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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編
169/270

夜の記憶・影 ヨン

「クッ………!?」


 血の刃を携えたガージナルの分身体が、上空よりアザーへ襲い掛かる。


 アザーはその攻撃を紙一重で回避するのだが、


「ッ!?」


 突如として強烈な力に引っ張られ、アザーは地面に倒れ込む。


 その瞬間を待っていたかのように、今度はアルドワーズの分身体が寝転がるアザーへ拳を振り下ろす。


「………ッ」


 アザーは魔族の中でも俊敏性に優れる獣魔族。おかげでギリギリで分身体の拳に反応することができ、拳を受け流すと同時に身体を捻り、分身体の顔面を蹴り飛ばしながら起き上がる。


「油断すんなアザーッ!!」


 しかし、休む間もなくシルバーの怒号が響く。


 その声に反応して、上空を見上げれば、セラドンの分身体が操っていると思わしき巨人の背より、大口径の砲弾がアザーに撃ち込まれたのだ。


「しまっ―――!!」


 目を見開くアザー。


 しかし、砲弾は真横から()()()()()()()に打ち落とされる。


「立て!! もう俺も余裕はない!!」


 斬撃を飛ばしたのは、シルバーだった。


 シルバーは自分の分身体とアザーの分身体、それとアルドワーズの分身体を相手にしながらアザーに迫る砲弾を撃ち落としたのだ。


「あぁ………ッ! 悪かった………!」


 アザーは、右手に残った魔爪で風の刃を生成し、遠くに浮かぶセラドンの分身体を撃墜し、再び戦いへ戻る。



 ※ ※ ※



「あれは剣崎君の分身体………!?」


 避難所の中、避難してきた住民が襲い来る分身体の波に怯えながら互いに抱きしめあう中、茶羽は小窓より門正面で戦い続けるヒカリ達へ目を向けていた。


 そこには、次々と強敵の分身体を屠りながらも、時折現れる『ヒカリの分身体』と思わしき敵に若干苦戦しているヒカリが居た。


―――千間君がウーズ・ブレイクと『繋がった』から、彼が今まで戦った敵が再現されている………?


 すべての分身体を見渡しながら、茶羽は一つの仮説を立てる。


 だが、同時に、もう一つの最悪な仮説も脳裏に浮かぶ。


―――………もし、この分身体達が、『千間君が喰われた為に生まれたもの』だとしたら………


 そこまで思考を巡らせて、茶羽は全力で頭を振った。


「………今は信じるしかない」


 言い聞かせるように呟いた後、茶羽は地面に描いた術式へそっと手を触れながら外を見つめて―――


火球(フレイム)


