夜の記憶・影 イチ
「一日に二回も死にかけるとは、いい経験だなクソっ!!」
後方に、住民達の避難する外壁を背負いながら、タイガは大げさに地面へ寝ころんだ。
「畜生、流石に疲れた………」
「………」
ヨミヤの魔法が発動するのを確認した後、ウーズが静止した。
その光景を見て、事態が収まったと認識したタイガは、緊張を吐き出すように声を上げたのだ。
―――しかし、タイガの態度とは正反対に、ヒカリはジッと『ウーズ・ブレイク』をみて黙り込んでいた。
「………? どうしたヒカリ?」
「立てタイガ………」
そして、ヒカリは静かに親友へ警告を告げる。
タイガは、ヒカリがそんなことを言い出す理由が分からず首を傾げる。
「なんだよオイ………千間がもう魔法を発動させたろ。現に、あのデカブツは動きを止めた。―――俺らの仕事は終わっただろ?」
「いや―――嫌な予感がする………いいから立つんだ」
直感のまま言葉を紡ぐ親友を、とりあえず上半身だけ起こして見つめるタイガ。
刹那―――
『ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
『ウーズ・ブレイク』の何度目とも知れない甲高い咆哮が街中に木霊した。
「クソッ!? 一体何だってんだ………!!」
「おい………タイガ、アレを見ろ………!」
『ウーズ・ブレイク』の分身体は大きく分けて二種類。
成人男性程の魔獣『ハーピィ』のような『有翼型』、四メートルの巨躯を誇る二足歩行の魔獣『グレンデル』のような『地上型』だ。
そのため、分身体の襲撃には『有翼型』と『地上型』の対策をしなければならない。
―――のだが。
「おい、シルバー………アレは………どうゆうことだ」
「はっ………知るかよ。俺が知りたいところだ」
千間ヨミヤの『潜水』後、初めて『ウーズ・ブレイク』が咆哮をあげたと同時に現れたのは、『ハーピィ』でも『グレンデル』のような分身体でもない。
全長六メートル以上はある四足歩行のトカゲのような分身体。
空を浮遊する人型の分身体。その周囲には薄い泥の結界が張られている。
剣と鎧のような恰好の分身体。その背丈はヒカリにそっくりだ。
「あぁ―――いや、あのデカブツ………アルドワーズとセラドンを喰ったんだろ? 趣味が悪いにもほどがあるが………あり得るな」
しかし、アザーとシルバーは新しい分身体に驚いているわけじゃない。
新たに出現した分身体の中に、『フォーラム』の幹部陣―――ガージナルや、セラドン、アルドワーズ………果てには、アザーやシルバーと思わしき分身体までいたのだ。
「そうか………あのウーズは喰った人間を分析して姿をマネた………なら、喰ったアルドワーズ様やセラドンや………彼らと関係の深いガージナルや―――我らまで記憶を読み込み、模倣したというわけか………」
まるで苦い果実でも噛みつぶしたような表情を浮かべるアザーは、次の瞬間、獣魔形態へ姿を変える。
「模倣された人間達の能力は勿論、見たことない分身体まで生み出されている………全力で行かないと、飲み込まれるぞシルバー」
「ったく………やっと終わったと思ったのにこれかよ………」
シルバーは、身の丈を超える長剣を地面から引き抜き、軽く払ったあと、肩の上に剣を乗せて『ウーズ・ブレイク』を睨みつけた。
閲覧いただきありがとうございます。
さて、今回出てきたフォーラムメンバー以外の分身体はだーれだ?




