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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
罪科の犠牲編
201/270

魔境大雪山ヘイム・ヨヴル 二

「『白馬』―――居ました」


 崖の上から、町を囲む魔獣除けの外壁を覗き―――ヨミヤは静かに告げた。


「町の外壁を北に沿って進んだ先に、結構な集団が見えます」


「………町を迂回するルートは潰してある訳か」


「やっぱ、町の中に入らないっすかアネキ?」


「………それも難しいだろうな。―――一番近い出入り口と、魔族領に近い出入り口に検閲がある」


「で、でもお母さん、ヨミヤの変装魔法があればごまかせるんじゃ………」


「だめだよヴェール。―――検閲の中に魔法使いらしき人も見える。………残念だけど、オレの魔法の腕でごまかせる自信はないかな」


 町を見下ろす崖の上で、町の様子を伺う一行。


 経緯は簡単だ。


 町の入り口に人だかりが見えたヨミヤが、魔法で町の入り口を伺うと、検閲があった。


 ―――魔族との関係が危うい昨今、国境付近の町だ。当然と言えば当然だろう。


 万が一にでも魔族の侵入を拒みたいのだろう。相当の人数が検閲に携わっている。


 また、そんな状況で、ヨミヤ達が絶対に町に入れないと踏んでいるのか、大きく町を迂回する北側のルートには白馬が陣取っていた。


「ヨミヤ、先日襲ってきた男は見えるか?」


「………………はい、見えます」


 望遠の魔法で覗いた先に、奴隷を殴りつける男———エクセルを見つけ、ヨミヤは唇を引き結び、イルへ言葉を返す。


「………どうしたのヨミヤ?」


「………なんでもないよヴェール」


 心配してくるヴェールに、何とか笑みを浮かべて言葉をかけるヨミヤ。


「そうか………———次にヤツを戦闘になれば………逃げれる確証はない。―――それほどにあの男は強い」


 現状を正しく認識するイルは、人差し指と中指を立てて言葉を紡ぐ。


「選択肢は二つ。―――一つは『白馬』に見つからないように北側のルートを通り、魔族領に入る」


 中指を折りたたみ、残る指をヨミヤは見つめる。



「もう一つは———西の山脈『ヘイム・ヨヴル』を通り、魔族領に入る」



 西の山脈。


 大陸の南から、大陸中央まで連なる大山脈。―――魔族と人間の領土を二分する山々のことだ。


 ヨミヤも、以前にウラルーギから名前だけは聞いたことのある山のことだ。


 現在地は、大陸中央より、やや北にある町。


 確かに南下すれば行けなくもない提案である。


 だが………


「あ、アネキ………正気っすか………?」


 ただ一人、モーカンだけは青ざめた顔で顔を横に振っている。


「に、西の山脈って………ただの山じゃないんですか? むしろ、イルさんの今の提案に乗るしか………」


「ば、バカ言ってんじゃねぇ」


 モーカンのただならぬ様子にヨミヤが言葉をかけると、今度は静かに怒気を帯びた言葉が返ってくる。


「あの山脈『ヘイム・ヨヴル』はな………魔族すら侵攻作戦の時に通るのを諦める領域なんだぞ………!」


「な、なんで………?」


 ただならぬモーカンの様子に、ヨミヤが若干引いていると、今度はイルが言葉を引き継ぐ。


「あの大雪山にはな、多くの魔獣が住んでいるんだ」


「―――魔獣が?」


「あぁ。―――しかも、どの魔獣も極寒の中を喰った、喰われたの闘争を繰り返しているせいか、以上に『強い』」


 曰く、大極寒領域。


 曰く、不可侵領域。


 曰く、人外魔境。


 イルとモーカンは、とにかく西の山脈『ヘイム・ヨヴル』をそう評する。


「だが、厄介なのは中腹から山頂にかけて生息する巨人『フリュム』だ。―――今回通ろうとしているルートは麓を通って魔族領に入るルートだ。厄介な魔獣は出るだろうが………十分突破できると私は考えている」


「いや、なしっす!! ―――こっちにはヴェールもいるんすよ!?」


「じゃあ、どうするというんだ。―――具体的な案を出してみろモーカン」


「麓まで行かずとも、町と麓の間に十分魔族領に入れるルートはありますよ! ―――()()()の監視はあるかもしれませんが、よっぽど化物を相手にするより安全です」


「む………」


 モーカンの出してきた『具体的な案』に不服そうな声を上げるイル。


 おそらくイルのことだ。―――人間である騎士団と、ヨミヤを揉めさせたくはなかったのだろう。そのため、わざわざ騎士団と衝突の可能性があるルートを避けた可能性がある。


「………イルさん」


 それを察したヨミヤは、イルへ視線を送った。


「オレのことはいいです。―――今は少しでもヴェールが安全なルートを行きませんか?」


「………………………わかった。―――お前がそういうのなら………納得しよう」


 ヨミヤの言葉に、イルも頷き、一行は進路を変える。



「エクセルさん、今、他の奴からの連絡で………———南へ動いたそうです」


 ぼろきれのようになった奴隷の少年を、無造作に投げ捨ててエクセルは牙を剥く。


「まぁ、そうだよぁ………お前らは安全なルートを選ぶよなぁ?」


 むき出しの獣性を隠しもしないまま、エクセルは近くに()()()()()()()に命令を下す。


「俺に検閲を通らせろォ………近道だ」

閲覧いただきありがとうございます。

ちなみに、エクセルは傲慢で、強欲で、自分の欲に忠実なクズですので、彼に合理性を求めちゃだめですよ?

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