暗闇の中の灯 イチ
「ヨミヤ………っ!」
ヴェールの眼前に広がるのは、地平線の彼方まで広がる分身体の群れ。
少年はその中で、大規模魔法や強化された身体能力をもってして無限に沸き続ける敵を葬り続ける。
「なんでヨミヤくんが強くなったのか分からないけど………こんなのジリ貧だわ………!」
ハーディの目から見ても、今のヨミヤは想像を絶する強さだ。
それこそ第一階級魔族―――否、彼らの頂点に君臨する『魔王』にすらきっと届き得る。
だが、いくら何でもこの状況は無理だ。
文字通り数が違いすぎる。
「どうにかしないと………」
しかし、今のハーディには魔法を使うことができない。
そして、彼女の持つ能力も、すべて魔法に関するもの。生粋の魔法使いである彼女は、今現在、この場所では誰よりも無力な存在だった。
「………………ッ」
状況を打開できない自分を呪い、密かに歯を食いしばるハーディ。
その時だった。
「………え?」
汚泥の中より、突如として『魔工具』であろう、ランタンのような照明が現れたのだ。
「………」
あまりに唐突すぎる来訪者?にハーディは状況を飲み込めずにいる。
ちなみに、ヴェールはヨミヤの方を一生懸命見つめているため、ハーディの目の前に現れたランタンのことに気が付いていない。
「………なにコレ?」
片腕は泥の中に固定されて動かせないため、もう片方の手で恐る恐るハーディはランタンに手を伸ばす。
「………あったかいわね」
ちなみに、中に炎が灯っているため、手を近づければ否応なしに暖かい。
「………」
そして、ランタンを手に取り再びまじまじと謎のランタンを見つめるハーディ。
「―――………まてよ」
長寿のエルフは、そこであることに気が付く。
「………この照明、見たことがあるぞ」
そう、突然現れたこのランタンのことをハーディはどこかで見たことがあったのだ。
―――どこだ………?
深い記憶の海を泳ぎ、無我夢中で目の前の存在を思い出そうとするハーディ。
エルフの勘が告げていた。
この意味が分からない『魔工具』の存在を思い出せれば事態が動くと。
「――――――!!」
刹那―――
『………いくら考えても、『使用者に依存しない魔力供給方法』が思いつきません』
『―――他の機構はもう完璧なのにね』
脳裏に浮かび上がる、在りし日のやり取り。
研究室の中で、必死に『魔工具』の機構をイアソンと検討していた時。
「これ………イアソンと初めて作った………『魔工具』?」
おそらく人類初の『魔工具』。
ヒューナの危篤の報せで壊れてしまった、良くも悪くも忘れることのできない『思い出』。
「イ………ア………ソン………?」
その時、照明が一層光を増して―――
『師匠』
止まった時間の中、イアソンが姿を現した。
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誰かに良い意味で覚えてもらえているって嬉しいですよね。




