その『炎』の名は ロク
「もう一回行くぞ………!!」
「いつでも………」
アベリアスの言葉とほぼ同時に、電流がイルの身体に流し込まれる。
電流はイルの身体をくまなく刺激し、心臓が動いていない彼女が激しく跳ねる。
アスタロトはそんなイルの身体を押さえ、傷口への負担を心配する。
「クソ………そもそも血が足りないか………!?」
「………どうだろうね。―――正直、この量の出血はもう………」
「黙れアスタロト………———それでもやるんだ」
「………了解」
男達は必死に蘇生を試みる。
「お待たせしました………!!」
そのとき、滝のような汗を流しながらアサヒが魔族たちの元へ駆け寄ってきた。
「アサヒちゃん………だっけ? 例の人間は?」
「――――――なんとか一命は取り留めました。あまり動かしたくないので、今はハーディさんに様子を見てもらってます」
その言葉に、砲身状態だったヴェールにほんの少しだけ反応がある。
「大丈夫なら力を貸せ娘!! ―――回復をッ!!」
「分かりましたっ!!」
だが、誰もヴェールに気を裂く余裕はない。
アサヒはすぐに泥だけの地面に膝をつくと、魔法を顕現させてイルの回復に専念する。
「………」
土色になりつつあるイルの顔色は、少しだけ———ほんの少しだけ赤みを帯びた気がした。
「っ………!!」
四方八方から飛んでくる熱線を回避し、相殺し、時には打ち落とす。
だが、漆黒の獣はその間にもヒカリへ飛び掛かり、魔法へ専念することを許してはくれない。
「ぐッ………クソ………!!」
その中でも地味に厄介だったのが、不可視の風の弾丸だ。
当たれば即死は免れぬ熱線や、圧倒的暴力の塊である獣自身は、ヒカリの中でも特に警戒度が高い。
「ぁっぶね………ッ!!」
しかし、風の弾丸はそもそもヒカリに対しての殺傷力は高くない(常人が受ければ昏倒するほどの威力)。
故に、即死だらけの攻撃に対処しているうちに警戒が解けてしまい、直撃する。
いくら頑丈な少年でも、態勢を崩されたり、隙が出来たりする程度には威力がある魔法だ。―――当たって怯んでいるうちに別の攻撃が飛んでくるのだ。
———帝都で戦った時よりも………熱線と風の扱いが上手くなってやがる………!!
おそらく、今のヨミヤに理性はない。―――きっと、今の彼の様子を見れば誰だって想像がつく。
問題なのは、そんな『本能』で暴れるヨミヤが、熱線と風の魔法を手足のごとく使い、帝都でヒカリと戦った頃よりも強くなっているということだ。
———本能………無意識に浸透するまでコイツは戦って………ここまで………!
ヒカリは、ヨミヤがこれまでどれほど戦い、どれだけの死線を潜ったかを知らない。―――それでも、本能で戦う少年が『無意識』のうちに魔法をつかうその事実に………唇を噛んだ。
「お前が、これだけの強さを手に入れて―――」
獣の剣を受けて、ヒカリは大きく地面を削り———後退する。
「………それでも守れないものがあって、」
だが、ヒカリは態勢を崩すことなく、両足で立ち———獣と相対する。
「どれだけ悔しいか―――オレは想像もしたくない」
ヒカリは剣についた獣の血を払い、剣を大きく振り回すと、その刃を肩に背負った。
「苦しいだろうよ、悲しいだろうよ——————憎いだろうよ」
『ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………』
大きく息を吐き、獣もまた勇者を見据える。
「だが、オレはそんなお前を、気遣ってはやらない」
勇者は、口端を上げて―――愉快に笑って見せた。
「オレとお前は、そんな仲じゃないだろう?」
勇者は宣う。
復讐者と道は交わらない。
勇者は宣う。
互いに我らは殺し合う仲だと。
「来いよ復讐者、勇者様が全部受け止めてやる」
その瞬間、ヒカリは解放する。
命の危機に瀕しても、決して使うことのなかった力を。
己が運命を捻じ曲げてしまった、忌まわしき力を。
———チカラぁ貸せよ。
最悪の能力——————『深き光』を解放した。
「オレも、全力でぶつかってやる」
閲覧いただきありがとうございます。
さて、発動するたびに最悪な結果を招いていた能力を解放したヒカリ。
どうなってしまうんでしょうね?




