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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
罪科の犠牲編
232/268

一周年記念小話:弱き少年

 赤岸タイガ。


 地元でも有名な、負け知らずの不良。


「バイバイ赤岸くん!」


「おう」


 その素性は、意外にも穏やかな人物。


 偏差値五十五の私立『奈華咲(なかさき)高校』の中でも、喧嘩ばかりの不良で、教師に目をつけられている彼は、その穏やかな性格で生徒には人気だった。


「タイガ、帰ろう」


 そんなタイガに声をかけたのは、二年生の中でも、成績学年トップに君臨する秀才―――剣崎ヒカリだ。


「………お前、塾は?」


「今日は六時から。―――まだ時間あるからどっか遊びに行こうぜ」


「あのなぁ、前からいってるだろ? 俺と関わってたらお前まで教師に目を付けられるって」


「誰と遊ぼうが俺の自由だろ?」


 お決まりのやり取りをしながら、二人は校門から歩いて外にでる。



「あれー? タイガとヒカリじゃん!」



 そんな二人に、声をかける人物が一人。


「なんだアサヒか」


「なんだとはなんだ! この赤太郎!!」


「だぁーかぁーらぁー!! 髪色だけで変なあだ名付けんな能天気女ァ!」


「誰が能天気女!?」


 真道アサヒ。


 いたって普通の一般生徒。しかし、その人懐っこい性格でみんなから人気のある女子生徒。


 タイガとヒカリとは、中学からの付き合いだ。


「相変わらず仲いいのか悪いのかわかんないよなお前ら」


 そんな二人の口喧嘩を、他人事のように見つめるヒカリ。


「「フンッ!」」


 最終的に、お互いにそっぽを向くアサヒとタイガ。


 二人のくだらないケンカが終わったのを確認して、ヒカリは改めてアサヒに声をかける。


「アサヒ、このあとタイガと遊びに行くんだけど………一緒にどうだ?」


「ヒカリが放課後予定あいてるって珍しいね」


「ああ、今日は早く学校が終わったからな。六時まで暇なんだ」


「そうなんだね」


 ヒカリの話を聞いたアサヒは、『う~ん………』と少し悩んで―――


「―――ごめん! 今日は難しいかも!」


 パン!と手を叩き、二人に謝罪をするアサヒ。


「今日は先約があるの!」


「………そうか、それは仕方ないな」


「ホントごめん!」


「振られたな? ―――まぁ、俺は能天気女が来なくて安心したがな」


「うっさい赤太郎」


 そんなやり取りをする三人。


 すると―――



「お待たせアサヒ」



 不意に、校門から出てきた男子生徒がアサヒに声をかけた。


「ヨミ!」


 千間ヨミヤ。


 どこか影を感じさせる男子生徒。―――言葉を選ばず表現するならば、とても『暗い』少年だった。


「あんだよ、用事って彼氏かよ」


「そうよ! 悪かったわね!」


 二人は学年の中でも、正反対なカップルとして有名だった。


「今日は二人でCDショップいく約束があんの!」


「どうせ、お前の趣味に付き合わせてんだろ?」


「そんなことないもん! ね、ヨミ?」


「えっ、あ、うん………」


 戸惑ったように声を返す少年は、普段関わらない人間がいるからか、少しソワソワしている。


「………」


 そんなヨミヤを、少し見つめるヒカリは、不意に視線を外し―――


「わかったよアサヒ。俺達のことはいいから、彼を待たせてあげるなよ」


「! そうだ! ごめんねヨミ!」


「いや、オレのことは気にしなくてもいいけど………」


「いいのいいの。―――そうゆうことだから、じゃあね二人とも!」


「おう、さっさと行け」


「じゃあ………また明日」


 元気に手を振るアサヒは、タイガ達とは反対方向に歩き出した。


「………あいつって、あーゆー奴がタイプだったんだな」


 アサヒに手を引っ張られ、戸惑いながら隣を歩くヨミヤをみて、タイガは少し以外そうに呟く。


「………だな」


 ヒカリはジッとアサヒの後姿を見つめている。


「………はぁ」


 そんなヒカリの様子を見かねたタイガは―――


「ほら、俺らも行くぞ。―――今日は特別にマックを奢ってやる」


「わっ………」


 強めにヒカリの背中を叩くタイガは、つんのめる親友をおいて、一人歩き出す。


「………どうしたんだ急に」


「気まぐれだよ。要らないなら俺一人で行くがな?」


「………いく」



※※ ※



「はぁ~………買ったねぇ!」


 アサヒは、CDショップの自動ドアをくぐりながら、大きく背を伸ばした。―――その手にはショップ

の袋に入ったCDがある。


「あのアニメの曲しか知らなかったけど………他の曲もよかったよアサヒ」


 アサヒの後にショップから出てくるヨミヤの手にもショップの袋が握られている。


「居たぞ、()()()だ」


 そんな二人の前に、おそらく同年代だと思われる少年たちが立ち塞がった。


「………? 誰?」


 アサヒは、そんな少年たちに見覚えがなくて、怪訝そうな顔をする。


―――この人たち………


 ヨミヤは、一人一人の恰好が派手なのを確認して、直感的に自分たちが『絡まれた』ことを自覚する。


「お前、中学の頃赤岸と仲良かった女だろ?」


―――赤岸………!


