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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
罪科の犠牲編
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ロスト・テリトリー サン

 エクセルの襲撃から二日後。


「やっぱりまだ()()()()()?」


 ヨミヤ一行は、町中で騎士の襲撃があったことから、町の中での活動を避けて現在は主に野営を行いながら目的地を目指していた。


「そうですね………全く()()()()()()()()()()


 現在は、崖下に空いた洞窟の奥で一行は夜をしのいでいた。


「原因って………やっぱりあの女の子………?」


「………おそらく………そうだろうね」


 そんな中、イル、ヴェール、モーカンはヨミヤを囲む形で会話を繰り広げている。


 内容は―――ヨミヤの『領域』が()使()()()()()件について。


「すいません、オレが油断したばっかりに………」


 ここ数日、『白馬』の襲撃はない。


 最後のエクセルの様子から、十中八九再び襲撃はあるだろう。


 しかし、襲ってきた手下のほとんどをイルが仕留めてしまったために、今は人手を補充している段階なのだろう。―――今は互いにとって小休止といったところだ。


「気にするな。―――まさか、そんな少女が『呪い』をもっているとは考えもつかないだろうしな」


 この世界には、『呪い』と呼ばれる能力(ギフト)をもつ者が居る。


 効果は他の能力(ギフト)同様、持つ人間によって様々だ。


 ―――だが、共通点がある。


 一つは、『他者が能力の対象であること』


 一つは、『効果が()()()残り続けること』


 一応、能力者本人が効果を解除することも出来る。―――また、効果ごとに制約があることが多々あるが………総じて、世間一般では『呪い』に属する能力(ギフト)は『強く』、『厄介』だ。


 能力者である少女が死んでも尚、ヨミヤを苦しめる能力封印(アンチ・ギフト)が残っていることから、この力が『呪い』であることが判明した。


「ごめんなさいヨミヤ………私を庇ったばかりに………」


 ヨミヤの手をギュッと握り、うつむくヴェール。


「いいさ。―――ヴェールになにもなくて良かった」


 ヨミヤは、そんなヴェールの頭をグシャグシャと力強く撫でて、何でもないように笑う。


「でも実際、どうするんすかアネキ?」


 ヴェールとヨミヤの隣で、モーカンはイルへ目を向ける。


「なんとか凌いだとはいえ―――アネキをあそこまで圧倒したヤツが現れた………ヨミヤも能力を封印されて、戦力は半減っすよ?」


「………」


「………」


 モーカンの現状を正しく分析した言葉に、ヴェールは押し黙り―――ヨミヤも考えに耽るように口を閉ざす。


「………」


 そんな中、イルは瞑目し―――やがてゆっくりとモーカンを見据える。


「………目指す場所は変わらない。―――むしろ、急いだほうがいいくらいだな」


 イルの方針に、三人が耳を傾ける。


「少なくとも、魔族領に入ってしまえばあいつ等は追って来れないだろう。―――魔族領で『人間』が暴れれば大問題だからな」


 イルの住んでいた村は確かに人間に襲われた。―――だが、実際に、イルが村を脱出したあとに魔王軍は兵を率いて帝国の人間を村から追い出したのだ。


 ヴェールが攫われてしまったがゆえに、イルにとっては遅い到着となったが、国単位の動きとしてはとても早い対応だろう。


「―――それに、今は『帝都前決戦』から日が浅い。国全体の緊張感が高まっている。国境近くの地域は魔王軍の監視が必ずあるはずだ」


「………了解っす。納得しました」


 イルの言葉にモーカンはうなずく。


「―――なら、『魔族領に入るまで』が勝負っすね」


「あぁ………敵はおそらく私達を逃がしはしない。―――勝負を仕掛けてくるのは、ココから、魔族域近くの町………『ダイン』に到着するまでの()()()だろうな」



 ※ ※ ※



小熱線(ミニ・レーザー)………」


 みんなが寝静まった夜中。


 ヨミヤは見張りも兼ねながら、一人、()()()()()()極小の熱線を照射する。


 地面には、魔法を発動するためのルーン文字———術式が描かれている。


「………ふぅ」


 やがて、何かの作業を終えたのか、みんなに聞こえない程小さなため息を吐き出した。


「………」


 そうして、ヨミヤは洞窟の入り口から、夜空を見上げながら思考を巡らす。


———『顔を上げろ』。


 喪失の痛みに、誓いを守れなかった痛みに藻掻いていたとき、イルが添えるようにくれた言葉をヨミヤは心の中でつぶやく。


「………」


 ヨミヤの戦いの中には、常に『領域』という頼もしい力があった。


 ただの情けない高校生に、力を与えてくれる能力が。


 そんな能力が、つかえなくなった。


 なくなった能力を補う力はない。


 少年の胸の中には、不安や恐怖が渦巻いた。―――その感覚は、両親が仕事で居なくなり、初めて留守番をさせられたときの感覚に近い。


 それでも、少年は『顔を上げる』。


—――不安だけど………怖いけど………それでも………っ


 自分の手元にまだ残るものを見つめ、周りをみて―――不安と恐怖を纏いながら………それでも立ち上がる。


「………ハーディさんにもっと習っとけば良かったなぁ」


 暗闇の中、立ち上がった少年は、腰を回してストレッチをして、大きく伸びをする。


「―――さて、やってみますか」


 ヨミヤは、地面に転がっていた古い魔導書と———剣を拾い上げた。

閲覧いただきありがとうございます。

ちなみに、ヨミヤくんが、イルさんや自分のケガを治しました。

回復魔法って便利だね。『領域』には消費魔力軽減の効果もあるので、ヨミヤ君はフラフラになりながら治療しました。

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