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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
罪科の犠牲編
188/270

喧騒遊行 ニ

「あれっ、ヨミヤ………モーカンさんは………?」


 北の地と、南方―――『メフェリト』や帝都を繋ぐ宿場町『ティリス』。


 その市場にて、旅の物資を買っている最中のイルとヨミヤとヴェール。―――もちろん、二人ともその特徴的な髪を隠し、ヨミヤの魔法で瞳の色を変えている。


 イルを手伝うために、両手に抱えるほどの荷物をもつヴェールは、姿の見えないモーカンのことについて言及する。


「あぁ、今日は模擬戦の日だったからね………今はいつもの訓練メニューをこなしてるんじゃないかなぁ………」


「そ、そうなんだ………」


 これまでの旅の中で、モーカンの訓練のことを知っているヴェールは、ヨミヤの言葉に少しだけ遠い目をしていた。



「ヨミヤ」 



 不意に、イルがヨミヤへ声をかける。


「なんですかイルさん?」


「―――見張られている」


 旅の物資を選定するイルは、目線も向けず静かにヨミヤへ告げる。


 横顔から覗く切れ長の瞳を見つめ―――ヨミヤはそのままイルと言葉を交わす。


「―――すいません、気が付きませんでした」


「いい。探知の魔法はこの群衆の中では意味がないからな。―――気づかないのも仕方ない」




 イルとモーカンは、奴隷商会『白馬』に追われている。


 砂の町『サール』にて、ヴェールを攫って『フレークヴェルグ』の統治貴族に売った奴隷商会を潰したイルは、それ以降、定期的に『白馬』の刺客に狙われるようになったらしい。


「近くにいるんだヴェール」


 娘の手をそっと握り、引き寄せるイル。


「どうするのお母さん」


 ヴェールも、母にできる限り近づき、不安そうな表情を見せている。


「大丈夫だ。―――必ず守ってやる」


 イルは、一層強くヴェールの手を握る。


「そうだよヴェール」


 そんなヴェールの頭にヨミヤも手を置き―――そっとヴェールの目を見て、力強く笑って見せた。


「………視線が明け透けだな」


「素人ってことですか?」


「いや、さっきチラッと見たが―――荒事には慣れてそうな連中だった。大方、金で雇われた傭兵か何かだろう」


 イルの見立ては、尾行・監視に慣れていない傭兵ないし、傭兵崩れだろうとのことだった。


「逃げますか?」


「いや、追跡されるのも面倒だ。―――それにあの手の連中は、隙を見せればすぐに食いつく。ならやることは一つだろう」


 イルの言わんとすることを理解したヨミヤは、視線を巡らし―――一本の路地裏見つける。


「………」


「………」


 少年が路地裏を見て―――次にイルへ視線を移せば、返ってくるのは小さな頷き。


 少年は、そのまま一つ商品を手に取って、店主へ金銭を渡し―――その足で路地裏へ足を踏み入れる。


―――………反応が集まる。


 探知の魔法で、気配が路地裏に集まることを確認したヨミヤは、そのままイルとヴェールを庇うように、二人を壁際に追いやる。


「………なんだ、その反応は気づいてやがったな」


 そんな折、一人の男がヨミヤへ言葉をかける。


「ま、俺ら監視(こーゆーこと)慣れてねぇからなぁ」


 どう見たってガラの悪い目つきの男だ。


 そして、その男の言葉に反応するように路地裏を男たちが埋める。―――ちなみに、反対からも仲間と思わしき男たちが現れたため、完全に囲まれている。


「ま、ガキ一人と、魔族とはいえ女二人………ボコしちまえば問題ないだろ」


 下卑た笑みを浮かべる男たち。


 ―――どこか下心の見え隠れするその表情に、イルの態度が氷点下まで下がっている。


 目の前の男たちは、そのことに気が付いていないようだが、イルを庇うように前にいるヨミヤは、絶対零度まで下がりかねないイルの機嫌に、冷や汗を搔いている。


「い、イルさん………アイツ等、オレが片付けるんで………そ、その今にも人を殺してしまえそうな目をやめてください」


「………なんだ、いいじゃないか。―――そのまま殺してしまえば。そんな(けだもの)たちなぞ、人の中でも、魔族の中でも害にしかならんだろう」


 『ㇶィ』と喉が引きつる声を発するヨミヤ。


「おいおい、お前らはバカか?」


 そんな中、空気も読まず口を挟むのは最初に現れた男だ。


「普通に考えて、この人数に勝てる訳ねぇだろ? 『片付ける』とか出鱈目言ってんじゃねぇ!!」


 男の唾が、目の前にいるヨミヤの顔面に掛かり、心底嫌そうな顔をする少年。


 男は、そんなヨミヤに構いもせず、イルへ視線を向けた。


「―――安心しろよ? 奴隷になる前に、最高の思い出を作ってやるからよぉ………」


 舌なめずりする男。


 同時に周囲の男たちから笑いが起こる。


―――ヤバいっ………!


 次の瞬間、イルの刃が閃いて―――


「ぐァッ!!?」



 ヨミヤの風の弾丸が男の側頭部にぶち当たった。



「お、お前ら!! オレが相手だぁ!」


「………チッ」


 ヨミヤは背後から聞こえる舌打ちには極力意識を向けず、高らかに宣言した。


「このクソガキ!!」


「ぶっ殺してやる!!」


「刻んで家畜のエサだガキィ!!」


 同時に、男たちの怒りが噴出。


 荒くれ達がヨミヤに殺到し―――


「感謝しなよ………ホント」


 刹那―――


 風の弾丸が、余談なく、仮借なく、一寸の狂いもなく、男たちの頭部を直撃し、


 ()()()()()の意識が刈り取られた。


「………………」


「わぁーお………」


 静まり返った路地裏に、ヴェールの感嘆が響いた。

閲覧いただきありがとうございます。

『能力3』にて、ヨミヤの『領域』範囲を『5メートル』と記載していましたが、ミスです…

現在、彼の領域の範囲は『半径60メートル』でございます。

ぶっ壊れですね。

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