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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
運命の分岐編

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別れと別れの—— イチ

 ガシャン! と嫌に響く音を立てて牢の扉は閉じられる。


「わりぃな、オレにも事情があるんだ。―――あのイケ好かない頑固ジジイの言うことは……聞かなきゃなんねぇんだわ」


「はッ……また国家転覆でもするつもりかよ」


 牢の中から、俺はシルバーを見上げて言葉を吐きだす。


 だが、シルバーは肩をすくめて俺の元から去ろうとする。


「別に、わかってもらおうとは思ってねぇよ」


 プラプラと手を振りながら冷たい地下牢から出ていくシルバーを睨む。


「クソッ!!」


 そうして、俺は牢を思い切り頭突きを当てる。


「ふざけるな………ふざけるなよッ………アンタが………アンタがエクセルをちゃんと監視していればッ……!!」


 額から血が流れるのも無視して、俺はグラディウスへの恨み言を呟く。


 わかっている。―――あくまでイルさんを手に掛けたのはエクセルであって、グラディウスではない。


 きっと、この感情は、皇帝の魔族に対する考えがあまりにも冷たかったから——帝国と魔国の戦争が絶対に止まらないことを実感してしまったからだろう。


「………クソ」


 だが、帝国と魔国の戦争なんて、今に始まった話ではない。


 ――俺がこの世界にくる、ずっとずっと昔からの話なのだ。


 一人で考える時間が出来たためか、冷静になっていく頭に、嫌気が差す。


「………………」


 冷たい石畳に囲まれて、無機質な鉄牢に断絶された空間の中で、俺は、一つの結論を出す。



「なんだ、その角………メチャクチャかっこいいじゃねぇか」


「でしょ?」


 その日の夜、赤岸君が俺の牢までやってきた。


 彼は、俺の角を見るなり、そんなことを言うので、俺もつい下らなくて笑ってしまう。


「………悪かったな。―――こんなことになるのを止められなくて」


「あれは俺の自業自得でしょ? 赤岸君が謝ることじゃないよ」


 何事も自分のことのように捉えてしまう彼の性格に、俺は自然と口角が上がってしまう。


「………他のみんなは?」


「茶羽と加藤は、真道から聞いたお前が喰った『黒林檎』?だっけか? あれを調べるとか言ってハーディさんの所に協力要請に行った。真道は………今も陛下の所で懸命に説得している」


 そこで言葉を切ると、赤岸君は言いづらそうに………しかし、それでも口を開いた。


「ヒカリのヤツは………何をしてるか分からん。―――だが、アレでもあの馬鹿は千間、お前のことを随分心配してた。だから、何かしら動いているとは思うぞ」


「アイツが俺の心配? ホント?」


 赤岸君の言葉に、ちょっとだけ胡乱気な目を向ける。


「………ホントなんだぜ?」


 そんな俺に、赤岸君は少しだけ悲しそうな顔で微笑む。


「………」


 赤岸君の表情をみて、俺も微笑む。


「……あぁ、わかってる。――ボンヤリと……本当にボンヤリとだけど覚えてるんだよ」


 俺は、すっかり変異してしまった自身の右腕を見つめ、暴走したときのことを思い出す。


「本当に憎ければ、暴走した俺のことなんて容赦なく殺せばいい。――ハッキリ言って、それがアイツには出来た」


「千間……」


「けど、アイツはそれをしなかった。――俺に必死に声を掛けてたんだ」


 人の腕とはかけ離れた黒き腕を見つめ……俺はその手を握り込み、そして緩める。


「アイツのやったことについて、正直………まだ心の整理はつかない。―――けどまぁ、アイツがその事に罪悪感を覚えて、必死に償いをしようとしてるのは理解したよ」


「………それでいいと思う。いくらアイツがお前の心配をしてても、お前の人生を狂わせたのは間違いないからな」


 いや、きっと………あの『間違い』も、『間違い』だけではなかった。


 だって、その『間違い』を通して———俺は間違いなくかけがえのない出会いをした。


 ………旅の中で、あの四人で過ごした時間が、そう思わせてくれる。


 ―――だからこそ。


「……赤岸君は、この世界にきて———大切な人とか………仲間って呼べるものは出来た?」


 不意に、そんなことを聞いて来た俺に、赤岸君は不思議そうな目を向けながら———それでも俺の言葉に答えてくれた。


「お前やヒカリ………一緒にこの世界にきた連中は間違いなく『仲間』だと思ってる。―――あとは騎士団の連中とか、魔導士の連中も……なんだかんだ一緒に任務をこなすことが多い。見知った奴らも多くなってきた」


「そっか………赤岸君はアサヒと一緒で、色んな人と仲良くなるの上手だよね」


「………どうした千間?」


 俺も、みんなと同じく帝宮で過ごしていたら、騎士団や魔導士の人達を仲良くなっていたのだろうか。


 そんなもしもを思い浮かべて、小さく首を振る。


「………なんでもないよ。―――茶羽さんや加藤君も………帝宮の中でうまくやってるの?」


「あ、あぁ………アイツ等は特にフェリアやザバルと、魔法のことで話すことが多いらしくてな、よく一緒に居るのを見るな」


「そっか………」


 『仲間』。


 その言葉に、俺は帝都を出てからの日々を思い出す。


 奇妙な出会いから、共に旅をして———旅の終わりに散っていったあの子。


 娘を探し………そして、娘と穏やかに暮らすために帰って———理不尽に命を奪われたあの人。


 母を亡くし、それでも最後は前を向いて、俺を心配させないように笑っていたという少女。


「ははっ、もう一人………居たっけな………」


「千間? ………さっきからどうした?」


 いい加減、赤岸君が心配そうな顔をしているため、俺は首を振って、改めて赤岸君に顔を向ける。


「なんでもないよ。―——()()()()()かもしれないから、みんなが元気でやってたか知りたかっただけ」


「………本当にそれだけか?」


「―――うん」


 俺は彼の言葉に、静かに頷いた。

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