 先頭に立っていた不良の言葉に、何となく相手の目的を察したヨミヤは密かに警戒度を上げる。


「は………? 急に来て何?」


「いやなぁ、最近赤岸のヤローが調子乗っててなぁ………」


「だから何? タイガと私は関係ないんだけど………」


「察しの悪い女だなぁ………」


 少しイラついたような男は、首を鳴らしながらポケットから手を引き抜き―――


「テメェを攫って、赤岸をボコボコにすんだよォ!!」


 アサヒにつかみ掛かろうと手を伸ばす。


「………ッ!!」


 その瞬間、間一髪でヨミヤが男とアサヒの間に身体を割り込ませる。


「………ンだてめェ」


「………」


 ヨミヤは恐怖で震える心で理解していた。


「ヒーロー気取りか?」


 おそらく、言葉は意味をなさない。―――そして、自分には目の前の不良をどうにかする方法はない。


「………」


「なんとか言えよコラ」


 故に―――



「逃げようアサヒッ!!」



 彼女の手を引いて、ヨミヤは走り出した。


「チッ、腰抜けが………オイ、追いかけろ!!」


 後方より迫る数々の足音に心臓を掴まれるような錯覚に陥りながら、ヨミヤは街中を駆け回る。


「あぁー………私のCDがぁ~!!」


「ごめんアサヒ!」


「いや………ヨミは謝らないで! ―――弁償はアイツ等にさせるんだから!!」


 ヨミヤに手を引かれながら、アサヒは携帯を取り出し―――



「お前、数学どうだった?」


 放課後のマック。結構人がいる店内の一角で、タイガとヒカリはダラダラと雑談を繰り広げていた。


「今回は難しかったね。危うく九十五点を切るとこだったよ」


「………この話を振った俺が悪かったわ」


「そんなに点数悪かったのか?」


「………今回は七十八点。お恥ずかしながら過去最高得点だバカ野郎」


「………すごいじゃないか。恥ずかしがることないだろ」


「自分の発言を鑑みて喋りやがれエリート野郎が」


 目の前の超人の発言にイライラしながら歯噛みしていると、不意にタイガの携帯が震える。


「電話じゃないか?」


「だな。―――――――アサヒからだ」


 携帯の画面を見て、すぐに電話に出るタイガ。


「どうしたぁー、俺らと遊びたくなったかぁ?」


『うっさいバカ! こっちはアンタのお友達に追いかけられてんの! どうにかしてくんない!?』


「………はぁ? 一体何言ってんだお前?」


 突然の言葉に、妙に息切れしているアサヒの呼吸。さらには、電話越しにドタドタと走る音に、違和感を抱くタイガだが、うまく状況を飲み込めず思わずアサヒに言葉を問い返す。


