勇ましき者とは サン
「アサヒ………アサヒ………」
足をゆっくりと、ゆっくりと、一歩ずつ進めながらヒカリは歩く。
道の先に彼女がいるかどうかなんてわからない。それでも歩く。
そんなとき、
『おいお前ッ!! 逃げろ!!』
そんな声が聞こえた気がしたが、ヒカリは声の主を無視をした。
しかし、それでも、大地を叩くような音は止まない。――――――原因は明白だった。首を傾けた先に化け物の群れがいたのだから。
だから、ヒカリは先頭にいた猿の拳を受け止めた。
「邪魔だよ………お前」
『ギャッ!!??』
ヒカリは受け止めた拳を、力のみで握りつぶし………………そのまま猿の腕を引っ張って倒し、無様に倒れた猿の頭部に、地面をも砕く拳を叩きこんだ。
『『…………………』』
魔獣も、人も、時間を静止させた。
そんな中、一人、顔を持ち上げたヒカリは―――
「邪魔すんなら殺す」
地面を蹴り砕き、ただ一人、魔獣の群れに突っ込んだ。
そこからは、魔獣の群れは地獄の様相を呈した。―――一人の人間が暴れまわり、ただ力のみで魔獣の頭を、胴体を、腕を、足を破壊し、平原に巨大な血だまりを作り出した。
「………行かなきゃ」
そうして、ただ無機質に、歩を進めようとして、ヒカリは魔獣の骸につまずき、血だまりへ倒れこんだ。
その瞬間、過大な精神的ストレスを抱えていた身体は、いとも簡単に意識を飛ばした。
後に残るのは、骸の中で死んだように眠る少年だけだった。
それはまるで、少年の罪を突き付けるかのような光景だった。
※ ※ ※
「ん………………」
身体中の気だるさに支配されながら、まどろみに逆らい、目を開ける。
「あっ、気づいた!!」
まず目に入ったのは、まだ幼い少女の顔。
そのことを疑問に思いながら、ゆっくりと身体を起こす。
「大丈夫? 今おとーさん呼んでくるね!」
少女は、そんなヒカリの様子に心配の表情を見せつつ、人を呼んでくると、その場を離れる。
「………………………帝都に」
虚無に支配された心で、振り絞った声でそう呟き、ゆっくりと立ち上がる。
「もう出発かい?」
少女が出て行った扉から、一人の男性が現れる。白衣をまとった男性だ。
「………………」
ヒカリは、男性の言葉に耳も貸さず、一人、脱がされてあった自身の鎧を探す。
「君の身体には、驚くほど外傷は見られなかった。それなのに君は気を失った。―――色々原因は考えられるけど、僕が感じたのは『精神的ストレス』で君は眠りについたってことなんだけど………どうかな?」
「………どうだっていいだろ」
「図星か」
一貫してヒカリは、医者であろう白衣の男性に興味を示さない。それでも、男性は言葉を紡ぐ。
「そんなに急いで、どこに行くんだい?」
「………………」
「おいおい、どこにいくかぐらい教えてくれてもいいだろ?」
男性は引き下がらない。これは、素直に答えた方が一周回って静かになるだろうと、感じたヒカリは嘆息しながら、投げやりに答える。
「………………帝都」
「なんと………君は運がいいね!」
「………なにが」
わざとらしく振舞う医者に、いいかげんうんざりしながら、睨みつけるように男性に視線をやるヒカリ。
そんな視線に晒され、医者は手を挙げて降参のポーズをとる。
「悪かった悪かった。―――ただ、実際、この乗合商業馬車は帝都行きだ。この馬車に乗りながら、君はゆっくり身体を休めるといい」
「は………………?」
閲覧いただきありがとうございます。
本日三本目の投稿となります。
一日に三本は、もはや何を書いていいかわかりません。