ロスト・テリトリー イチ
『エクセル』と名乗った男は、魔族の少女を『爆弾』に変えた。―――魔法の発動に必要な『魔法名の発声』が聞こえたのだ。確実に犯人は目の前の男だ。
年端も行かぬ———ヴェールよりも少し大きいだけの子どもを………殺した。
それだけじゃない。
ヴェールやイルを———心を交わした人達を『家畜』と、侮辱した。
そして、
あろうことか、男は彼女達を『貰う』と———そう宣言した。
「待てッ!!!」
揺れる視界は知らない。
震える足は知らない。
『誰も傷つけさせない』
それだけを繰り返し頭の中で反芻して———立ち上がる。
「へぇ、細っこいザコかと思ったが―――意外とタフだな」
「二人の元には………行かせない!」
ヨミヤが喰らった攻撃は、拳のみ。
しかし、それだけであり得ない程のダメージが溜まっている。―――その事実だけで、目の前の男の強さが分かる。
だが、それでも男へ立ち向かうため、ヨミヤは立ち上がる。
———喰らった感じ………『身体能力補正』はシルバーより下。だけどコイツは………魔法を使う。
血がつたう口端を拭い、ヨミヤは分析を重ねる。
———炎の魔法をアイツは『苦手』といった………その口ぶりだとおそらく………
エクセルには得意な魔法がある。
そう結論づけるヨミヤ。
「いいねぇ、その気概。―――まぁ、敵わないだろうが………来てみろよ?」
対して、エクセルは堂々とした態度を崩さない。
それどころか、完全にヨミヤを見下した表情で見つめている。
「それは………やってみないと分かんないだろ!!」
次の瞬間、ヨミヤは黒腕の爪を限界まで伸ばし、同時に剣を構えて走り出す。
剣を構えもしないエクセルは———
「―――わかるんだよコレが」
次の瞬間、ヨミヤの前から掻き消えた。
「っ!?」
急停止する少年。
———これは………!
エクセルが移動していることは分かる。
理由は単純。
紫紺の光が暗闇に軌跡を描いているからだ。
その軌跡が、エクセルが移動している証だというのはヨミヤにも理解できる。
だが、速すぎる。
そのスピードは、黒林檎の力で身体強化されているヨミヤにも捉えることが出来ない。
「ほら」
刹那、背後からの声。
「ッ!!」
咄嗟に剣を振り上げながら身体を反転させることで、エクセルの剣をギリギリ受け止める。
「反応いいじゃねぇか」
「………お前が声をかけたからな」
今にも押しつぶされそうな力で剣を押し込んでくるエクセルに、ヨミヤは歯を食いしばりながら返答する。
「ありゃりゃ………」
エクセルは、そんなヨミヤの言葉にわざとらしくリアクションを見せて、
「でもいいのかぁ? ―――俺の剣を、そんな長時間受け止めて?」
底意地の悪い笑顔を振りまいた。
「………何が言いたい?」
しかし、当然ながらヨミヤに男の言葉の意味は分からない。
「まぁ………こうゆうことだ」
そしてエクセルの剣………その刀身に刻まれたルーン文字が淡く光り出し―――
「発電」
「ぐァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!?」
エクセルの剣から電流が発生し、ヨミヤの全身を貫く激痛が発生した。
「いい加減に焼けちまったなぁ?」
「―――ぁ」
エクセルは、感電し動けないヨミヤに、容赦なく剣を振り上げ———
「させない」
二人の間に割り込むように、大樹が現れた。
閲覧いただきありがとうございます。
上着を着ると暑い、脱ぐと寒い。
ということで、最近は服装に悩みまくってます。




