」


「なッ………あぁ………!?」


 刹那―――騎士の軍隊へ、炸裂する槍が殺到した。


「うあああああああああああああぁぁぁぁッ!!!」


「………」


 ややあって約二十秒後———都市の防衛をしていた守備隊は壊滅した。


「なんだあの出鱈目な魔法は………」


「詠唱してたか?」


「いや、それどころか魔法名すら唱えてない」


 魔族たちは自分たちも年若い目の前の少年を——————第一階級の幹部たちと幻視した。


「守備隊は新入りがやった!! ―――攻め込めェェェ!!」



 ※ ※ ※



『———お前は後から来い。………具体的には一時間後だ』


 意味不明な命令。―――しかし、今のヨミヤにはその命令を拒否することはできない。


 待機している魔族たちの中で、一人時を待つ。―――その時だった。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



 街の中と外を繋ぐ門から、一人の女性が飛び出してくる。


「………ッ!!」


 どうみても一般人。


 咄嗟に動き出そうとしてしまうが———


「がッ………!」


 次の瞬間、女性の背後から飛んできた槍が———彼女の心臓を貫いた。


「………………ぇ?」


「あぶねぇー、危うく逃がすところだった」


 槍の持ち主は———先ほど凶弾から救った悪魔族(デーモン)だった。


「ど、どうして………その人を………?」


 騎士ですらない、一般人を………戦えない人間を容赦なく殺した魔族に、ヨミヤは今にも転んでしまいそうな足を必死に動かしてその悪魔族(デーモン)の元へ歩み寄る。


「あん? そりゃぁ———()()()()()()


 ヨミヤにとっては衝撃の受ける言葉で———よく頭を回せば、考え得る答えが返ってくる。


「俺の家族はな、人間に殺された。―――妹は奴隷商に売られて………今はどこにいるか分からねぇ。………まぁ、生きちゃいないだろうな」


 槍で支えられていた女性の死体は、悪魔族(デーモン)が心臓に刺さった槍を引き抜いたことで地面へと無造作に転がる。


「だからな、これは復讐なんだよ新入り」


 血みどろの手で、頬に着いた返り血を拭う悪魔族(デーモン)


「魔族の中にもあくまで『向かってくる人間だけ殺せばいい』なんて言うやつがたまにいるが…………オレに言わせてみれば、そんな思考は『ぬるい』」


 拭った頬は、確かに血が垂れることはない。―――だが、代償として、頬の全てを血で汚してしまう。


「人間が魔族を受け入れることはない。―――なら、一匹残らず殺すしかないだろ」


 悪魔族(デーモン)は槍に付いた血を払うように槍を振うと、ヨミヤに背を向ける。


「第一、俺達の領地まで入って奴隷狩りをしたのは人間(こいつら)だ。―――オレはその報復を行っているに過ぎない」


 この悪魔族(デーモン)が言っているのは、イルが亡くなった事件のことだ。


 その時———街の中から爆発が響いた。


「おっと………ネヴィルス様が目的の場所をぶっ壊したかな」


 悪魔族(デーモン)はヨミヤのことを気にも留めず、街の中まで入っていった。


「………」


 その背中をみて、ヨミヤはやっと理解した。


 サタナエルがこの作戦にヨミヤを参加させた訳を。


『………その先に待つのが、『()()』の屍の山であっても?』


『………そう、ならない未来を———考えます』


『何百年も生きる私がどうにもならない問題だというのに?』


 以前にサタナエルと交わした言葉。


 帝国を打倒した先に待ち受ける未来。―――目の前の出来事は、その未来を縮小した形なのだと。


 いくら頭で理解していようと………『人間』と『魔族』が憎しみあっている現状を目の前にして、少年の身体は固まってしまう。


———『人を殺せるかどうか』じゃない。そんな生温い覚悟なんて………意味がない。


 人間を殺すのなんて()()()()。魔王になるといのなら、今直視した現実が常に付きまとう。


 その先に待つのは、『最も人間を殺した魔王』という罪科。


 街の中から上がる灰煙を、少年は茫然と見つめた。

閲覧いただきありがとうございます。

新作も投稿始めてるんで、是非読んでみてくださいね。

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