帝国 イチ
「来たかヒカリよ」
帝都の中央にある帝宮。その謁見の間にて皇帝・グラディウスにヒカリは呼び出されていた。
「はい、皇帝陛下の命により参上いたしました」
片膝をつき、頭を垂れるヒカリ。
最初は、言葉を発するのにも緊張していたヒカリ。
言葉遣いはコレでいいのかだとか、体勢はコレでいいのかだとか色んな事が少年の頭の中を巡っていた。
しかし、恐る恐る話した言葉遣いを特に咎められなかったことから、今では滞りなく話す事が出来ている。
ちなみに、グラディウスがヒカリの言葉遣いをあえて見逃しているのか、本当に言葉遣いに問題ないのかは今のヒカリには分からない。
「今日呼んだのは他でもない。———お前に頼みたいことがあるのだ」
グラディウスがそう告げると、近衛騎士が一つの魔廻石を持ってきた。
「まずは、その石に刻まれた『音の記憶』を聞いて欲しい」
「………はい」
『音の記憶』―――現代で言うところの録音だろう。
騎士は、すぐにその魔法を行使して———録音された音声をその場に再生した。
『『勇者召喚って知ってっか?』
『なんだそれは………?』
録音からは二人の男の声が聞こえる。前者は聞き覚えがないが―――
後者の声を、ヒカリは知っていた。
「アベリアス………!?」
ヒカリの驚愕を置いて、録音は進む。
『なんでも、違う世界の人間に能力を付与して呼び出す魔法らしい』
『………馬鹿にしているのか? 幼子でももっとマシな嘘をつくぞ』
『嘘だと思うなら勝手にしてもらっていい。―――まぁ、俺がわざわざこんなところに来てまでそんなしょうもない嘘をつくと思うなら………な?』
『………………………』
『まぁ、信じてくんねぇなら、もう一個の情報は伏せておくわ。―――どうせ信じて貰えないだろうしな?』
『………………まて』
男のわざとらしい言葉に、アベリアスは長い沈黙の後、男を呼び止める。
『———わかった。その話を………信じよう』
『………物分かりがいいじゃねぇか』
『あぁ………今はどんな些細な情報でも手にしておきたいからな』
アベリアスと、謎の男は何かを取引しているのか、不穏な会話を続けていたが―――
『まぁ………驚くなよ?』
ヒカリにとっても無関係ではない情報が話題に上がる。
『『転移魔法』の術式について、情報提供してやる』
「っ!!?」
———それは二か月以上前。
すべてが狂った『帝都前決戦』でのこと。
ヒカリ達はアベリアスの『転移魔法』への干渉によって、それぞれが散り散りになってしまった。
特に、ヒカリとヨミヤは、アベリアスの居る場所へ飛ばされ———ヒカリはアベリアスの魔法によって能力が暴走。
結果としてヨミヤを殺しかけ———ヨミヤはヒカリへ復讐を果たすべく凶行へ走った。
「―――陛下」
拳を握り締め———精一杯の理性をもって取り繕い、グラディウスへ言葉を向けるヒカリ。
グラディウスも、ヒカリの言わんとしていることを理解しているのか、言葉を紡ぐ。
「―――『転移魔法』は国が管理している魔法の一つだ。………当然、その詳細な術式も伏せられている」
瞑目するグラディウスは、ゆっくりと目を開く。
「………だが、現実として、第一階級魔族・アベリアスが転移魔法へ干渉し―――勇者は散り散りになった」
「――――――誰なんですか………この情報を漏らした男は」
怒りが腹の奥を刺激する。
グラディウスは、そんなヒカリの様子をみて―――少しだけ視線を下げた後、ハッキリとその名を告げた。
「その男は———近衛騎士団団長、エクセル・ラークだ」
閲覧いただきありがとうございます。
ゴールデンウィークなので頑張ります。




