追跡 サン
「さて、これで吐く気になったか?」
応接室の床一面に、殴られて気絶した騎士が横たわる。
「………」
まるで雑草が生えているかのように騎士が転がるその光景を目にしたダンは、信じられないものを見た様な瞳でヒカリに視線を送った。
「ねぇコイツら止め刺さなくて大丈夫~?」
「はいはいハーディさん。ヒカリは今尋問してるので、この騎士のことは私に任せてください」
「あらそう?」
「ええ、今セーカに連絡して帝国の人に処理してもらいましょう」
そんなやりとりを背中で聞き届けたヒカリは、改めてダンへ意識を向ける。
「っ………化け物め………!」
「そーゆーのいいから………さっさとエクセルの居場所を言え」
襲ってきた連中に『化け物』と言われるのも複雑な気分のヒカリだったが、そんな感情は無視して、ダンの胸倉を掴み、その耳元に口を近づける。
「決断は早い方がいい。―――後ろの二人は多分………情報の為なら何でもするぞ?」
まるで果実を下から握りつぶすかのようなジェスチャーを、悪戯な顔でダンに見せびらかすヒカリ。
「………っ」
そのジェスチャーに、何かを察したダンは、段々と青ざめていく。
「―――さっきも、あの二人がお前を拘束した。だから、彼女たちの気の短さはよ~く知ってるだろ?」
「………!!」
コクコクと頷くダンは、次の瞬間、堰き止めていたものが流れ出るように言葉を吐いた。
「い、今、エクセル様がどこに居るかはわからない! ―――けど、追跡してるやつらのことを考えれば、エクセル様は十中八九、魔族領に向かうはずだ」
「それで?」
「俺達の魔族領のアジトが、ここから北西にある———魔族領にある古い城だ………!」
「エクセルは遅かれ早かれ、必ずそのアジトへ向かうと?」
「あ、あぁ………!」
「ふーん………」
痛い目にあいたくなくて必死に情報を漏らしているように見えるダンは、少なくともヒカリには嘘をついているようには見えなかった。
———まぁ、一から十まで疑い出したらキリがないか
内心でそう考え、ヒカリは別の話を切り出す。
「あともう一個。―――なんでエクセルは千間………千間ヨミヤを狙う?」
「センマ・ヨミヤ………?」
ヒカリの言葉に不思議そうな顔をするダンだったが、すぐにその名前の心当たりを喋り始める。
「い、今のエクセル様の目的はあくまで高魔族の親子だ。―――その『ヨミヤ』とかいうガキは、攫う時の邪魔だからついでに排除しようとしているだけだ」
———あの親子が目的………ってことは………
「魔族を狙うってことは………お前ら———『奴隷商会』とでも繋がりがあるのか?」
平静を装い、まるで何事もないように問いただすヒカリ。
そんなヒカリに対し、ダンは少しだけ言いよどみ———やがて口を開いた。
「エクセル様は………は、奴隷商会『白馬』と………つ、つつつ、繋がりが………ある………」
———ザバルさんの予測は当たってた訳か………!
しかし―――
「いや待てよ………」
一つの矛盾にヒカリは気が付いてしまう。
———なんで『魔族』に情報を流した奴が………『魔族』を攫う………?
湧き上がる最大の謎。
———………状況を推察するには情報が足らない
しかし、現状はまるで複雑に絡み合った糸のようで、今のヒカリには何も推測することができない。
「………お前———」
さらなる情報をダンから聞き出そうとして―――
「ヒカリ、こっちは状況をセーカに伝えたわよ。―――そっちは?」
後ろからアサヒに声を掛けられ、ヒカリはハッと我に返る。
「あ、あぁ、大丈夫。―――エクセルの行きそうな場所の検討はついた」
———今はこの矛盾なんてどうでもいい………優先すべきは、千間の安否だ
時間の猶予がないことを思い出したヒカリは、ダンから手を放して———アサヒへ振り返った。
「ここから北西………魔族領にある古い城———そこにエクセルのアジトがあるらしい」
「ヨミの居場所は………」
「―――残念だがわからない。だから、エクセルを捕まえて話を聞こう」
「………わかったわ」
次の目的地が分かったところで、ヒカリ、アサヒ、ハーディの三人は騎士団支部を後にした。
閲覧いただきありがとうございます。
やっとのことで投稿できました。忙しい…
ちなみに、30日からはナイトレインが出るので、投稿遅くなるかもしれません。