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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
罪科の犠牲編

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203/277

魔境大雪山ヘイム・ヨヴル ヨン

 斬り伏せる。


 短剣を敵の首に叩きこみ絶命させる。


 そのまま滑るように次の標的の懐に入り込み、敵の胴を切り裂く。


 背後から迫る敵二人は、魔剣の力を駆使して、敵を絡めとる。―――すれ違いざまにその二人の首を刈り取り、残りの敵に視線を送る。


 あまりの瞬殺劇に、硬直する敵に今度は動くことなく、頭上から水の槍を打ち込み、戦闘を終わらせる。


「ッ………化け物めッ!!」


 惨状を見たリーダー格の男が漏らすが、次の瞬間には、男は斬り捨てられていた。


「く………そ………!」


 抜剣すら許されず、静かに男は息を引き取った。



 ※ ※ ※



「………」


 ヨミヤが三人の騎士を倒しているうちに、イルは七人の騎士を倒していた。


 その事実にヨミヤは握り込む。


「………………」


 しかし、少しだけ瞑目して、身体の中の息を抜いて口を開く。


「手伝えなくてごめんなさいイルさん」


 イルは、長剣と短剣の血を払いながら、クルクルと納刀すると、ヨミヤへ振り返った。


「気にするな。―――むしろ、能力を封印された状態での初めての対人戦だったろう? よく頑張ったな」


 イルは優し気な笑みを浮かべ、ヨミヤの肩に手を置くと、少年を通り過ぎてヴェールとモーカンの待機しているところまで戻ろうとする。


「………まだまだですよ」


 頼りない手のひらを見下ろしたヨミヤは、やがてゆっくりと前を見てヴェール達の所へ戻ろうとする。


 刹那―――


「………………………?」


 パリパリッ………


 そんな、()()()()()()()()()()がヨミヤの鼓膜を震わせる。


―――………上?


 違和感のある音を聞き逃せるはずもなく、ヨミヤは上空を見上げて、



 ()()()()()()()()()()()()()()しようとしているのを目撃した。



「―――イルさんッッッ!!!?」


 ヨミヤは咄嗟にイルを突き飛ばし、全力で剣を振りかざす。


 次の瞬間、刃と刃が衝突。―――金属同士がぶつかったとは思えない轟音が響き、ヨミヤを中心に地面に放射状の亀裂が走る。


 能力(ギフト)と魔法で強化されているはずのヨミヤの膝が沈む。


「オイオイオイふざけんなクソガキッ!! 何回俺の邪魔すれば気が済むんだ!!」


 落下の力も合わせ、ありえない力でヨミヤを押し込むエクセル。


「ヨミヤ、お前………!」


 イルは突き飛ばされた先で、自分を庇ったヨミヤに心配そうな声をかけるが………


「逃げてくださいイルさん………」


「だ、だがお前………」


「早くッ!!!」


 全身の力を動員して、何とかエクセルの力に耐えているヨミヤは、らしくない大声を上げる。


「………ッ!!」


 イルはすぐに意識を切り替え、モーカンへ叫んだ。


「モーカン!! 『ヘイム・ヨヴル』に入れッ!!」


「しょっ、正気っすかアネキ!?」


「いいからヴェールを連れて急げぇ!!」


「は、はいッ!!」


 そのやり取りを聞いていたエクセルは、あざ笑うように口を開く。


「ハッ………イカれてんなぁお前ら。―――まぁ、行かせるわけがないがな」


 その言葉と同時に、ヨミヤへ押し付ける刃の力が倍増する。


—――力が………強く………!


 既にエクセルの刃は、ヨミヤの剣越しに肩口まで迫っている。


 おそらくそのままヨミヤを切り殺してヴェール達を追うつもりなのだろう。


「さ………せ………るかァ………!!」


 最悪の事態を察したヨミヤは、無理やり黒腕でエクセルの服を掴む。


「あああぁぁぁぁぁッ!!」


「なっ………!?」


 そして、力任せにエクセルを()()()()()()


「チッ………必死かよ」


 エクセルは空中で体勢を変えると、綺麗に着地。


 すぐに駆け出すための一歩を踏み出すが———


球体結界(ラウンド・ヴァリア)!!」


 次の瞬間、ヨミヤはデビル・スケルトンが以前に使った球体の結界を展開。


 中にエクセルを閉じ込める。


「こんのクソガキ………ッ!!」


「イルさん! 今のうちに———」


「ヤグルージュ!!!」


 イルに逃げるように進言しようとしたところで、イルは魔剣の力を行使。


 球体の結界の上から大樹を覆いかぶせ、エクセルを二重に閉じ込めてしまう。


「―――お前だけ置いてくことはしない」


「い、イルさん………」


「グズグズするな、ヴェールとモーカンに追いつくぞ!!」


「ちょっ………イルさん!」


 残ってエクセルの足止めをしようとしたヨミヤの手を引っ張り、イルは走り出す。


 こうして、一行は麓の樹海を抜けて『ヘイム・ヨヴル』に入る。

閲覧いただきありがとうございます。

いつのまにか本作が200話を超えていました。

読んでくださる皆様のおかげで、ここまで頑張れています。まだまだ話は続きますが、お付き合い頂けたら幸いです。

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