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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
罪科の犠牲編
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少女達 イチ

 『メフェリト』を旅立ち、二か月がたった頃———


「着いたぞ………」


 ヨミヤ一行は、魔族領に二番目に近い町に到着していた。


「『前線基地』の町を除けば、帝国領で立ち寄る町最後になる」


「ついに来たっすね…」


「うん………あと………あともうちょっとだね」


 モーカンとヴェールが口々に言葉を零す中、イルはヨミヤに目を向ける。


「………本当にいいのか? 魔族領に入れば、また帝国領に戻ってくるのは―――骨が折れるぞ?」


「いいんです。―――イルさん達をしっかり送り届ける。これがオレの『やりたいこと』何ですから」


「そうか………」


「いいじゃないすかアネキ! ヨミヤが居れば道中も安心っすから!!」


「………お前は自分が安全で居たいだけだろう」


 モーカンの調子のいい言葉に、『申し訳ない』という顔をしていたイルの目が半眼になる。


「ほらほら、いいから行きましょアネキ!」


「あ、そこに商会の連中が———」


「ㇶィ!?」


「………冗談だバカ」


 イルが珍しく意趣返しと言わんばかりに、割とシャレにならない冗談を言う。


 モーカンは、そんなイルに、冷や汗を大量に垂らしながら『ひ、人が悪いんだからぁ………』と彼女の後をついて行く。


「………………」


 そんな中、少女(ヴェール)は一人佇む。


「………? どうかしたのヴェール?」


 そんな彼女の異変に気が付いたヨミヤが、振り向く。


「………」


 ヴェールは、少年の目を見つめて――――――やがて頭を横に振った。


「大丈夫だよヨミヤ」


「………………そう?」


 いつものような優しい笑みを見せるヴェールは、駆け足でヨミヤの隣まで寄ってくる。


「うん、大丈夫。―――町についたら一緒に買い物行こう?」


「………あぁ、そうだね。また長旅になりそうだし………いっぱい買っていこう」


「荷物は私が持つね」


「いやいや、オレがもつよ」


「ダメだよ。いざとなったら私が一番やることないんだから———こんな時は私がやるの」


「―――じゃあ、半分こだね」


「えぇー………」


 他愛のない会話を繰り広げ、魔族の少女と、異世界の少年は先に行った二人を追いかけた。



「へへっ、このリンゴもーらいっ」


「あーっ! それ私がお母さんに買ってもらったヤツ!」


「知らねーのか? こうゆうのは早い者勝ちだ」


「ぬー………私を攫って売り飛ばしたくせにぃ………」


「待て待て待て………それを言われたら俺は何も言えなくなるだろうがぁ………」


「いいもん! モーカンさんがまた私を売り飛ばそうとしてるってお母さんに言うもん!!」


「本当にヤメテッ!? マジの本気で殺されるッ!?」


 大の男が幼女に土下座する様がヨミヤの後方で繰り広げられる。


「………いいんです? ほっといて………?」


 少年は、思わず前方を歩くイルに耳打ちをする。


「いいんじゃないか?」


 が、一方のイルは、二人のやり取りに介入する気はないようだった。


「ヴェールは、あのバカのことを許した。私個人の恨みは正直まだあるが―――今は本人たち同士のやり取りだ。私達が口を挟む必要はないだろう」


 この旅が始まって最初の夜。


 モーカンは今のように、ヴェールへ土下座した———謝罪したのだ。


『いいよ。ひどい目にたくさんあったけど――――――私はヨミヤと………お姉ちゃんに出会うことが出来たから』


 この言葉は、モーカンの謝罪を受け入れたヴェールの言葉だ。


 結局は、ヴェールにとって、奴隷時代(あのころ)がなければヨミヤやシュケリに出会うことが出来なかったということなのだろう。


 大人からすれば『結果論』だと言わざるを得ない。


 だが、ヴェールにとっては、どんな酷い仕打ちも水に流せるほどの宝物があったということなのだろう。


「………まぁ、イルさんがそういうなら」


 ヨミヤも、ヴェールの保護者であるイルの言葉に頷くほかない。


 そんな少年の態度を知ってか知らずか、イルは再び口を開く。


「ヨミヤ………お前と、シュケリという娘———二人には感謝してもしきれない」


「もう………何度目ですかイルさん」


 『ヴェールを保護したことへの感謝』―――そう受け取ったヨミヤは、少しだけ呆れたように謙遜しようとして、


「違うんだよヨミヤ」


 隣に来たイルに見つめられ、ヨミヤは言葉を遮られた。


「あの子は―――ヴェールは見違えるほど成長した」


「え………?」


 夕焼け空。暗闇が迫る市場で、イルは遥か大空を見上げる。


「『誰かの言葉を受け止める力』『誰かを赦し、一歩を踏み出す力』………私の娘とは思えない程、健全で———尊い強さをヴェールは身につけつつある」


「………」


 山吹色が、紫紺を経て濃紺に代わる空。その中で、一番星が懸命に光り輝く。


「お前とシュケリが居てくれたから………家族以外の大切なものを見つけたから、あの子は強くなったんだ」


 『———だから、ありがとう』。


 娘の成長を喜ぶ(イル)は、ヨミヤが見てきた彼女の表情の中で、一番穏やかな微笑みを浮かべていた。


「………貴女と、ヴェールの力になれたのなら………何よりです」


 言葉を返し………イルと共に空を仰いだヨミヤの目には、何よりも輝く一等星は眩しすぎた。

閲覧いただきありがとうございます。

人の目がたくさんあるところで土下座なんかしてはいけません。

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