勇ましき者とは ニ
乗合商業馬車。
それは、帝国の人々を様々な都市へ移動させ、同時に積み荷を帝国の各都市へ輸送する役割を持つ帝国の管理する移動手段。
帝国の雇う傭兵団が常に同行するため、魔獣からも身を守れると、帝国の人々からは意外と重宝されている移動手段だった。
―――のだが、
「おい!! 戦えねぇ奴は馬車にいろッ!!」
「お前らァ!! 三人一組で乗客の馬車を守れ!! 積み荷はあとでいい!!」
「ありえない物量だ! 絶対に単独行動は避けろ!!」
この乗合商業馬車は現在、突如として現れた魔獣の群れが眼前まで迫ってきており、全員が緊迫の表情で動き回っていた。
「斥候の報告は?」
「はい、どうやら高魔族と思わしき女が、人間の集団を追いかけ、魔獣の巣であった西の森に侵入。魔獣を興奮させるだけ興奮させて、その人間たちを追いかけ消息を絶ちました」
傭兵団の団長の男は、その話を聞き、眉間を強くつまんだ。
「それで暴走した魔獣どもが森外へ侵攻と………帝国も帝国だ。あの森の魔獣が増えすぎていると何度も報告したのに、それを放置しおって………割を食うのは俺らなんだぞ!!」
苛立たしげに抜剣する団長に恐れおののく団員を見て、団長はわざとらしく咳ばらいをする。
「………いい。こうなった以上は仕方がない。―――お前も配置につけ!」
こうして、傭兵団は魔獣の群れと対峙することになる。
起伏のない平原。遠くには魔獣の住処であった森が見える。また、その付近には、まっすぐに乗合商業馬車へと向かう魔獣が確認できる。
対し、傭兵団は五十近い人数で、最前線が大盾と槍を構えた重装部隊、その後ろに弓兵隊。乗合馬車付近にはそれぞれ得意な武器を装備した歩兵隊が展開していた。
「なぁ、これさっさと逃げたほうがよくないか」
怯えた顔の歩兵隊の男が呟く。
それを聞いた同僚は、頬を引きつらせながら言葉を返す。
「無理だな。馬がビビッていうこと聞かねぇし」
そうこうしているうちに、最前線の部隊と魔獣の群れとの距離が百メートルほどに縮まる。
それと同時に魔獣たちの全貌が明らかになってくる。
先頭は全長八メートルはある猿のような見た目の魔獣だった。その後ろには、先頭の猿よりちいさい猿の魔獣の群れ。
さらに、それらに追随する狼やイノシシ、熊のような魔獣まで確認できた。
数はざっと、三十匹程度だろうか。
今まさに接敵しようかという瞬間―――――――
一人の少年が、傭兵団と魔獣の群れの間に現れた。
それは、『青年』に近い年齢の少年だろうか。純白の鎧に身を包み、『騎士』という言葉を想起させる少年だった。
しかし、少年の顔は絶望の色に染まっていて、その表情は生気を感じさせなかった。
「おいお前ッ!! 逃げろ!!」
『死ぬぞ!』や『ヤバい!!』など言葉が飛び交う中、魔獣の先頭にいたボス猿は、一気に跳躍。
目の前の餌である少年を叩き潰さんと、大きく拳を振り上げた。―――そして、その拳をなんの躊躇いもなく振り下ろし、
「………………」
刹那――――――
少年は少しだけ魔獣の方へ視線を送り―――
片手で魔獣の拳を受け止めた。
閲覧いただきありがとうございます。
本日午後の投稿です。余裕があれば夜の投稿もしようかなと考える今日この頃です。
お盆ですね。私も朝からご先祖様をお迎えに行きました。