降り止む雨と大樹の衰亡 ハチ
「オォッ!!」
「くッ………!!」
第一階級ネヴィルスは、下段から迫るヒカリの刃を間一髪で防御する。
しかし、ありえない程の力に、防御の上からネヴィルスは天井に飛ばされ―――
「ぐァ………ッ!!」
そのまま天井をいくつもぶち抜き―――『バーラド城』の地下から城後方にある庭園に飛び出る。
「バカ………力がッ………!!」
背中を襲う激突の鈍痛を無視しながら、ネヴィルスは自身が開けさせられた地下へ通じる大穴を凝視する。
「ウォォォッ!!」
案の定、ネヴィルスの目にも止まらぬ速度でヒカリが迫る。
「来ると思ったぞイノシシがっ!!」
ヒカリの白刃はまっすぐネヴィルスに突き出され―――彼女はその刃を真横から拳で叩くことで軌道を逸らす。
「舐めるなよッ!!」
そのままヒカリの刃をなぞる様に身体を回転させたネヴィルスは踵を頭上よりも高く上げて―――
「行くぞアスタロトッ!!」
「グッ………ガ………ァッ!!」
踵落としがヒカリの腹部に突き刺さる。
あまりの衝撃に噴水のように喀血するヒカリはそのまま叩き落される。
「りょーかい!」
軽薄そうな返事で、ヒカリの落下先に今度はアスタロトが迫る。
このままいけば、地上近くの高度でヒカリは切り刻まれるだろう。
「くっ………!!」
それだけは勘弁願いたいヒカリは、必死に身をよじりアスタロト相対し、
「あれ? 止められた」
高速で迫ったアスタロトの剣を受け止めた。
「俺だって………あの時の俺じゃない!」
「そりゃ太刀筋見てれば分かるって」
しかし、すぐに動き出すアスタロトは―――大きくヒカリの剣を弾いた。
「なっ………!!」
「けどね、あの時———僕は言ったよ?」
空中で身をよじり、回転するアスタロトは―――遠心力を乗せた拳をヒカリの顔面に打ち込んだ。
「ガッ———!?」
「『渾身の先には隙』だって。―――何事も次を警戒しなくちゃね?」
真横から喰らった拳に、ヒカリは庭園の植物を全て吹き飛ばしながら地面を削る。
「クッソ………」
轟音の後の静寂。―――残るのは腹部と顔面を焼く鈍痛に呻く勇者のうめき声だけだ。
「は~あ………こんなことならつまんない任務だと思って武装置いてこなければよかったなぁ」
「バカを言ってないで早く止めを刺すぞ。―――我々二人相手に戦える相手など放っておけん」
「えー………」
「魔王様に言いつけるぞ」
「わかりましたっ!」
緊張感のない会話を繰り広げる魔族。
―――クソっ………ふざけやがって………!
そんな二人にヒカリは心の中で悪態をつきながら―――立ち上がる。
「まだ………終わって………ない………!」
「………魔獣並みのタフネスだな」
魔獣ですら、ネヴィルスの踵落としとアスタロトの拳を喰らえば瞬時に死に絶える。
『勇者』と呼ばれた少年は、それでも立ち上がって見せたのだ。
「やっぱ、そう来なくちゃねヒカリ?」
「治癒の執刀ッ!!」
刹那―――ナイフの形をした魔法がヒカリの心臓に刺さり、
「これ………」
ヒカリの傷を瞬時に癒す。
「回復魔法………ッ!!」
ネヴィルスが眦を吊り上げながら、地下に繋がる大穴へ目を向ける。
「やるねぇあの子」
そこには、盛大に息を上げながら魔法を行使したアサヒがいた。
「負けるな………ヒカリ!!」
「………!!」
誰かを傷つけ、取り返しのつかない失敗をして………それでも失敗を取り返そうとする少年は―――その単純な言葉に、少しだけ口角を上げた。
「………任せろ」
きっと、少年は単純だった。
「クソ………もう一度やるぞアスタロト!!」
「もちろん! ―――楽しくなってきたァ!!」
戦闘は激化する。
母を、仲間を想う一心で必死にこの場に向かってくる少女のことなど知りもせず。
閲覧いただきありがとうございます。
二年目も頑張って投稿していきます。というか、頑張って完結させます。