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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
罪科の犠牲編
242/268

その『炎』の名は ヨン

「その人の容態は!?」


「待ってください………! 今全力で回復魔法を………掛けてます………ッ!!」


 廃墟の街の真ん中、血だまりの中に沈むモーカンの傍にアサヒは膝を下ろしていた。


 血で白の軍服が汚れることなど気に留めることなく、アサヒはモーカンの傷口を全力で押さえつけて全ての魔力を注ぎ込む勢いで魔法を行使している。


「―――私も協力するわ」


 ヒカリは現在、ヴェールの介入によって魔族と一時休戦し、カナンの村にアベリアス達と共に向かっている。


 ヴェールからの必死のお願いにより、この廃墟で倒れているモーカンの救助に転移の使えるハーディと、回復役としてアサヒが向かったのだ。


 なので、ここで魔力を無駄に使うわけには行かないハーディだったが、思ったよりもモーカンの容態が良くない様子だったため、ローブを脱ぎ捨て、彼女も治療に加わる。


———死なせたくない………!!


 ハーディに目も向けられないまま、アサヒは懸命に魔力を注ぎ続ける。


———ケガに苦しむ人も………誰かを失って泣く人を………見たくない………っ!!


 アサヒは、勇者達の中で、唯一『救護』として『帝都前決戦』のあとも怪我人の治療に携わった。


 当時は、ヨミヤの居なくなった傷を『仕事』に打ち込むことで誤魔化していた。―――だが、現場は『ごまかし』で勤まるほど簡単なところではなかった。


 目を覆いたくなる傷を抱える騎士、治療が追い付かず凄惨な表情を浮かべて亡くなる騎士、痛みに耐えきれず怒号を上げる魔導士、血まみれになりながら必死に治療を施す者達。


 それでも、アサヒは目を背ける事なく現場に立つことを選んだ。―――彼女にとって、行方不明になった恋人のことに向き合うよりも、目の前の地獄に立つ方がマシに見えたのだろう。


———お願い………ッ!! お願い………!!


 とはいえ、『仕事』として打ち込んでいても、何も感じない訳がない。―――救えた者も救えなかった者もいる。


 自分が居たから救えた者いた。自分のミスで死なせてしまった者もいる。


———死なせたく………ない………ッ!!


 自分にも覚えがある。―――『痛み』や『喪失』の涙を、真道アサヒは酷く嫌ったのだ。



 ※ ※ ※



「う………そ………」


 アベリアスの転移でカナンの村まで戻ってきたヴェールは、力無く倒れるイルの前で、息を切らしながら佇む。


「おかあ………さん………」


 目の前の光景を信じたくなくて、思考が最後に交わした会話を思い出してしまう。


 でも、視界には冷たい程の現実が広がっていて、ヴェールは小さく———何度も首を横に振る。


「やだ………やだ………」


 次第に、小さき少女の瞳に涙が浮かんで———



「いやァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」



 温もりさえなくなりかける母に抱き着いた。


「イ………ル………さん………!?」


「………ッ」


 その光景に絶句するのはアベリアスとアスタロトだ。


「これは………っ」


 ネヴィルスも、イルの状態や周囲の村の様子をみて顔を歪めている。


「俺達がエクセルを………捕まえられなかったせいで………っ」


 同行していたヒカリも、目の前の少女が声を上げて泣いているのを見て、目を背けていた。


「まだ………———」


 それでも、歯を食いしばるアベリアスは———一歩を踏み出した。


「まだだ………!! 諦めて………たまるか………ッ!!」


「アベリアス………」


「手伝えアスタロト………ッ!!」


「………わかった」


 イルの傍で膝を折るアベリアスは、アスタロトへ手伝いの要請をして———素直にアスタロトも応じる。


「………勇者、私達は周囲を見回るぞ」


「で、でも俺らも手伝った方が………」


「アベリアスがアスタロトに手伝いを頼んだ。―――他は邪魔になるんだろう」


 ネヴィルスは、ヒカリの肩に手を置き、村の様子へ目を向けてヒカリへ声をかける。


 ヒカリは、ネヴィルスの言葉に顔を伏せ———そして、顔を上げた。


「………わかった」


「あのクソ野郎がいたら魔法かなんかで合図しろ。―――絶対に生かして帰すな」


「―――了解。目にもの見せてやるさ」


 二人の瞳に殺意の光が宿る。



「アスタロト、お前は右腕と腹部の止血をしろ。―――右腕の方は布かなんかできつく縛れ。腹部は同じく布かなにかで上から押さえろ」


「了解。―――お前は?」


「俺は電撃魔法で心臓を刺激する」


 アスタロトは自身の上着を脱ぎ、医療用の布として代用しながら、アベリアスへ視線を向ける。


「………それで何が起こるんだ?」


「―――救護関係者の間では有名な話だ。死にかけた竜が雷に打たれて息を吹き返した逸話があるんだよ」


 アベリアスは、魔導書を開き―――慎重に術式を選択していく。


「その逸話から、『電撃によって心臓が再び動き出した』っていう説があるんだ。―――ただ竜と我ら魔族では生物としての規格が違いすぎる。電撃の威力を調整するために考えて術式を組まねばならん」


「………いけるのか?」


 既に右腕を紐状にした上着できつく縛り終えたアスタロトは、今度は残りの布を使ってイルの腹部を全力で押さえにかかる。


「やって見せる」


 術式の選定を終えたアベリアスは、組んだばかりの術式に魔力を注ぎ始めた。

閲覧いただきありがとうございます。

ちなみに、それっぽいことを言っていますが、作者にそこら辺の専門知識はないのでツッコミはなしでお願いします。

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