 次の瞬間、窓の外に無数の火球が現れ―――ヒカリの分身体や、ガードの薄そうな分身体へ火球が殺到した。


 そう、茶羽は戦況を見ては、援護が必要だと判断したときに室内から魔法を発動させてみんなを援護していたのだ。


「………っ」


 しかし、分身体の種類が増えたと同時に、ヒカリ達が一体一体の処理速度が低下し、先ほどから高頻度で魔法を撃たなくてはならなくなっている。


 そのため、茶羽の魔力は底が見え始めていた。



「………私も手伝いましょう」



 その時、茶羽の隣で膝を折る男性が居た。


「あなたは………?」


「ナーガマ―といいます。―――私にも此処に避難した一人として、一緒に戦わせてください」


「あ、ありがたいんですけど………魔法、使えるんですか………?」


 白髪交じりの短い黒髪の、『中年』と呼ぶには少し年のいった男性―――ナーガマ―は、そっと術式へ視線を落としながら、茶羽の言葉に少しだけ笑って見せる。


「これでも、術式について何度も検討してきた。―――初級魔法の一つや二つできますとも」


「ははっ………頼もしいですね。―――それじゃあ、お願いします」


 魔力温存のため、茶羽はナーガマ―と位置をかえ、自分は状況をみて、必要な箇所に援護を送る役に徹する。


―――そういえば分身体が増えてからフミ君のところまで意識が向かなかったけど………


 不意に、加藤の戦う街の外側のことを思い出し、茶羽は急ぎ足で反対側の窓へ向かい、外を伺い―――


「―――誰………?」


 見知らぬ女性がいつの間にか加藤の代わりに戦っており、茶羽は混乱する。


「………ぇ、フミ………くん………?」


 状況が状況なだけに、行方の分からなくなった加藤を心配して、キョロキョロと避難民の中に加藤を探す茶羽。


 その時―――


「おい、治療できるヤツ居るか!?」


 いかついモヒカン頭の男が、突如として現れ、そんなことをどんよりとした中で叫ぶ。


 普段の茶羽なら、そんなモヒカン男のことを白い目で見つめるのだが―――


「フミ君!?」


 その男の背に、加藤が背負われていることに気が付くと、茶羽は男に代わって加藤を地面に下ろし、彼の顔を覗く。


「ごめんセーちゃん、しくじった………」


「フミ君………」


「大丈夫。スゲー痛いけど………死ぬ傷じゃない………」


 血まみれの顔で茶羽に笑いかける加藤。


「大丈夫セイカ。―――すぐ治す」


 その時、モヒカンの男を押しのけて現れたアサヒがすぐさま加藤の治療に入り、あっという間に加藤の傷を治癒してしまう。


「た、助かった真道………」


「いいのよ」


 アサヒに礼を告げる加藤はゆっくりと身体を起こす。


 隣にはまだ心配そうな茶羽の顔がある。


「心配かけたね」


「うん………」


 茶羽が頷くのを見た加藤は、そうして立ち上がり、街の外側を覗く窓へ視線を向けた。


「今、外で戦ってる人のことは良く知らないんだけど………多分味方。外側の守りはあの人だけで十分だと思うから………俺は街の中で剣崎とタイガ君をサポートしてくる」


「………わかった」


 心配そうな顔の茶羽だが、状況が状況なだけに、人材を遊ばせておくわけにいかず、渋々加藤の提案を受け入れる。


「また怪我したら戻ってきて。―――絶対治すから」


「頼もしいね」


 半眼の加藤は、そうしてすぐに戦場に戻っていった。



 ※ ※ ※



―――凄い数だ


 街の外で戦うイルは、次第に増えていく分身体の数に少しだけ焦燥感を覚えていた。


―――この感覚は………魔獣の処理が追い付いていない感じだな


 最初こそ、外壁上で戦う者達の奮闘で、イルの所までくる分身体は少なかった。


 だが、デビル・スケルトンを模した『結界型』と有翼型のみが居た当初と比べ、今では明らかに人の形を模した分身体まで襲い掛かってくるようになっていた。


―――あれは………なんだ………?


 イルは、上空から迫るガージナルの分身体の攻撃を一歩ずれるだけで回避し、そのままその首を落としながら、不意に後方に現れた飛んでいる巨人へ意識を向けた。


―――人………ではないな


 刹那―――


「ッ!?」


 突如として、発砲の轟音と共に、一発の砲弾がイルに迫った。


 イルは、脳内の警鐘に促されるまま全力の跳躍にて回避。次の瞬間には、彼女が居たところは爆発によりはじけ飛んでいた。


「なんだコイツは………!?」


 セラドンの分身体。


 それは、フォーラムの幹部だったアザーとシルバーだからこそ、その巨人の攻撃に反応できただけ。


 故に、フォーラムに何の関係もないイルが反応できないのも仕方のないことだった。


―――とりあえず様子を………!


 しかし、巨人の背には二本の鉄の筒。―――次の瞬間には、もう一発の砲弾がイルへ迫る。


「くッ………!?」


 咄嗟に、水を操る『アーヤル』より水を噴出。水の勢いで空中から無理やり移動を行い。間一髪でイルは砲弾より逃げおおせる。


 が―――


「………ッ!!!!」


 行き場を失った砲弾は、そのままイルの後方に控えていた―――街の外壁に直撃した。


 イルは確信していた。先ほど負傷した少年も、外壁の上で戦う者達も、全員が『外壁』を守るように戦っていたことを。


―――不味いか………!


 急いで外壁の中の様子を伺うイルは―――



 そこでヴェールが、見知らぬ女性と共に術式の真ん中で座るのを見た。



「ヴェー………ル………?」


 そう、セラドンの分身体が打ち抜いたのは、多層構造の外壁の中でも、ハーディとヴェールが魔法を唱えている階層だったのだ。


「ヴェールッ!!!!」


 奴隷商に攫われた娘がなぜここに居るのかはわからない。それでもイルは必死に娘の名を呼ぶ。


 しかし、イルを囲む分身体は決して彼女に配慮することはない。


 セラドンの分身体が再びヴェールへ向けてその砲身を向けていた。


「!?」


 その事実に気が付いたイルは、その落ち着いた相貌を豹変させた。


「娘に………手を………」


 地面より現れる大木。


 それらを雷霆のごとく飛び回り、目にも止まらぬ速さでセラドンの分身体の上空へたどり着いたイルは魔剣『ヤグルージュ』を大きく振りかぶり―――


「出すなッ!!」


 一閃。


 砲身ごと真っ二つにされた分身体は、そのまま爆発四散した。


 『大木と冷雨の騎士』イル・ヴェルダが覚醒した瞬間だった。

閲覧いただきありがとうございます。

昔から「~の騎士」みたいな二つ名ってカッコいいなぁと思ってた中二病です。

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