『だぁーかぁーらぁ―!! アンタの―――ちょっ、ヨ!?』


 アサヒは若干キレながら声を上げようとするが………


『ごめん赤岸君! 千間です!』


 突然電話の主が代わり、名を名乗る。


「千間………?」


『ごめん、緊急だったからオレが代わった。―――結論から言うと、助けてほしい!!』


 息を切らしながらヨミヤは短く結論から述べる。


『赤岸君を狙う連中が、君の友達のアサヒを人質にしようと襲ってきたんだ!』


「………なんだと?」


 ヨミヤの言葉に、タイガは額に青筋を浮かべながら立ち上がる。


「今どこだ千間」


『今………逃げてる最中で―――もう少しで駅前に着く!!』


「ちょうどいい。そのままマックのある駅前広場まで頑張れ。………そこで俺がまとめて相手してやる」


『ありがとう! オレじゃどうにもなんないから助かるよ!!』


「おう。―――お前も、悪かったな巻き込んで」


『大丈夫! それじゃあ!!』


 電話を切ったタイガは、無言で携帯をポケットに仕舞い、ゆっくりと立ち上がる。


「………クソ野郎どもが、関係ない奴巻き込みやがって」


「………ケンカ絡みか?」


「そんなトコだ。………先塾行ってろ」


「そんなこといったって、時間までまだあるしなぁ」


「バカが………巻き込まれたいのか?」


「そんなわけないだろ」


「ハッ………じゃあ―――」


「まぁ、暇だし、付き合うよ」


「………忠告はしたからな」


 いつものように、ヒカリが言っても聞かないことを察して、タイガは吐き捨てるように告げた。



「はっ………はっ………もうちょっとだから頑張ってアサヒ!」


「う、うん………」


 かれこれ三キロほどだろうか、例の不良たちは愚直にアサヒとヨミヤを追いかけ続けていた。


「あいつら………あんだけ………体力………あるなら………もっと、別の、こと、頑張りなさいよ………」


 盛大に息を切らしながら悪態をつくアサヒ。


 場所は、駅前の広場が眼前まで迫ったところ。


「あっ………」


 しかし、運動がそこまで得意ではないアサヒは、そこで、足を(もつ)れさせて、盛大に地面に転げる。

「アサヒッ!!」


「いいかげん寝てやがれクソ女がァ!!」


 すぐに、後ろに迫っていた不良の一人が金属のバットを振りかぶる。


「―――ッ!!」


 ヨミヤがアサヒの頭を抱き込み、彼女を庇う。そして―――


「がっ………!?」


 金属のバットが後頭部を思い切り打ち付けた。


「ヨミ………ッ!!」


 頭部から血を流し、倒れるヨミヤ。


 しかし、それでも彼はアサヒを放すことなく、地面に倒れこむ。


「ヨミッ!! 今すぐ治療しなきゃ………ッ!!」


 強く抱き込まれたアサヒは動くことが出来ず、少年の胸の中でひたすらもがく。


「チッ………おい、お前らやるぞ!!」


 不良たちは、そんなヨミヤを排除しようと一斉に殺到するが。



「オラァッ!!」



 真横から殴りこんできたタイガにほとんどの不良達が吹き飛ばされる。


「無事か!?」


 タイガの後に続いてヒカリが到着。すぐにヨミヤとアサヒを引きはがし―――ヨミヤの状態を見る。


「ヒカリ………ヨミが………」


「っ………!」


 頭部から流れる血に目を丸くするヒカリ。だが、


「アサヒ、すぐに止血するんだ! 俺は警察と救急車を呼ぶ!」


 ヨミヤの意識がないことを確認すると、すぐに取り乱すアサヒに指示をだし、動き始める。


「う、うんッ!!」


 アサヒも、混乱する頭の中に、明確な指示が来たことで何とか動き出す。


「タイガッ!! こっちが終わったら手を貸す!!」


「ハッ………要らねぇよ。―――すぐ終わる」



※※ ※



 その後、割とすぐに騒動は収まった。


 その要因は、十人以上いた不良達をタイガが五分も経たず制圧したことが主な原因だ。


 その後、警察と救急車が到着。すぐにヨミヤは病院に運ばれ、アサヒが付き添った。


 ヨミヤを襲った不良達と、タイガはその場で警察に連れていかれた。


 ―――が、ヒカリやアサヒ、目撃者の証言のおかげで、タイガは厳重注意のみですぐに解放された。


 一方、ヨミヤは大事には居当たらず、二週間ほどの入院で済んだ。


「今回は本当に悪かったな千間」


 ヨミヤの病室。


 リンゴの皮を器用に剝きながら、タイガはヨミヤへ謝罪を述べた。


「そんな気にしないでよ赤岸君」


「………タイガでいい」


「あ、えっと………じゃあ、タイガ君」


「………おう、まぁいいか」


 剝き終わった林檎を器用に切り分け、紙皿の上に並べるタイガは、申し訳なさそうな顔をしていたが―――


「………正直な」


 不意に、まっすぐヨミヤの目を見て、軽く口角を上げた。


「お前のこと、『暗い奴』なんて思ったよ」


「え? ディスられてる?」


「まぁ、最後まで聞いてくれ」


 リンゴの乗った紙皿をヨミヤに渡しながら、タイガは言葉を続ける。


「だが、お前がアサヒを守ってくれたおかげで致命的な被害が出ずに済んだ―――俺のせいで誰かが犠牲にならずに済んだんだ」


 それだけいうと、タイガは深く頭を下げた。


「謝罪と………感謝を受け取ってくれ―――本当にありがとう」


「そ、そんな………結局オレ、逃げてただけだし………なんならボコられたし………」


 タイガは頭をあげて、謙遜するヨミヤに頭を振る。


「いや、お前は自分のできることを『逃げださず』精一杯やってくれた。―――見直した」


「そうかな………そうだといいな………」


「あぁ、そうさ」


 リンゴを口に運ぶヨミヤを見て、タイガはゆっくりと席を立つ。


「行くの?」


「あぁ。あんま怪我人の病室に長居するのも申し訳ないからな」


 そういって病室の入り口まで行くタイガは、最後に振り返り、


「千間。困ったことがあったら相談してくれ。俺はお前の力になる」


「ははっ、それは心強いね。―――わかった。ありがとう」


「おう!」


 決別した少年たちの、昔日の思い出。


 先のことなど知りもしない彼らは、確かに、微かな友情を育んだのだ。

閲覧いただきありがとうございます。

この話は2024年12月に行われたコミケに出店したときに配布した本の為に書き下ろしたものです。

連載一周年記念に今回投稿しました。

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