降り止む雨に大樹の衰亡 サン
「それでね、モーカンさんってば私が最後まで取っておいたお肉、食べちゃったんだよ!」
「モーカンさんって謎に食べ物への執着強いよね」
「そうなんだよ! ―――流石におかあさんがフォークでモーカンさんの手を刺してたけど………」
なんとなーく『ぎゃあああ』と痛がるモーカンが想像できてヨミヤは口元をひきつらせた。
今は水汲みの帰り道。
あと五分も歩けば村にたどり着く道中。
二人は他愛のない会話をしながら帰路につく。そんなとき———
「あ………雨だ」
ヴェールの言葉と共に雨が二人を濡らし始める。
「急いで帰ろうかヴェール」
「そうだね」
当然、濡れたくない二人は急ぎ足で帰ろうとする。
だが――――――
「………なんでお前たちがここに居る」
突如として現れた男達―――甲冑姿の『騎士』………否、人間達に囲まれる。
ヨミヤは眉をひそめて―――担いでいたバケツを地面に下ろす。
「―――魔族だ! 殺せェ!!」
ヴェールを庇い、ヨミヤは念のため持ってきていた剣を引き抜く。―――同時に囲んできた男たちも一斉にヨミヤへ襲い掛かる。
「―――絶対に離れないでねヴェール」
「う………うん………!!」
「………なんだこれは」
広場の中心にある見張り櫓が最初に爆発した。
畑の整備を行っていたイルは、尋常ならざる大音響に警戒心を一気に高め―――武装を持ち出して、家で作業をしていたモーカンと共に広場へと急行して、
「マジかよ………」
モーカンと共に目を疑った。
「魔族を捕まえろォ!!」
「キャァァァァァァァァァ!!」
「別に殺しちまってもいいんだろ!?」
「好きにしろ! 獲物はいくらでもいる!!」
「やめ………やめろ!?」
「死ねオラァ!!」
「おかあさぁぁぁん!!」
「黙りやがれクソガキ!!」
人間が魔族を襲っていた。
より正確に言うなら、『騎士』の恰好をした人間が魔族を襲っていた。
「っ………………」
「あ、アネキ………こ、こいつらって………まさか………」
嫌でもヴェールが攫われた日を想起させる光景に、苦渋で顔を歪ませるイル。
「よぉ、久しぶりだなぁ」
そんなイルに声をかける者が一人。
「………エクセル………ラーク………!!」
帝国近衛騎士団団長エクセル・ラーク。―――その邪悪な笑みには似合わない純白の鎧の男。
「アネキ………こいつがいるってことは………やっぱり鎧の奴らは全員———」
「まぁ、勘がいいなぁ大男。―――正解。今魔族を襲ってんのは奴隷商会『白馬』の馬鹿どもさ」
牙のような八重歯をむき出しにする男は言葉を吐き続ける。
「『勝手に魔族領に押し入った騎士達の暴挙で、魔族の村が一つ滅びました』ってシナリオだ。―――どうせもう近衛騎士は続けらんねぇからなぁ、最後の最後まで利用させてもらうとするさ」
男は『刹那』を楽しむ。―――先のことなど眼中にはない。
「お前………アベリアス様達はどうした!! ―――お前を追っていたハズだろう!!」
「あぁ、あの『無能共』なぁ………」
エクセルは肩をすくめて呆れたように吐き捨てる。
「今頃、『バーラド城』の地下で勇者と殺し合ってんじゃねぇの?」
『傑作だよなぁ』と蔑む笑いを見せるエクセル。
「………!!」
そんな男へ、イルは刃を向ける。
「――――――今すぐ部下の蛮行をやめさせろ」
「あんでだよ? ―――あいつら、あんなに楽しそうじゃねぇか?」
「いいからやめさせろ………!」
「おいおい、ここまで戦ってきておいて、まだ俺のこと理解してくれてねぇのかよ? 悲しいぜ」
「………ッ!!」
イルは腰収めていた短剣を引き抜き、静かに構えた。
「――――――殺してやる」
「やってみろザコ」
閲覧いただきありがとうございます。
ちなみに、モーカンの幼少期は食べ物に困っている子だったので食い意地が張ってます。
とはいえ、幼女相手に食い意地発揮してほしくないですけどね。




