悲劇の前に休息を イチ
「ヨミヤ!! お前は私たちを殺す気か!?」
崩れて陥没した元・坑道から、大量の瓦礫を弾き飛ばしてイルが現れる。片手には気絶したモーカンを引きずっていた。
「いやぁ、アイツの結界、どんだけ耐久力あるのか見たかったんですよ」
イルの怒りも最もだと感じていたヨミヤは、怒りながらスネを蹴ってくるイルに何も言い返すことはしなかった。
※ ※ ※
「ヨミヤ。これを持っていけ」
『血の一本角』の戦いから一時間ほど。イルより『待っていてほしい』と言われたヨミヤは、もはや化け物を見るような目で見てくるモーカンに居心地の悪さを感じていた。
そんな折、何やら作業をしていたイルから一つのバッグを渡された。
「………………これは?」
「さっきのスケルトンが着ていた修道服から作ったバックだ。――――――お前、なぜだかわからんが、何も持ってないだろう? あった方が便利だと思ってな」
「い、イルさん…………………!」
こんなに気の回る女性がいただろうか………いや、居ない!!
そんな感動とともに、ヨミヤはバックをありがたく受け取る。
バックは、片手しか使えないヨミヤのことを考えてか、ショルダーバックのような形になっていた。中をのぞくと、宝石のはめ込まれた指輪が複数と、一冊の本が入っていた。
「中のこれは………………?」
「さっきのスケルトンが落としたものだ。宝石類と………あとの本は魔導書だろう。お前があのスケルトンを倒したんだ。持っていくといい」
「………………本当にありがとうイルさん」
「いいんだ。お前には助けられた義理がある」
ヨミヤの感謝の言葉に、イルも笑って言葉を返す。
そんな時だった。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
男の声と思わしき悲鳴が、かすかに遠くから聞こえた。
周囲は、起伏のない平原。音が遠いということは、自然と、発生源は遠方だと推測できる。ヨミヤとイルは、その常人離れした視力で周囲を見渡し―――
「あれは………………商人?」
イルが指さす先には、馬車を懸命に走らせる、身なりのいい男がいた。
「追いかけられてますね………」
続いて、ヨミヤが馬車の後方に、魔獣の群れが迫っているのを発見する。
「…………………」
『助けた方がいい』ヨミヤの中の常識がそんなことを呟くが、一方で、魔族であるイルの存在を考え、ヨミヤは動き出すのをためらってしまう。
助けた後に、変なトラブルになれば、彼女を無暗に傷つけることになる。そんなことを考えるヨミヤ。
「いくぞ、ヨミヤ」
だが、以外にも、イルはためらうことなく動き出した。
「馬車の近くの魔獣は私がやる。馬車から離れている魔獣は頼む。………………それと、そこのクズの見張りもな」
「えっ、あっ………………はい………」
イルはそれだけ言い残すと、一本角のスケルトンが落とした修道服………その布切れを頭に巻いて走り出した。
「………」
目算、一キロほどはあるだろうか。
「ひぃ!?」
魔獣の群れを見つめたあと、ヨミヤは小さく悲鳴を上げるモーカンの首元をつかんで持ち上げ、魔法の当たりやすい位置まで移動した。
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今回は二話同時投稿です。