少女達 サン
「騎士が突入してきたときにはもう………囲まれていた?」
宿の中しか探知の魔法で探っていなかった自分自身を呪いながら、ヨミヤは呟きを落とす。
「―――今は敵方の動機を考えている余裕はないぞヨミヤ」
眼下で様子を伺っている騎士達を睥睨し、イルは剣を引き抜いて、静かにヨミヤへ告げる。
「………そうですね」
イルの言葉に、最優先を『現状打破』に切り替えてヨミヤは外の様子を伺う。
「………どうします?」
「………まぁ、私とヨミヤが二人を担いで全力で逃げるしかないだろうな」
『二人を守りながら大人数と戦いたくない』とイルは付け足して自分の意見を述べる。
「わかりました」
ヨミヤも、イルのその意見に特に反対することはない。
「じゃあ、ヨミヤ。丁重に頼むぜ!」
イルとヨミヤの作戦会議が終わったと察したモーカンは、早速ヨミヤに自分を担ぐようお願いするが―――
「何を言っているモーカン」
その肩をイルが容赦なくつかんだ。
「お前は私が担いでやる」
「え………? 逆にいいんすかアネキ?」
ちなみに、モーカンにとって、美人なイルに担がれるのは役得であるらしい。
のだが―――
「あぁいいぞ」
不敵に笑うイルは、モーカンの言葉を了承して———言葉を続けた。
「私の力は剣を抜いてないと使えなくてなぁ………抜き身の刃をチラつかせながらヴェールを抱えたくなかったんだ」
軽々と大男のモーカンを肩に担ぐイル。
そんなモーカンの視界には、常に月光を反射させてチラつく刃が映る。
「あ、あはは………そうっすよねぇー………」
あくまで娘が大事であるイルに、モーカンは冷や汗を垂らした。
「………いいかいヴェール?」
「うん、ヨミヤになら………もちろん!」
ヨミヤがヴェールへ確認を取ると、彼女は先ほどの不安そうな顔がウソのように微笑んでいる。
不安そうな顔を見せなくなったヴェールに、ヨミヤも笑いかけながら彼女を抱える。
「いいかヨミヤ? 外に出たら、最高速で町の北門を抜けろ」
イルは、北門があるであろう、魔獣除けの外壁を指さし―――ヨミヤも頷く。
「確かそれほど遠くないところに森があったはずだ。―――合流地点はそこだ」
「わかりました。………イルさんは?」
「私は、この魔剣の力をつかって足止め用の樹木の壁を作ってから逃げる」
外で待機している騎士の声が大きくなる中、ヨミヤは、イルの言葉に声を上げる。
「イルさん、足止めならオレに———」
多対一の戦闘が得意なヨミヤは、イルにそう提案して———
「ダメだ」
敢え無く却下される。
「きっとお前なら、外の騎士を片付けるなんて余裕だろう。―――しかし、それじゃあダメだ」
「………なんでです?」
イルの言葉に、内心むくれている心を隠しながら、ヨミヤは冷静に問いかける。すると———
「お前は、この旅を終えた時に帝国に戻るだろう」
「………はい」
少年の脳裏に、再会を誓ったアサヒの顔が過る。
「むやみに被害を出して、人間の中に敵を作るな。―――再会すらままならなくなるぞ?」
「………!」
イルは見据えていたのだろう。
少年が、自分たちを送り届けた後のことを。―――確かに、それならば、帝国の騎士にはあまり手を出さない方がいいのだろう。
それこそ、戦闘中に何かの間違いで騎士を殺害してしまえば、大騒ぎになるだろう。
ヨミヤは、イルの言葉に、浅慮な自分を恥じる。
「出てこい!! いるのはもうわかっているぞ!!」
そのとき、宿の一階から騎士の怒号が響く。
「さ、もう時間がない。―――娘を頼むぞ」
「………はい!!」
そうして、二人は勢いよく窓の外へ飛び出した。
※ ※ ※
「おい、『ターゲット』はどうなった?」
森の中で男たちは蠢く。
「はい、予想通り『北』を目指しているようです」
悪意を膨らませて、まだか、まだかと、その感情を破裂させる時を待っている。
「まぁ、予想通りだなぁ」
少年は知らなかった。
「ま、予定通りにやれよ家畜?」
自分の経験した悪意が、まるで『お遊び』だと笑われるほどの悪意を。
閲覧いただきありがとうございます。
ちなみに、現状、ヨミヤを止めることは、その辺の騎士には出来ません。
つまり無双状態ヤッター!
そんなアナタ、次回は必見ですよっ




