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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
罪科の犠牲編
217/270

排斥 ゴ

「私の………話を聞いて欲しいのです」


 アベリアスに剣を突き付け、イルは表情を強張らせて―――それでも言葉を紡ぐ。彼は、そんなイルに振り向き、真正面から向き合う。


「………」


 アベリアスは無言でイルの表情を見つめ―――まるで推し量るように、青と黒の二色の瞳(オッドアイ)を覗き込む。


 イルは、そんなアベリアスの視線に怯みもしないで、剣を突き付け続ける。


「………」


「………」


 やがて、何かを察したアベリアスが、小さく息を吐き、肩の力を抜いて困ったように口を開いた。


「わかりました。―――事情を聞くだけ聞きましょう」


 緊張した空気が少し緩む。


 イルも心なしか少し安堵したような息を吐く。


「………彼は――――――」


 ヨミヤの傍でしゃがむイルは、心配そうに彼の肩に手を置きながら事情を話し始める。


 剣崎ヒカリに裏切られたこと、娘の情報を探していた自分を助けてくれたこと、帝都で勇者を襲撃して帝国に指名手配されたこと………


 何より、自分の娘を奴隷の身分から助け出して―――とある少女と共に自分の元まで送ってくれたことを。


「なんだ、いい奴じゃ~ん」


 全ての話を聞き終えると、呑気にアスタロトが言い放つ。


「………というか、お人好しだな」


 ネヴィルスはあまり興味がないのか、どこか他人事だ。


「………」


 そんな中、アベリアスは一人無言でヨミヤを見つめ、


「―――いいでしょう。正直、思うところはありますが………イルさんの恩人だというのなら」


 一度視線を下げたアベリアスは、そういって顔を上げた。


「我々は魔族。―――虐げられた者達を保護し、発展した種族」


 そうして、アベリアスはまるで言い聞かせるように言葉を落とす。


「我々は戦士。―――同胞のために戦った戦士に、賞賛を」


 かつて司令官として、自らの手本となってくれた恩師。―――そんな()()()()()を守り抜いた『人間』にアベリアスは治癒の施しを与えた。


「………」


 戦場で部下を討った者に―――自分の想いを飲み込んで、アベリアスはヨミヤを治療したのだ。



「今は気を失っていますが………やがて目を覚ますでしょう。―――念のため、起きたら自分自身に回復を掛けるようお伝えください」


「本当に………ありがとうございます」


「いいんです。―――イルさんの恩人だというなら………助けないわけにはいきません」


「イルさん、ヨミヤ………だっけ? 起きたら『戦おう』って言っといて!!」


 ちなみに、あの剣崎を追い詰めた人間として、アスタロトはヨミヤに興味津々だった。


「バカ、仕事中だ。―――いいんです、気にしないでくださいね~………」


 ネヴィルスは三人の中で一人だけイルとは関係がないようで、アスタロトの後頭部を引っぱたくと、気まずそうに彼を引っ張り後方に下がる。


「それでイルさん………我々も貴女に聞きたいことが一つ」


 そういうとアベリアスは先刻、銃撃事件のあった町の入り口に目を向ける。


「先ほどの人間達………あの者達のことを何かご存知でないですか」


「あの者達のこと………ですか」


 隠す理由もない。


 むしろ、魔族領に帰ってきたのなら、アベリアスのような一般人を守ってくれるような組織に所属する者に相談するのが正しいことだろう。


 イルは銃撃犯が奴隷商『白馬』の人間であることや、今までのことを細かくアベリアスに伝える。


「なるほど………」


 顎に手を当て、何かを考えていたアベリアス。そんな彼はおもむろに顔をあげると、イルに口を開いた。


「本来、我々の任務は口外してはいけないのですが………どうやらイルさんは()()()()()()()ようなのでお伝えしておきます」


 そういって前置きをすると、アベリアスは予想外のことを口にした。



「我々の任務はイルさんを追い掛け回していた主犯『エクセル・ラークを捕縛すること』なんです」



 その言葉に目を見張るイル。


 アベリアスはそんなイルの様子を伺いながら言葉を続ける。


「奴は我々に帝国側の重要機密をもたらした。―――そのため、魔族領での行動を一時的に許していたのですが………」


 アベリアスの言葉の続きをイルは何となく察した。


「………『魔族狩り』を始めましたか?」


「………ええ」


 アベリアスからしてみれば全くもって意味不明だろう。


 『魔族側の機密を探り持ち帰る』ことが目的なら分かる。―――しかしエクセルは、魔族領での自由行動が許された途端、一般の魔族を狩り、攫い始めたのだ。


 そんなことをしても、帝国と魔国の戦争には何の利益も不利益もない。


 意味がないのだ。


「その蛮行に気が付いた魔王様が、内密に我々へエクセルの捕縛を命じた………というわけです」


「………なるほど」


 そこまで話を聞き、イルは『ある確信』を得る。



「………………おそらくあのエクセルという男に―――()()()()()()()()()()



「というと………?」


 まるで、その言葉が当然であるかのように、運命であるかのようにイルは言葉を続ける。


「あの男の過去に何があったのかは知りませんが………あの男は『魔族を痛めつける』ことに快楽を覚える様子」


 何度も接敵しては、加虐の塊のような『獣の笑み』を向けられたイル。


「そして、魔族領まで私達を追いかけるほど………あの男は『快楽に飢えている』」


 そう、今までの戦いの中でイルが感じたのは、まるで動物や魔獣のような強烈な衝動性。


 加え、アベリアスから聞いた魔族領内での行い。


「魔族領に入るために帝国側の機密を流し、自身の快楽のために魔族を狩って………攫って売り飛ばした」


 イルは宣う。


 純白の鎧の下に蠢く衝動性を、


 人当たりのよさそうな顔の裏側に潜む獣を。


「奴は………『人間』でも『魔族』でもない。―――ただの『獣』です」


「『獣』………」


 深刻そうな顔でイルの言葉を反芻するアベリアス。


「けど、決して侮ってはいけません。―――奴は知恵を駆り、悪意を迸らせた歴戦の獣です」


「………ですね。『最低最悪の獣(ザ・ワースト)』と言ったところですか」


 ため息をつくアベリアスは、けれどイルへ真っすぐ目を向けた。


「―――ですが、安心してください。奴らの手掛かりは掴んでます」


「ふふっ………それなら安心ですね」


 アベリアスの言葉に、上品に笑って見せたイル。彼は、イルの笑顔に、同じように表情を緩める。


「………ですから、イルさんもこの先は心配せずお進みください」


「では、お言葉に甘えます。―――任務が終わったら私の所へおいでください。何もない田舎ですが………精一杯おもてなしさせていただきます」


「………そうですね。私もそろそろ旦那様の墓参りに伺おうと思っていました。アスタロト(あのバカ)を連れて、近々伺います」



 ※ ※ ※



 運命の日は近づく。


 誰にとっての運命のなのか。今は誰にも分らないだろう。


 だが一つ確かなことがあるとすればそれは―――


 ()()()()()()()()()()()()()が訪れるということだろう。

閲覧いただきありがとうございます。

人間は『排斥を選んで』、魔族は『排斥を選ばなかった』のですねぇ

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