魔境大雪山ヘイム・ヨヴル ヨン
斬り伏せる。
短剣を敵の首に叩きこみ絶命させる。
そのまま滑るように次の標的の懐に入り込み、敵の胴を切り裂く。
背後から迫る敵二人は、魔剣の力を駆使して、敵を絡めとる。―――すれ違いざまにその二人の首を刈り取り、残りの敵に視線を送る。
あまりの瞬殺劇に、硬直する敵に今度は動くことなく、頭上から水の槍を打ち込み、戦闘を終わらせる。
「ッ………化け物めッ!!」
惨状を見たリーダー格の男が漏らすが、次の瞬間には、男は斬り捨てられていた。
「く………そ………!」
抜剣すら許されず、静かに男は息を引き取った。
※ ※ ※
「………」
ヨミヤが三人の騎士を倒しているうちに、イルは七人の騎士を倒していた。
その事実にヨミヤは握り込む。
「………………」
しかし、少しだけ瞑目して、身体の中の息を抜いて口を開く。
「手伝えなくてごめんなさいイルさん」
イルは、長剣と短剣の血を払いながら、クルクルと納刀すると、ヨミヤへ振り返った。
「気にするな。―――むしろ、能力を封印された状態での初めての対人戦だったろう? よく頑張ったな」
イルは優し気な笑みを浮かべ、ヨミヤの肩に手を置くと、少年を通り過ぎてヴェールとモーカンの待機しているところまで戻ろうとする。
「………まだまだですよ」
頼りない手のひらを見下ろしたヨミヤは、やがてゆっくりと前を見てヴェール達の所へ戻ろうとする。
刹那―――
「………………………?」
パリパリッ………
そんな、電気が弾けるような音がヨミヤの鼓膜を震わせる。
―――………上?
違和感のある音を聞き逃せるはずもなく、ヨミヤは上空を見上げて、
エクセルがイルを上空から奇襲しようとしているのを目撃した。
「―――イルさんッッッ!!!?」
ヨミヤは咄嗟にイルを突き飛ばし、全力で剣を振りかざす。
次の瞬間、刃と刃が衝突。―――金属同士がぶつかったとは思えない轟音が響き、ヨミヤを中心に地面に放射状の亀裂が走る。
能力と魔法で強化されているはずのヨミヤの膝が沈む。
「オイオイオイふざけんなクソガキッ!! 何回俺の邪魔すれば気が済むんだ!!」
落下の力も合わせ、ありえない力でヨミヤを押し込むエクセル。
「ヨミヤ、お前………!」
イルは突き飛ばされた先で、自分を庇ったヨミヤに心配そうな声をかけるが………
「逃げてくださいイルさん………」
「だ、だがお前………」
「早くッ!!!」
全身の力を動員して、何とかエクセルの力に耐えているヨミヤは、らしくない大声を上げる。
「………ッ!!」
イルはすぐに意識を切り替え、モーカンへ叫んだ。
「モーカン!! 『ヘイム・ヨヴル』に入れッ!!」
「しょっ、正気っすかアネキ!?」
「いいからヴェールを連れて急げぇ!!」
「は、はいッ!!」
そのやり取りを聞いていたエクセルは、あざ笑うように口を開く。
「ハッ………イカれてんなぁお前ら。―――まぁ、行かせるわけがないがな」
その言葉と同時に、ヨミヤへ押し付ける刃の力が倍増する。
—――力が………強く………!
既にエクセルの刃は、ヨミヤの剣越しに肩口まで迫っている。
おそらくそのままヨミヤを切り殺してヴェール達を追うつもりなのだろう。
「さ………せ………るかァ………!!」
最悪の事態を察したヨミヤは、無理やり黒腕でエクセルの服を掴む。
「あああぁぁぁぁぁッ!!」
「なっ………!?」
そして、力任せにエクセルを投げ飛ばした。
「チッ………必死かよ」
エクセルは空中で体勢を変えると、綺麗に着地。
すぐに駆け出すための一歩を踏み出すが———
「球体結界!!」
次の瞬間、ヨミヤはデビル・スケルトンが以前に使った球体の結界を展開。
中にエクセルを閉じ込める。
「こんのクソガキ………ッ!!」
「イルさん! 今のうちに———」
「ヤグルージュ!!!」
イルに逃げるように進言しようとしたところで、イルは魔剣の力を行使。
球体の結界の上から大樹を覆いかぶせ、エクセルを二重に閉じ込めてしまう。
「―――お前だけ置いてくことはしない」
「い、イルさん………」
「グズグズするな、ヴェールとモーカンに追いつくぞ!!」
「ちょっ………イルさん!」
残ってエクセルの足止めをしようとしたヨミヤの手を引っ張り、イルは走り出す。
こうして、一行は麓の樹海を抜けて『ヘイム・ヨヴル』に入る。
閲覧いただきありがとうございます。
いつのまにか本作が200話を超えていました。
読んでくださる皆様のおかげで、ここまで頑張れています。まだまだ話は続きますが、お付き合い頂けたら幸いです。




