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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
奈落の復讐者編
23/268

勇ましき者とは イチ

 時は少し遡る―――


「っ…………………」


 ヨミヤとの戦闘直後、彼の爆発を至近距離で浴びたヒカリは、地面に強く頭を打ち、しばらく気を失っていた。


 ヒカリが目を覚ますと、辺りは暗闇に包まれていた。


「お、れは…………………」


 頭を振る。


 しかし思考はボンヤリしていて、直近の記憶を辿れずにいる。


「? 俺は、なにを………」


 激しい感情が身体を支配していた。その事実だけは心の内に残る激情の破片が教えてくれていた。けれども、肝心の記憶をうまく思い出せず―――


「おっと………」


 フラついた身体で後ろずさると、ヒカリの踵に何かがぶつかった。


「………………――――――ッ!?」


 それは()だった。


 人間の右腕。肉と骨を鋭い刃物で叩き切ったような断面の右腕。


「あ、あぁ………」


 その瞬間、それまでの記憶が一気にヒカリへ流れ込んできた。


 魔族によって遥か遠方へ転移させられたこと、怒りが抑えられずヨミヤに襲い掛かったこと、彼の右腕を切り落としたこと、彼に罵詈雑言を浴びせたこと、そして――――――



 千間ヨミヤを殺害したこと。



「ぅ………………お”ぇぇぇ……………」


 殺した。人を殺した。


 冷静になった今、その事実がヒカリの内臓を圧迫する重りになって降りかかる。


 ヒカリは込み上げた吐き気を抑えることができなかった。


 同級生を、自分と会話をしようとした人間を殺した。


「あ、あああぁぁぁぁぁ………………」


 少年は力なく地面にうずくまる。まるで、自分の中から何も出さぬように、胸を搔き抱いて地面へ丸くなる。


 なぜこうなった?


 自問が始まる。


 全てはアベリアスとかいう魔族に()()されてからが始まりだった。あの霧の中でヒカリは『アサヒ』に精神を攻撃された。


 その時、自分の中の『気持ち悪い本性』みたいなものが抑えられなくなった。


 気づけば暴走して、ヨミヤに襲い掛かり。


「俺は………俺は………俺は、悪く………な………い――――――」


 震えが全身を襲う。ひどく身体が冷たい。頑張って心を保つが、


『お前が殺した』


 自身の奥底からそう囁く声が、責任転嫁すら許さなかった。


(俺が殺した、俺が―――どうすればいい? どうしようもない。もうダメだ。みんなに合わせる顔がない、アサヒはどう思うかな、アサヒに――――)


 取り留めのない思考の連続。


 すべて浮かんでは消える泡沫のような思考の藻屑達。それらは、今の彼を動かす原動力になりはしなかった。


 ただ一つの思考を除いて――――――


「アサヒ」


 心の泥濘に沈んでいく少年は、一つの事実を思い出した。


『勇者殺しは優先事項だ。お前らは無理でも、他は殺す!! 精々自分の非力でも悔いてろッ!!!!』


 この言葉は、アベリアスのものだ。ヒカリとヨミヤを罠にはめた直後、宣言したのだ。


「アサヒ………アサヒ………」


 まるで重さに耐えるように、こらえるように、少年は少しづつ立ち上がる。


 やがて、完全に地に足をつけると、泥沼から足を引き抜くように一歩、また一歩と少年は歩き始めた。


「アサヒ…………………」

閲覧いただきありがとうございます。

本日は午前に一本、午後に一本投稿しようかなと思います。

それはそうと、夏コミお疲れさまでした。今年も楽しい思い出ができましたね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 罪と向き合おうということもなく、それでも勇者という称号だけはあるという、ヒカル君の歪さがよく出ていた場面でしたね。悪くないと言ってしまうあたりが、いやはや。そして、執着心の浅ましさもよく出…
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