排斥 イチ
夢を見た。
血まみれのエクセルがオレに向かってくる夢を。
『強くなった』と勘違いしたオレは、剣を抜いて必死に戦うのだが———敵わない。
いつしか、エクセルの刃がオレの腹をブチ抜く。
「ぁ………がっ………」
みっともなく血反吐を吐いて、真っ黒な地面に鮮血をまき散らす。
―――それでも必死に抵抗しようと顔をあげて、
エクセルだと思っていた人間の顔が———オレ自身だった。
「っ………」
それが信じられなくて、血で濡れた大地に視線を落として、
「うぁ………!!?」
鮮血の海に映った自分は、全くの別人だった。
「ハッ………ハッ………ハッ………ハッ………」
困惑が思考を塗り潰し、理解を拒絶する。―――やがて、オレは周囲を見渡して気が付く。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
あたり一面を死体の山が埋め尽くしていた。
気が付けばオレは剣を握り—――見知らぬ誰かの心臓を突いて、殺していた。
「ァ………ァ………」
目の前の光景を信じ切れずに、死体を剣ごと手放す。
脂汗が全身から噴き出す。心臓の音がうるさい。呼吸が落ち着かない。手の震えが止まらない。膝が勝手に笑い始めて立っていられない。
無様に血だまりへ腰を落としたオレの足を何かが掴む。
地面から突き出した手だ。
オレと同じく血まみれの手がオレの足を引っ張り—――やがて地面からエクセルが現れる。
「お前は、俺と同じさ」
まるで腐りはてた屍のような相貌で、オレを真正面から睨みつけるソイツは告げる。
「誰かに血を強要しなければ自分を証明出来ない欠陥品」
「やめろ………!」
「自分も相手にも血を流せることでしか未来を紡げない無能の愚物」
「やめろ………ッ!!」
「お前は誰かに不幸を振りまく簒奪者だ」
「やめろォォォォォォォォ!!!!」
気が付けばオレは目の前の屍に剣を突き立てていた。
「ハッ………ハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
だが、屍はそれでも声を吐き出した。
「なぁ? ヨミヤ?」
エクセルでも屍でもないヨミヤは、血まみれの手でオレの頬を汚した。
※ ※ ※
「うあぁッ!!?」
悲鳴を上げて飛び起きる。
「はっ………はっ………はっ………ゆ………夢………………?」
額に滲む汗を拭いながら前髪をかき上げるヨミヤは、たった今見ていたのが夢だと気づいて、一人ため息をつく。
———あんな夢………どうにかしてる………
「ぁれ………ヨミヤ………?」
すると、ヨミヤのベッドで頭を預けて寝ていたヴェールが起きて、寝ぼけ眼で彼の様子を伺ってくる。
「あれ、おはようヴェール。―――ここで寝てたんだ?」
「ぅん………昨日ヨミヤついてすぐ寝ちゃったから心配で………それより、大きい声聞こえたけど………大丈夫?」
必死に目をこすり、ヨミヤを見上げるヴェール。
そんなヴェールの頭をそっと撫でるヨミヤは、静かに微笑んだ。
「大丈夫。―――ちょっと変な夢を見ただけ。………もう陽が昇ってるみたいだけど、起きる?」
「ぅん………」
起きる意志はあるが、それでも頭が『睡眠』の選択肢を取ってしまったヴェールは、そのままウトウトし始めてしまう。
別に特段起こす必要もないヨミヤは、そんなヴェールに苦笑しながら部屋を見渡した。
—――モーカンさんと………イルさんもイスで寝てる………
大方、自分の横で寝てしまったヴェールが心配で、自身もここで寝ることにしたのだろう。
正確にこの部屋で全員が寝てしまった経緯を察したヨミヤは、ヴェールを起こさないように、そっとベッドを出て、窓の外を見る。
「昨日は疲れててあんまり景色を見る余裕がなかったけど………綺麗な町だな」
そこは石畳で町並みが舗装された景観。
帝国領の国境沿いの町は、周囲が荒野なだけあって、印象は茶色の『土の町』。緊張感の高い荒々しい町だった。
しかし、この街は緊張感はあるものの、それは『整えられた』緊張というイメージを抱く。
歩いているのが、額に角を生やす悪魔族や獣の耳をもつ獣魔族、中には牛頭や、鬼頭族であるため、人間の町とはまた違う雰囲気がある。
———魔族領は、現実世界で言うところの、いろんな人種の人々が住むような国ってところなのかな
歩いている住人一人一人に人格があり、考えがあり、将来がある。
「………」
今も寝息を立てるヴェールに少しだけ視線を移し―――すぐに眼下の魔族たちへ目線を戻す。
容姿がいかに人間離れしていようとも、身体能力がいかに常人離れをしていようとも、ゲームや漫画に出てくる『人を脅かす悪役』などでは決してないことを少年は強く心に刻む。
その時だった。
町の入り口で派手な爆発が巻き起こった。
閲覧いただきありがとうございます。
『自分たちと違うから』という理由だけで、他人を排斥するような人間にはなりたくないですね。




