降り止む雨と大樹の衰亡 ジュウ
敵は三十。
全員騎士の風体で、様々な武器を構えている。―――しかしその実、中身は低俗な奴隷商会『白馬』の構成員。
「障壁武器:槌!!」
ヨミヤは、柄のながいメイスを作り出すと、眼前の三人の男達をまとめて吹き飛ばす。
残り二十七人。
―――キリがない………!!
『領域』があればどうにもなる数。―――しかし、今のヨミヤには多勢に無勢すぎる数だった。
「しゃァァァァァッ!!」
「っ………!」
正面から飛び掛かる剣を受け止める。
「背中ががら空きだッ!!」
「ぐッ………!」
槍の穂先が脇腹を掠める。―――寸前に身をよじらせたことで致命傷を裂けたが、傷に変わりはない。
「ッあァァァ!!」
ヨミヤは槍の柄を無理やり掴むと、槍の持ち主ごと振り回し―――自身と鍔迫り合いをする男へ投げ飛ばす。
「ぶっ飛べ………!!」
飛んだ二人を身体能力だけで追いつき―――重なる男達に黒腕の拳を叩きつけて意識を刈り取る。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ………」
乱れる息も気にせず少年は動き続ける。
「障壁武器:槍………!!」
障壁で構成された槍を敵が固まっている箇所に投擲。
「あああああァァァァァァァァァァァッ!!」
投擲で二人ほど串刺しにすると、動揺の走る敵集団に突貫。
一番近くにいた男に黒腕をぶち込み、複数人を吹き飛ばした男に巻き込み―――そのまま近くにいた男と鍔迫り合いに持ち込む。
「調子に乗るなァ!!」
その間に隙だらけのヨミヤに食いつく雑魚に対応すべく、鍔迫り合いしている男の足を自分の足で踏みつぶし―――返す刃で反転。接近した男の首をはねる。
「ふッ!!」
そのまま剣を逆手に持ち変え、足を踏みつぶした男の胸部を一突きしてすぐに剣を引き抜く。
「囲んで殺せ!!」
減っていく味方に焦ったのか、今度は複数人でまとまってヨミヤに刃を向ける男達だが―――
「風圧ッ!!」
少年は真下に風を撃ちだし、遥か上空へ飛び上がる。
「ぐっ………うァ………!?」
ヨミヤを襲おうとした男たちは全方位に広がった強烈な風に足を取られ―――転倒する者が続出する。
「障壁武器———!!」
上空のヨミヤは、眼下で転倒する男達———五人ほど固まった箇所目掛けて魔法を振り上げる。
「槌ッッ!!」
「「「ぎゃァァァァァァァァァッ!!」」」
不快な手ごたえが伝わるが、気にせず、息を振り乱しながら少年は必死に周囲を見回す。
「クソがッ!!」
ヤケクソになった男が斬りかかるが、ヨミヤは黒腕で剣を弾き、その心臓に剣を突き刺す。
「死ねェェ!!」
「っ………!!」
背後から背中を斬られるが、ふらつきながら少年は振り向き敵を斬りつけ、振りぬいた姿勢から一歩踏み出す。
「アァッ!!!」
そして、黒腕で相手の頭を掴み力いっぱい地面に叩きつける。
―――半分………いったかな………
絶えず傷口から血が流れる。―――そのせいか、既に少年の視界は揺れ始めていた。
「行けるぞ………怯むんじゃねぇお前ら!!」
「オォッ!!」
「………火球」
勢いづく『白馬』の構成員たちの足元に威力を上げた火球を撃ち込む。
少年にとっては幸いなことに、火球に巻き込まれて一人が吹き飛ぶ。―――と、同時に巨大な爆発で土煙があがる。
「クソ、前が見えねぇ!!」
「どこだクソガキィ!!」
思い思いに罵倒を叫ぶ男達。
そんな中、煙を巻きあげた張本人は静かに魔法を唱える。
「『探知』」
それは、敵を探知する魔法。―――よって、少年は視界不良の中でも一人、敵の位置を正確に把握する。
「クソが、どこいき―――ぁ………?」
「………」
最初の一人は背後から心臓を静かに貫いた。
「テメ———」
「ぐァッ!!」
「おい、や、やめ———」
そこから、全力で暗殺を続ける。
心臓を穿ち、首を断ち、脳天を割り、腹を裂いて―――
一心不乱に少年は戦い続けて、
「あ………ぁ………」
「嘘だろ………」
「ば、化け物………」
十人を殺めたところで、土煙の中から血まみれの少年が姿を現す。
「っ………はァ………はァ………」
返り血か、自身の血か………右目を染め上げた血を拭い―――少年は静かに残りの男達を睨みつけた。
「残り………三人………」
その瞬間、男たちの瞳に確かに『恐怖』が刻まれる。
「ぅ………うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一人が逃げ出す。
「お、おい待て………!!」
「置いて行くなぁ!!」
残りの二人も弾かれたように駆け出す。
「………逃がすか」
静かに手をかざし―――魔法を唱える。
「火球」
「ぁが………ッ」
「ぎっ………!!」
何回も繰り返された魔法は―――確かに逃走者を追い詰め、二人の人間を貫通していく。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」
「あと………一人………」
フラフラする足元を気にしながら、再び剣を逆手に持ち―――身を捻りながらヨミヤは投擲体勢に移る。
「フッ———!!」
使い込んだ剣を無造作に投げつけ―――
「がァッ!!!」
男の心臓に的確に剣を突き刺した。
※ ※ ※
―――キツイ………
泥だけの大地に手足を投げだし寝ころぶヨミヤは、勢いの弱くなってきた空を見上げる。
―――でも………イルさんの所に………行かなくちゃ………
痛む全身を気にしながら、ヨミヤはおもむろに左手を上げると―――
「………フェオ・ギューフ・ラド・シゲル・ウイルド———注ぐ治癒」
回復の魔法を自分に掛ける。
―――せめて動けるまで治癒しないと………
他の魔法より魔力量をかなり消費する回復魔法。―――普段は自分に回復を掛けないヨミヤだったが、今だけは『動ける程度』に自身を治療する必要があった。
―――血が足りないのか………かなりフラフラするけど―――動ける
魔力が極端に少なくなっていること、足元がふらつくこと―――それらを的確に把握しながら、少年をすぐに歩き出した。
「イルさん………」
全ては自身を犠牲にしようとしている恩人のために。
閲覧いただきありがとうございます。
ちなみに、黒腕は爪も生やせますが、取り回しの良さから、ヨミヤ君は基本的に拳で戦っています(黒腕は左腕よりも筋力があるので威力があるんですよ!)




